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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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33/65

前向け、前……………………………32mg

ドアチャイムの音を鳴らしても、何の反応もなく絆は出てこない。

でも、絆は確かにここにいると思う。

なぜならかすかに家の中から嗚咽のようなものが聞こえてくるからだ。


再度、チャイムを押して、ドアをノックする。


「絆──いるよね? いるなら出てきてよ。みんなも心配してるよ。」


それでもやはりさっきと変わらず絆は出てこない。

しかし、少しだけ変わったことはある。それは、


──ドアの向こうに絆がいる……


さっきまではこのドアの裏にはいなかった。でも今は確かにここにいる。

桃香が死んで悲しいということ以外、絆はどういう心境かはわからないけど、前に進もうとしていることが空気を伝って来ている気がする。


さらにもう一度チャイムを押そうと手を伸ばす。しかし、その手は無意識のうちにドアノブを握り、鍵がかかっていると思いつつもそれを捻った。


ドアは空いていた。


キィーと軋む音を立てながらドアが開かれ、部屋の中が少しずつ明らかになる。

最初に目に入ったのが、玄関の一段高くなっている場所に座る絆の姿だった。その目は泣き腫らして赤くなり、頬には涙が流れた跡がくっきり残っている。


「あの、絆──」


絆に話しかけようとして、その背後のものを見てしまった。背後にあるもの、それは天井につるされたロープだった。そして、その垂れた先は輪っかになっている。

それを認識したとき、絆の心理状態を悟った。

絆は桃香の後を追って自らあの世に行こうとしているんだ、と。


「だめだよ。自分からなんて……」


私は絆の心中をおもんばからずに無意識的にそう言っていた。


「だって──、桃香が死んだのは全部私のせいだから…」


絆の発した声は消え入るような頼りなくか細い声だった。


「絆のせいじゃないよ。絆のせいなんてことがあるわけない。お願いだからもうそんなことしないでよ。私、絆まで失いたくないよ。

だから、ね。そんなもの片付けようよ。それがあるからよくないことばかり考えてしまうんだよ?」


「でも、、」


絆は何かを言おうとしてそれをひっこめた。

ここでさらにやいやい言ってやろうと思ったが、やめた。絆が今私に求めているのは絆自身があの世への境界線を越えようとするのを止めてほしいということではなく、話を聞いてほしいということなんだ、と気づいたからだ。

絆が何を言おうとしているのかはわからないけど、絆自身が前へ進むための話であることは何となく分かる。

だから、私は待とう。絆が言いたいその言葉を自分の口から言うまでは。


「……」


「……」


沈黙は続く。でも、これは無駄な時間じゃない。だって、絆は自分が言う言葉を少しずつ一から胸の奥で作り上げ、それを喉元にためていっているからだ。そして、やがてその言葉はダムへ水が溜まるように十分蓄積されて、開け放たれる。


そうして絆が口を開いて飛び出してきた言葉は──


「し、死ぬのが怖かった。」


「うん」


「本当は桃香が死んだとき、自然と思っちゃった。自分じゃなくてよかったって。そんな自分が嫌でそんな事実を無かったことにしたくて、吊ろうとした。けど、できなかった。死ぬことはできなかった。死にたくなかった。

なんでいつも自分はこうなのかな。いつも目の前のことから逃げてばかりで。これじゃ桃香に申し訳が立たないよ…

紡希、私どうしたらいいかな? どうすれば桃香に許してもらえるかな?」


私は絆を責める気はない。自分じゃなくてよかったと思うのは絆が悪いからではないからだ。誰だって心の中に自分じゃなくてよかった、なんで自分だけと思う気持ちはあるはずだ。私だって同じ状況に陥ったとき、絆と同じように思うかもしれない。だから絆を責めるつもりはない。

そして、絆は何をするべきかという問いに対しては私には決められない。私が絆の行動を決定したとしても絆自身が受け入れられるような答えでないと、現状から変わらないどころか悪化さえするように思える。絆自身で自分が納得のいく答えを見つけるべきだ。だからって、私は何もしないわけにはいかない。今の絆は部屋に閉じこもって考え方が卑屈になっていて、悪手を選ぶ。それを踏まえて、私が絆のためにできることは、外に連れ出してやる、ことだ。


「絆、外に行こう」


私はそういうと絆の手を引きドアの外へと連れ出した。

連れ出した外の世界はもうすでに日が落ちかけて黒とオレンジの境界が浮き出た黄昏時だった。





<絆視点>


「ねぇ紡希、これいったいどこまで……」


先ほどまで明るかった空は黒ペンで幼児がむやみやたらに塗りつぶしていくように闇に染まりつつあり、その小さな隙間から白や赤などのの光が心もとなくぼんやり輝いているはずなのだが、木の枝や葉に阻まれてその光すらも見えなくなっている。そんな中、紡希の足は階段に沿って山の奥へとずんずんと進んでいく。


いつまで歩いただろうか。もう現在位置すらわからないほどの山奥まで来た。戸惑う私に対して紡希は依然として進み続けている。


紡希はいったいどこへ向かおうとしているのか。

紡希はこんな山奥まで来て私に何をさせようとしているのか。

もしかしてどうせ死ぬのなら迷惑をかけるようなとこじゃなく、だれにも迷惑をかけないとこで死ねというのか。

いや、私は言った。死にたくないと。

いや、だからこそか。実は紡希は桃香が死んだことに怒っていて、死でもって償わせようとしているのか。

この予想が本当だとしたら? 紡希はこの山奥で私を殺そうとしているのなら?

いやだ。まだ、死にたくない。


「絆、前見て。」


「ほぇ…?」


「どう?この景色」


そう言われて前を向いた先には星空が広がっていた。息をのむほどの満天の星空。

先ほどのネガティブな考えが吹き飛ぶほどの美しさだった。


「いいでしょ。ここ。悩んでどうしようもなくなった時、いつも来るんだ。この場所に座ってボーっと景色を眺めるだけで悪い考えなんか全部吹っ飛んで、前向きになれるんだよ。」


紡希は私を恨んでなどいなかった。むしろ、その態度のまま見たまんまで私に親身になってくれていたのだ。殺されるなんて考えて申し訳ない。


「紡希、ごめん」


「?」


「ううん、ありがとう」


「感謝されるとなんだか照れちゃうよ。それより絆はもう大丈夫?」


「うん。まだ少しだけだけど、なんとか大丈夫。」


「なら、よかった」


それから私たちはしばらくの間その場にいた。


まだ桃香のことや自分のことに踏ん切りがつかないけれど、前には向けるようになった。

これまでのこととこれからのこと、両方とも頑張っていこうと思う。

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