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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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31/66

むなしくなる…………………………30mg

<紡希視点>


「絆達、おっそいなー」


 蒼があまりに遅い絆達のことを心配してか聞こえるか聞こえないかの声でつぶやいた。


 ベヒモスを各個撃破した後、私たちは公園で落ち合うことになっていた。私と海桜の班、玲奈と蒼、梨乃の班は合流できたのだが、絆と桃香の班がまだ帰ってきていないのだ。この現状に私たちは不安を募らせている。


「苦戦しているのでしょうか。それともまさか…」


「桃香と絆ですわよ。そんなこと万一にもないでしょう。

信じて待ちましょう。少しばかり待てば、帰ってきますわ。きっとね。」


 梨乃はそういうものの玲奈が心配であることには変わりないだろう。そして、私もやはり心配だ。桃香や絆に何かあったのではと思って仕方がない。


「私、見に行ってこようかな」


「絆と紡希を、信じなさい。」


 心配が募り募って出た言葉だ。決して信じていないということではない。

 ただ梨乃が言っていることは確かだ。桃香は頭が切れるし、絆は細かいことにすぐ気づく。あの二人なら無事に帰ってくるだろう。梨乃の意見に納得せざるを得ない。


「わかった」


 でも、どこかに心のとっかかりが残っている。それを取り除こうにも返しとかいう悪い予感が余計に引っかかって取れない。


「やっぱり、私…見てくるよ。」


「ちょっと紡希!」


「大丈夫。ちょっと見てくるだけだからー!」


 といいつつ、公園の入り口のポールを抜け出た。


 後ろからは梨乃のやれやれといった声や海桜のちょっと待ってという声が聞こえたような気もしないでもないが、そのまま置き去りにしていった。





「おーい、絆! 桃香!」


 再三にわたって呼びかける声に反応はない。


──うーんこの辺にはいないか。もっと向こうの方に行ったのかな。


 といっても、ベヒモスを追っかけて行ったとしてもそんな向こうにはいかないだろうし……

 これより先に入ってないとしたら──、

 もっと手前の方にいたのかなぁ。

 声が届いていなかっただけかなぁ。

 それとも、もう公園の方に行って、合流できているかもしれない。いったん公園まで引き返してみよう。


 その前に念のため変身解いておかなくちゃね。見られてしまったら大変だし。


……あ、そういえば。


 まだ見てきていないとこあった。

 車通りの多い場所だ。

 桃香はいつも人の多いとこは避けてて、もっとも行きそうにない場所だけど、ベヒモスがそっちの方に逃げてそれを追っていったかもしれないし。行ってみて損はないだろうし、一応……ね。


 その方に行くなら、本当は大回りしないといけないけど、この狭い路地裏を通っていけば、近道になるかも。まぁ、普段変な道は通っていくなって言われているけど、今回は特例でいいよね…?


 路地裏に入った途端、雨がぽつぽつ降り始めたかと思えば、バケツの水をひっくり返したような豪雨が降ってきた。


──傘、持ってないな


 雨を避けるため、すぐ近くの屋根の下に入った。地面に落ちた大粒の雨水は跳ね返って靴を濡らし、軒先から垂れた雨水は屋根からはみ出した肩を濡らして、建物の隙間から吹く風を冷たく感じさせる。


──ここから出られないな


 と、そんな風に考えていると、雨音に混じって何か妙な音が聞こえてきた。

 耳を澄ませてみると、聞こえてくるのは雨音と室外機の音だけ。


──室外機の音じゃなかった気がするんだけどなあ


 しかし、やはり聞こえてくる。音に混じって何かが聞こえてくる。

 もう一度耳を澄ませてみる。

 大音量の雨音の中聞こえてきたかすかな音──それは誰かのつぶやき声だった。


──どこかで聞いたことがある、しかも身近で。


 でも、小さくてよく聞こえない。もっと近くへ。


 私は雨に濡れるのも気にせず声の発生源を辿っていく。

 すると、一つの場所にたどり着いた。


 そこには少女がいた。

 少女は体育座りで脚に顔をうずめながら、室外機のそばに丸まっている。

 姿は絶対普段着にはしないような明るい黄色で、ロリータ系のデザイン、まさしく魔法少女の格好だ。

 そして、近づいて分かったその声の主、何度も聞いたことのあるその声。

 私が探していた絆だった。





 絆は三角座りで顔を足の間にうめて、うずくまっていた。まるで何かにおびえるように。

 私が足音を立てて歩いてきたというのに、全く気付いていない様子だ。

 それに「あれは夢あれは夢あれは夢あれは夢あれは夢……」と、壊れたラジオのように同じ言葉を再生し続けている。


「絆?」


 問いかけてみる。

 私の声が聞こえていないかのように反応はない。

 語気を強めてもう一度問いかける。


「ねぇ! 絆!」


 また反応がない。明らかに声が聞こえる距離なのにだ。

 今度は絆の肩をガサガサ揺すりつつ、問いかける。


「絆! しっかりして!」


 やっと私の声に反応した絆は顔を上げた。

 雨で顔を濡らしていたが、私には泣いていることが分かった。

 この場所でこの状況で絆が泣いている理由、それを考えた時、まさかと思うようなことを想像してしまった。そのまさか、と思うようなことは大抵杞憂に終わるのだが、今回に限っては違った。


「桃香は……、どこ……?」


「桃香は、」


「桃香は、」


「桃香は、死んだ。車に、轢かれて、死んだ」


 頭が真っ白になった。え?桃香が。まさか、桃香が。

 私が一番最初に出した言葉は、


「…どうして」


 だった。


「わからない。でも、見られたって言ってそのあとすぐに…、自分から…」


 絆も何とか絞り出すように声を出している。


 雨の勢いが増した気がした。

 残酷なまでに私たちの悲運をあざ笑うかのようだ。

 やがて、絆の微かな声は雨音に溶かされて聞こえなくなった。

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