カタルシス……………………………36mg
──なんで……?
──なんで、魔法少女同士で戦っているの?
「紡希! 前に集中してください!」
「紡希! しっかりしてくださいまし!」
「紡希ちゃん! 攻撃来るよ!」
前方に玲奈、梨乃、がこちらを振り向いて、絆は前方を見据えたまま叫んだ。
そのさらに前方には海桜と蒼が、一人の魔法少女と戦っている。
魔法少女は魔獣に立ち向かうべき存在なのに……
魔法少女は皆で手を取り合っていかなくちゃいけないのに……
──味方同士で争うなんて絶対におかしいよ。
…
会議後の次週土曜日。その晩。私達はメデューサのもとへ向かっていた。
「これいつまで歩くんだよ。いったいメデューサは何処にいるんだ」
蒼は道端の石を蹴りながら愚痴をこぼしている。その様子からはまったくもって緊張感が感じられない。本来なら魔獣討伐前に不相応だと言われるところだが、そんなことをだれも指摘しない。なぜなら蒼のそのいつもの態度は凝り固まった私達の緊張感を少し和らげてくれるからだ。
そして、蒼の愚痴に玲奈が首をかしげる。
「あれ? まだ言ってませんでしたっけ。」
すかさず蒼が返す。
「聞いてないぞ。」
スマホを取り出した玲奈は画面を見せながら、その魔獣の居場所を伝える。
「えっとですね……。廃ホテルですよ。山奥にある西洋のお城風の。」
「やっぱり聞いてないぞ。」
「確かに言われてなかったね……。 というか、それ……。いやなんでもない。」
海桜は言いかけて言葉を濁した。
「伝え忘れてたみたいですね。伝えるのが戦う前になってしまってすいません。」
「と、とにかく気を引き締めていこうよ。もうすぐ着くんでしょ? ね、玲奈ちゃん。」
「はい。もうすぐ……、この先です。」
玲奈がそう言って指さしたのは先の見えない闇が続いているトンネルだった。
中が見えないというのは少し恐怖感を感じる。
「なんだかちょっと怖い気がするね」
「そうか? 全然怖くないぞ」
そういうように蒼は全く怖くなさそうだ。でも、確かに。ここにはみんながいると思えば、私も怖くなくなったかもしれない。そう思いながら全員でトンネルの闇に足を踏み入れた。
「誰かぁ! 助けて!」
足を踏み入れた瞬間、叫び声が聞こえた。
発生源はトンネルの反対側。
そう遠くはない場所。
トンネルの反対側の出口からは月の光か、街灯の光か、どちらかはわからないが、暗い光が差し込んでいる。
その光に照らされたその姿は、背丈以上の長さをした鎌を振り上げる人影。いうなれば、『死神』の姿であった。
「だれか…誰か助けて! 誰か! 誰かァ!!!」
刃の先がキラリと光る死神の足元。そこで叫び声の持ち主の少女が這って逃げようとする。
その少女のすぐ背後まで、死が迫っている。
肩を叩くことができるほど近くまで迫ってきている。
死に追いつかれたらおしまい、という極限状態の中で必死に逃げようとしている。
だが、そのスピードはあまりにも遅かった。這って進むのと鎌を振り下ろすのではスピードに差がありすぎる。
少女は後ろを振り返ってしまう。その眼前に迫る鎌の先端を見て何を思っただろうか。異常に遅く流れる時間の中で人生の後悔をしていたのだろうか。
いづれにせよ、刃は冷酷にも少女を2つに切り裂く……はずであった。
金属と金属がぶつかり合って火花が散り、弾く甲高い音が響いた。
少女を救ったのは身長大の文房具。海桜のハサミだ。
少女が死神に襲われているのを見て、海桜はとっさに動き、間に合わせたのだ。
死神は後方の街頭下まで退いた。その時、薄暗くてよく見えなかった死神の顔が明らかとなる。
その顔つきは──、死神というには幼く、私達と年齢が変わらないくらいの少女だった。
「なんで邪魔するの?
せっかく殺してあげようと思ったのに。」
死神は口元に人差し指を当て心底不思議そうな顔をする。
「殺す?、なんのために?」
「ふーん、質問を質問で返すんだ。まあいいよ。
あなたの質問に答える前に一つ教えてあげる。」
死神は人差し指を立てて、口の端を少し緩ませた。
──魔法少女はね、みんな死ぬ運命なんだよ
「でもね、みんなそんな事実を受け入れないんだ。
自分が死ぬ運命にあることを信じずに、平和を守るとかなんだか言って馬鹿みたいに魔獣に立ち向かって勝てずに苦しみながら最後まで抵抗して死ぬ。
そんな人生って幸せ? 苦しんだ末何も手に入れられないまま死んで幸せ?
違うよね。違うよね。どうせ死ぬなら、苦しまずに痛みもなく死にたいよね。
だから、一撃で殺してあげてるの。大丈夫恐くないよ。首をすぱって切ったらそのまますぐに逝けるからね。
今、殺して幸せにしてあげるからね!」
鎌を振り上げ襲い掛かってくる。その動きは素早く、あっという間に迫ってくる。しかし、海桜は冷静に前進して迎え撃つ。数秒もしないうち互いの初撃が重なり、鉄の鋭い音が少し離れている私の頭にまで響いてくる。おもわず耳を塞いで目を背けてような耳障りな音だ。一瞬目を背けた後、もう一度海桜の方を見れば、海桜は鎌を両手に持ったハサミで受け止めていた。海桜が前進した時、攻勢に出るんだと思っていたが、なぜか一転して防御に徹している。
さらに死神の攻撃は力任せといった様子で、本来の海桜なら簡単に受け流してしまうだろうに、なぜかそのまま受け止め鎌の刃が海桜の間近まで迫ってきている。
海桜の意図は何なのか、すぐさまその意図を梨乃は汲み取る。
「なるほど……、そういうことですわね。わかりましたわ。
絆!あの少女の救助ですわ!」
「了解!」
絆は器用にロープを操り、手元まで引き寄せて抱きかかえる。海桜が死神を食い止める間に少女を後方まで運ぶことに成功した。
海桜は鎌を弾き、死神は後ろに跳びまたもや退く。その着地点を蒼が狙う。
これで憂いなく戦えるはずだったのだが……、
それよりももっと根本的に。どうしてこうなったのかわからない。
──なんで……?
──なんで、魔法少女同士で戦っているの?
「紡希! 前に集中してください!」
「紡希! しっかりしてくださいまし!」
「紡希ちゃん! 攻撃来るよ!」
前方に玲奈、梨乃、がこちらを振り向いて、絆は前方を見据えたまま叫んだ。
そのさらに前方には海桜と蒼が、一人の魔法少女と戦っている。
後方には少女が意識を失ったまま横たえている。この少女は同じ魔法少女で放っておけばまた別の魔法少女─死神に殺される。だから、守らないといけない。でも、守るには死神と戦わなければいけない。魔法少女同士で争い合わないといけない。
魔法少女は魔獣に立ち向かうべき存在なのに……
魔法少女は皆で手を取り合っていかなくちゃいけないのに……
──味方同士で争うなんて絶対におかしいよ。
戦うことと戦わないこと。そのどちらを選んでも最悪な未来にしかならない。
そう思った私はその場から動くことすらできなかった。




