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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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3/65

初遭遇…………………………………3mg

 神社の階段を降りて、舗装された道路に出た。

 道路をまたぐようにして赤い鳥居が建っている。

 その下に立って、スマホを取り出す。


 今からすることをもう一度確認しよう。

 "アプリが指し示す場所へ行き、そこで魔物を倒す"

 たったこれだけ、言葉にすれば一文で言い表せる。

 だけど、先行きが全く見えない。魔物は一体どういうものなのか、どうすれば倒せるのか、自分みたいな普通の中学生一人でどうにかなるものなのか……。そもそもこのアプリは何なのか……。

 全部、分からない。

 それが進む先の道が霧に覆われているような状況で、これから起こることが予想できなくてとても怖い。

 それでも、先に進まなければこれから自分自身がどうなっていくのかも分からない。だから、とりあえずその目的地まで行ってみよう。


 アプリ内の地図では、赤いピンが山の裾の建物を指している。

 ここからは住宅地を通り抜けて、もう少し奥に行ったところ。歩けない距離ではないけど、少し遠い。


 日は静かに落ちかけて少し肌寒くなってきている。空はまだ明るいけど、暗くなるのは時間の問題。向こうに着くまで時間が掛かると考えると──。

 

「ちょっと急がないと」


 つぶやいた声は何にも影響を与えることなく、髪を撫でる風に消えた。





 住宅地を抜けてしばらく。田園が広がり、家がまばらになってきた。代わりに山が近づき、山麓の木々と森への入り口が現れてきた。


 ここまでくれば、もうすぐそこ──。


 何の変哲もない雑木林に車の轍が残された土の道が一本。ただそれだけ。だけど、その奥から漂う何かよく分からない感覚がある。全部言葉にすることはできないけれど、違和感のような……渦巻くような……そんな感じのもの。


 空はもう暗くなりかけている。感覚は気の所為にして道の先へと足を踏み入れていく。


 土の道に入ってすぐ、木が切り倒された広い空間に出た。すぐとはいっても木々の隙間から外の田園風景は見えない。それなりに山深い。

 その空間に、廃屋が一軒建つ。


 廃屋は木の板でできた簡易的な作りで、物置には申し分はないが住むには狭すぎるほどの大きさ。


 外観は灰をふりかけたように煤けていて、ツタのような植物が壁に広がっているが、枯れて茶色になっている。


 もう何年も使っていないみたい──。


 中は窓がないが壁の小さい穴から抜ける光があるため薄暗い程度で、中を見るには十分事足りる。

 ライトなしでも探索できそうだ。


 家具や荷物は殆どない。

 あるものといえば、奥の壁につけて置いてある机と椅子1セットだけだ。

 机は重厚な感じで持ち主のつけた傷が残り、角もすり減っているようでよく使い込まれている。

 そして、壁の大きめの穴から漏れた光が机の上を照らしている。

 机の照らされた部分にあるのが、透明の瓶に刺された一輪の花。

 花はきれいな赤色をしているが埃が着いている。

 多分、造花だ。



 それにしても、机に花瓶が置かれている状況には悪い印象しかない──。




… … … … … …

… … … … …

… … … …

… … … 

… …





 私が中学の頃、今とは違って仲の良い男女6人でいつもつるんでいた。


 ある時、机の上に花が一輪差されている花瓶が置かれていた。その花もちょうど赤色だった気がする。それを見た私はグループの中のいたずらが好きな男子の仕業だなと思い、いたずらをされるのはいつものことだったので、その日はあえて何も言わずその花瓶をおいたままにしておいた。


 それを見た教師はイジメだと勝手に判断した。そして、その犯人を見つけ出した。犯人である彼らは教師に散々に泣かされ、私に謝罪させられた。


 それから私達はなんとなく気まずくなり、疎遠になってしまった。そして、友達を作るのが億劫になった。




… …

… … …

… … … …

… … … … …

… … … … … …




 そう思い出しているうち、その花瓶に触れていた。

 全くの無意識だったが……、気づいた瞬間”やっちゃいけないことをした”と思った。

 根拠なんてあるはずない。日常生活では感じ得ないような反射的感覚。繋がらない状況の文脈。


 天井に気配がして、上を向いた。


 今いる場所より暗いため、確認しにくかったが──、


 何がいる。大きい何か、が。



 本能的に感じ取る。


 だめだ、逃げないと──。

 

 振り振り向いて小屋の入口に向かって駆ける。距離にして数メートル。

 背後で花瓶を落として割れた音がしたが、それどころじゃない。


 小屋を出るまでの時間がとても長く感じられたが、なんとかそこから脱出、しばらく離れたあと、気になって後ろを振り向いてしまった。


 黒い大きい塊。いいや、蜘蛛だ。普通ならありえない巨体だが、今眼の前にいる。振り向いたことを後悔するほど、怖い。その背には赤いラインが引かれていて、それがさらに恐怖を煽る。


 蜘蛛は速かった。一瞬で目の前まで来て、前足二本を振り上げた。


 ひいっ…!


 その足を振り下ろしたとき、とっさに避けることができた。


 もう一回来る!


 と思った時、一回目を必死に避けたため、バランスを崩していた。もうここから避けることは無理。


 もうダメだ──。


 諦め、目を閉じる。もうあと5秒以内ですべてが終わる。


 ………1、………2、………3、………4、………5、………6、


 6?あれ?なんで?


 恐る恐る目を開けてみる。

 すると、蜘蛛の手足がすべて切り離されていた。

 そして、傍らに少女が立っている。つま先から胸ほどの長さのハサミを携えて。


 少女は蜘蛛に対してひるみもせず、飛び上がり、蜘蛛の身体を文字通り一刀両断した。断面から正四面体を2つくっつけたものが飛び出してきた。さらに、それを、ハサミで切り崩すと粉々になった。


 少女はこちらを向いて、


「大丈夫だった?」


 と尋ねた。


 その姿には桜の花のように華蓮で美しく、海のように洗練された深さを感じた。

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