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magical dose -魔法少女は破滅の道を歩む-  作者: 伊草


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26/65

色は匂へど散りぬるを………………25mg

 ─絆視点─


 最悪の瞬間とは私の意志を無視して突然やってくる。

 あとから考えてみたら、簡単に気づけて防ぐことができるはずだった単純なこと。

 悔やんでも悔やみきれない。

 もしあの時、私がちょっとでも周りのことを気にしていたら、もっと慎重に事を進めていたら。

 起こりえなかったのに……



 …


<絆・桃香班>


 私達は状況に合わない談笑をしながらベヒモスを追いかけて夜の街を駆けていた。

 なぜこの時談笑していたのかはわからない。

 もしかしたら魔獣討伐に慣れすぎていて慢心していたのかもしれないし、ベヒモスはもう追い詰めたから簡単に倒せると思って気を抜いていたのかもしれない。


「あっ」


 桃香が突然声を上げた。


「どうしたの?」


「ちょっと落とし物。先に行ってて。」


「わかった」


 桃香は立ち止まって何かを拾った後、また走り始めた。


 この時、私が前にいてその後ろから桃香が背を追いかけるような位置にいた。



 事が起きたのはT字路の交差する場所を私が通り過ぎて桃香も過ぎようとした時であった。


「早く次の路地裏に入って!!」


 桃香が鬼気迫る様相で急かす。

 ベヒモス討伐に何か支障がでたのだろうか、と思った。

 でも、違った。全然そんなことじゃなかった。


 路地裏に入った途端。


「人に見られた。」


「えっ、」


 桃香の一言に声が思うように出なかった。

 人に見られたってことは、『魔法少女姿を他の魔法少女に見られてはいけない』という魔法少女の掟を破ったということ。見られたらどうなるかは公言されていなかったが、わざわざその掟を伝えてくるくらいだ。とんでもなく悪いことが起こるのであろうことはわかる。

 つまり……桃香はもう……。


「私はもうだめかもしれない。」


 桃香はあくまで冷静を装っているが、声が震えている。


「魔法少女の掟は絶対守らなければいけなかった。

 目線に気づいて、そっちを見たら、目が合って、と思ったら、耐え難い苦しみが湧いて来きたんだ。

 はっきりいってもう耐えられない。耐えられなくてでも耐えなきゃで、それでもやっぱり耐えられなくて今すぐにでも死んじゃいたくて。もう頭の中がぐちゃぐちゃになって。はっきりと死ぬべきって思いが強くなって……

 もう私はだめだ。

 ごめん、絆。」


 桃香はふらっとした足取りで、路地裏の外へ向かう。


「待って! そっちは」


 桃香が向かう先は交通量が多い道。今まで避けてきた道だ。

 それなのに桃香はまるで糸で操られた人形のように道路へ出た。

 桃香の行動を引き留めたくて、腕をつかもうとしたが、怖くて動けない。それでも無理やり手を伸ばして桃香の腕をつかむ。しかし、つかむ前に桃香の腕は手からこぼれていってしまった。


 そして、そのまま桃香は去って行ってしまった。「ばいばい」という今生の別れの言葉だけを残して。


 その後、桃香がどうなったかは知らない。

 怖くてただ怖くてその場から逃げ出した私には知る由もなかった。


 …



 ─桃香視点─

 ボーっとした頭の中でも絆との距離がだんだん開いていくのはわかった。

 最初は何か大切なものが遠くに行ってしまうのだと思った。

 でも、それは違った。

 遠くにいこうとしているのは自分だった。

 絆の近くにいようとしてもいうことを聞かない自分の体。

 心の距離も離れていくような気がした。

 心の距離が離れすぎて絆が見えなくなった時、

 絆との思い出がゆっくりと網膜の裏に映し出される。

 長い夢のようで、そして、自分の伝記を読んでいるような感覚に包まれ、穏やかな気持ちになった。


 しかし、その気持ちも長くは続かない。まばゆいほどの光に照らされたすぐあと、強い衝撃を受けて、何も感じなくなった。この時、私の五感はすべて機能しなくなった。


 無音で闇すらも感じないほどの闇に閉じこめられる。

 進んでも進んでも闇は続く。闇から抜けようとしてさらに進んで進む。それでもやはり闇は続く。闇がと切れることを願って闇の中を進む。闇は続く。

 どれほど進んだだろうか、もう進んでいることすらわからなくなった。

 この闇は永遠に続くのだろう。

 そう思った。



 …



 ─絆視点─


 しばらく逃げた先で大音量で響いた衝撃音を聞いて、涙がこぼれた。


 桃香が最後に伝えた言葉。

 桃香の死と引き換えに得た情報。


 ──魔法少女姿を見られてはいけない。


 この言葉。


 この掟の理由。


 それは、死ななければいけなくなるから、だった。


 まだ耳に桃香の声の余韻が残ったまま、泣いた。大声を上げて泣いた。


 桃香が死んだから、か。

 自分がとんでもないものに足を踏み入れていることに気づいたから、か。

 自分もいずれはああなることが分かって怖がっているからか。

 理由は当の本人でも分からなかった。


 ただ一つわかったことは桃香が死んだことだけ。

 実際に見たわけでも、誰かに聞いたわけでもないけれど、私にはわかる。


 桃香は死んだ。


 だから、これから進んでいく未来に桃香はもういないんだ。


 そう思うとさらに涙が止まらなくなってきた。

 この後、私は時間もわからないくらい長い間泣いていた。


 その泣き声は何かに影響を与えるわけでもなく、ただ夜の街の静けさに混じり込んですぐに聞こえなくなった。


 絆・桃香班──ベヒモスの分裂体を取り逃がす。

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