遠いようで近い昔話…………………26mg
─絆視点─
あれは私たちが魔法少女になってからしばらくたってからのことだった。
…
足に重みを掛けるたび、床がきしむ。
しんと静まった奥の空間へと響き渡る。
なにか起こしてはいけないものを起こしてしまいそうで、
音を鳴らさないよう忍びながら、長く続く廊下の奥へ歩き進んでいく。
廊下の片側壁には引き戸がある。
引き戸を開ければ、静まり返った廊下にガラガラガラと大きな音が鳴り響いた。
中はいたって普通の教室だった。
床は板張りで椅子や机は同じ方に向かって置かれている。
緑がかった黒板へと向けて、個性を失ってただ画一的に。
今いるここは学校。
もう使われていない学校の廃校舎だ。
長年放置されて外の壁は落書きだらけ、内の壁にもいくつかはある。
そして、一部だけであるが割れている窓もある。
なぜ、私がこんな廃校舎にいるのか?
その答えは単純だ。
アプリに誘われるまま、ここに来たからだ。
魔獣がいる場所はここだ、と。
今回選んだ魔獣のレベルは星☆☆☆。いつもは星☆~☆☆の魔獣ばかりだが、今回のは挑戦してみたのだ。
そして、今桃香が隣りにいる。
一緒に魔法少女になった桃香だ。
魔法少女は街を守るため魔獣を倒す役割がある。だが、一人だと心もとないので魔獣退治のときにはいつも一緒に行動している。それで今回も一緒に魔獣を倒しに来た。
「教室の中まで入ってて今更だけど、ここ勝手に入っても良かったのかな?」
「うーん、わからないけど。もしかしたらいけないことかもしれないね。」
桃香はいたずらな笑みを浮かべてそう言った。
「えぇ!それじゃあすぐでないと!」
「まあまあ。町の平和のためだし、ちょっとぐらいいいんじゃない?」
「そういうものかなあ…?」
「そういうもんだよ。それよりさ、魔獣の出現条件さがそうよ」
そういうことで教室の中をいろいろ物色することとなった。
教室の中を改めて見てみると、中は人がいないからか、寂しくものがなしい。
放課後の教室で感じるのとはちょっと異なった寂しさだ。
壁紙は一部剥がれ、コンクリートはむき出しになっている。
天井は吊り下げ式の照明。
LEDではなく年代物の蛍光灯だ。
上のカバーにはホコリが溜まってクモが巣を張っている。
もちろん電気は付かない。
「なんか臭くない?」
「確かにちょっとカビ臭いよね」
教室の中を見回しながら、互いにそんな感想を持った。
この校舎は使われなくなってからかなりの年月が経っている。
カビ臭いのは仕方がない。
手入れもされてないようだしね。
ふと、机の天板の文字が目に止まった。
『1+1=田』『おれ、参上!』『あいな♡みなと』『✕』
人の名前のようなものやいろいろな落書きがある。
他の机はどうか。
こっちにも落書きがある。
落書きはほとんど彫刻刀かなにかで彫ってあるのがほとんど。
鉛筆で書いてあるのもある。
落書きからは往時の教室の様子がありありと浮かんでくる。
休み時間、はしゃぐで騒ぎ立てる丸坊主の男の子。
教室の隅に集まって談義に花を咲かせる女の子。
チョークで黒板を叩く先生。
運動場から聞こえてくるボールをバットで打つ音。
それに続く歓声。
その時、この場所にいたわけじゃないけど、なんとなくそう感じさせるものがある。
ここにある物品の一つ一つが私が知らない遠い昔の記憶を伝えてくる。ここには長い歴史の中で起きたことの全てが眠っている。この校舎の思い出に触れていると当たり前の事実にハッとした。
──そっか、今はもうないんだ。
そう気づいたとき、悲しさや寂しさが襲ってくる。
眼尻を熱くして涙が込み上げてくるが、あふれる程ではない。
「絆、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。ちょっとボーっとしてただけ」
「ここには何にもないみたいだね。」
「何にもないことはないんだけどね。」
「……?」
桃香は不思議そうに私の顔を見つめた。
「次いこうか」
「うん」
教室を後にした。
…
1-1、1-2、1-3、……と一階にある教室を見回っていると興味深いものを見つけた。
クラスの名前プレートが掛かっていなかった教室があった。机と椅子がなかったからおそらくは空き教室なのだろう。
室内にはロッカーのみが残っていた。そして、ロッカーの中には底に穴が空いた青色のポリバケツただ一つだけ。ここには何もないかと思ってその場を離れようとしたが、バケツの穴の中に見えたものがあった。
ん……?
バケツの下に何かしいてある……?
取り出してみれば、それは紙であった。
文字が羅列されている紙。
へたくそな字だが、メモ用紙のように殴り書きがしてあるのではなくて、箇条書きにまとめてある。
題名は『学校の七不思議』。
七不思議が1.2.3...と羅列してある。
「何か見つけた?」
と、桃香が私の肩をたたいた。
「これ、なんだけど……」
「これは七不思議か…… うちの学校にもこんなのあったな……」
桃香は懐かしそうに言っているが、桃香は最近卒業したばかりの中学生だ。
私はちょっと笑ってしまった。
「魔獣と関係あるかもしれないし、
ここに書かれていること全部確かめてみたいんだけど、どうかな?」
「いいね。行こう。」
そうと決まれば、紙を持って歩き出す。
最初の目的地、1F「図書室」へ向けて。




