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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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34/65

鬼ノ山…………………………………33mg

<紡希視点>


夜景を見た帰り、気づけば絆の足取りは軽くなっている。そして、顔の陰りももすっかり晴れたようである。


──良かった……絆はもう死のうなんて思ってない。


そう思いながら横に並んで階段を下りている絆を見つめていると、目が合った。何か言わなきゃ、という空気が流れたが、お互い相手がなにか言うだろうと思って目線を合わせたまま沈黙が続いた。

その状況がおかしくって吹き出すと、絆も同じように吹き出した。

吹き出しついでなので一応もう大丈夫かどうか聞いておこう。


「どうかな。もう落ち着いたかな?」


「うん。紡希ちゃんのおかげでね。」


その言葉を聞いた時、私はもういちどほっとして胸をなでおろした。


しばらく階段を下りていくと広場に出た。来るときは見向きもしなかった場所であるが、何度もこの山に訪れているためもちろん私はこの場所を知っている。

でもまあ別にここに何かあるというわけではない。ただちょっと広い何の変哲もない空き地というだけだ。


そう何もない場所のはずだった。


反対側の下へ向かう階段を目指して広場を横断しかけていたその時。


「!?」


広場の中央。あまりにも突然に、何の予兆もなく、人型の化け物が現れた。

それは私の倍をもある身長でその場にたたずみ、異様な威圧感を発している。

そして、単眼の眼に血で染めたような赤黒い肉体を持ち、さらに鋭い棘が生えそびえる漆黒の棍棒を携えている、まさしく民話で聞く“鬼”の姿である。

おそらく魔獣なのだろうが、まだ出現条件を達成したつもりはない。だから、出現するはずがない、と思ったのに、これはいったいどういうことなのか。いや、いつの間にか出現条件を達成してしまうなんてことはよくある。最初の時もそうだった。なら、あまり気にすることではないか。


そんなことより今は目の前の相手に集中しよう。


私の覚悟と同時に、鬼はその不動たる姿勢を崩し、棍棒の先端で溝をかくように引き摺りながら私たちとの距離をじりじりと詰めてきていた。

鬼の動作は鈍くて鈍いのだが、その所作は流れるがごとく洗練されて、一切の無駄が排除されている。近づくたび威圧感は増していき、押しつぶされそうになる。

さらに鬼は棍棒を片手で軽々と上げ、頭の頂点まで持ってくるともう片方の手を添えた


瞬間──


激流のごとく電撃的な速さで襲い掛かってきた。


突然出現したのもあり、突然襲い掛かってきたのもあり、私は避ける準備はできなかった。

避けるモーションに入ることすらできない私に振り下ろされた棍棒が眼前にまで迫っている。


しかし、棍棒の軌道はすんでのところで逸れて、足元の地面を割った。


「大丈夫? 紡希ちゃん!」


絆が握るロープの先は棍棒に引っかかっている。

多分このロープのおかげで棍棒の軌道が逸らされたのだろう。

初撃が失敗したとわかると、鬼は一度距離をとるため退いた。


「無傷でよかった。」

と、絆は駆け寄ってくる。


──まただ。


瞬間的に動く状況に私は対応できなかった。前の時も今回も。

やっぱりわたしはダメだな。


「倒しに行こう。二人で一緒にね。」

と、絆は手を差し出す。


そうだ、絆の言うとおり。落ち込むのは今じゃない、後からでもできる。さっき励ました相手に諭されるとは。自分もしっかりしないと。


絆の手を握って立ち上がる。


「ありがとう。行こう。」


──先手は取られたが、二手目はこっちが取る!


私の武器は後方支援向き、絆の武器は中衛向きであることから、先んずるのは絆。今回もいつもの通り、捕縛→攻撃の流れで戦う。まずは捕縛、絆は慣れた手つきでロープを操り、鬼の動きをいとも簡単に一手ずつ封じていく。


鬼は絡みつくロープをほどこうともがき暴れるが、力押しではほどけることはない。むしろロープはさらに絡みついていく。やがて鬼の自由を全て奪うと、絆が声高に叫ぶ。


「一気に畳みかけるよ!」


私たちは攻勢に出る……はずだった。が、しようにもできなかった。

そう、今の今まで根本的な問題に気が付いていなかったのだ。そのことに気づくのは絆の攻撃の合図の数秒後のこと。私が一歩踏み出そうとしていた時であった。


──私たちには攻撃手段がない。


──私たちだけじゃ、この魔獣を倒すことなどできない……


「無理だよ! 私たちだけじゃ何もできない!」


「え?…………」


私が声を張り上げると、絆は一瞬理解できないような表情をしたが、「あ」と漏らしロープを持つ手を緩めた。


拘束が緩まったその一瞬の隙を突いて、鬼はその腕力でロープを引きちぎった。手に持ったロープと私たちの表情を交互に見ると、私たちが置かれている状況に気が付いたのか、鬼の顔はたちまち気味が悪いほどに笑み崩れた。その嫌な表情は嫌悪感、恐怖を感じさせるのに十分だった。


「絶対に勝てない……」


心の中だけで行ったはずの言葉が口から漏れ出た。もう私には勝てるビジョンが見えない。逃げ腰になって勝つ方法よりもここから逃げ出す方法ばかり考えている。逃げてはいけないとは頭の端で主張しているが、それよりも逃げるべきだという考えが頭の大半を陣取って揺るがない。


いったい私はどうすればいいのだろうか──

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