魔法少女………………………………2mg
沖春中学校には裏山がある。
その名も神奈備山。
山容はすり鉢を伏せて置いたような円錐形で、標高はあまり高くはない。
広がる平地の中にそびえ立つ、その存在感は大きく、町内からならどこからでも視認することができる。
そして、頂上にはこじんまりとした古い神社がある。
最近、沖春中学のみならず近隣地域の学校で噂になっている場所。
それがこの神社──魔法神社。
山頂を目指して、石階段の一つ目に足をかけた。
…
石でできた鳥居の下に立っている。
全身に疲労感。脚も重い。
ここまで階段を上ってきたのだが、目線の先には依然として階段が続いている。
「まだ、こんなにあるの?」
ため息をつく。
だが、このままではいられない、という意思が脚を動かせる。
陽光を遮る緑の葉が屋根のように頭上を覆い、そこから漏れる光が足元をまだらに照らしている。
季節はまだ春先だというのに、階段を上る度少し汗ばんでくる。
やがて、ある一段から色褪せた鳥居の赤が見えてくると、すぐに神社の建物も見えた。
「はぁ、疲れた…」
息を整えるため、大きく呼吸をした。
目の前には、所々苔が生え傾いた本殿。
中身がなく朽ちかけた賽銭箱。
酸化して金属光沢が失われた鈴。
この場所こそが目指していた場所、「魔法神社」だ。
「噂の場所はここだ」
目的地に着いたものの、特に気になる点はない。
少しボロボロすぎるくらいで、いたって普通の神社。
所詮噂は噂。
何もせずに幸せになれる。
そんな都合のいいこと最初からありはしない。
何もないなら、もういいか──。
そう思った紡希は踵を返し、本殿に背を向けた。
その時、風が吹いた。
紡希はよろめき、思わず振り返った。
そこにはやはり古びた本殿。だらんと垂れ下がった縄が風に揺れ、鈴を鳴らしている。
ただそれだけだった。
それだけなのに、気が変わった。
「せっかく神社に来たんだし、お参りしていこう」
カランカランと乾いた音を鳴らすと、拍手を打つ音を2回響かせ、浅く礼をする。
何かをお願いするわけではないし、早々に済ませる。
「もう帰ろうか……」
そうつぶやくとどこからか声が聞こえてきた。
「キミが志願者だね」
聞こえてきた声ははっきりとした声量で聞き取りやすい。
ちょうど対面した人と話すくらいの大きさ。
近くに誰かいる──。
紡希は周囲を見回す。
が、誰もいない。
聞こえてくる声は近くからのはずなのに何処にも誰の姿もない。
音質は無機質ながらも血の通った人間味がある。
その矛盾に不快感が滲み出て、現実感がありつつも非現実的な現状に当惑する。
否定しなければ──。
直感的に思った。だけど、口から出る言葉はそうじゃなくて、
「……そう、です」
返答を聞いた途端、見えぬ会話相手の顔が崩れた気がした。
そう思えば、目の前が眩しく発光する。
「わっ!!」
反射的にギュッと目を閉じて、恐る恐る目を開く。
そこには一面真っ白の空間が広がっている。
その様子は強い光を見てしまった後のようだ。
あれ──? さっきまで神社の境内にいたはずなのに──。
唐突な状況に理解が追い付けないままでいる。
「まずは魔法少女就任おめでとう」
え──?
魔法少女って何──?
それにここは──?
「急にこの空間に連れ込んできてしまって悪かったネ。
混乱するのも無理はない。
ここはキミと私だけの仮想空間。自然や第三者の影響も受けない。
だから、ここで私たちが話していることも外部にはわからないし、逆にここから外部の情報を知ることだってできない。
一応、ここでの会話は内緒にしててくれヨ。バレたらひどいから」
声は考えていることを見透かしたように言ってくる。
「それで魔法少女って言われてもいまいちわからないヨネ。しっかり教えてあげるからちゃんと聞いててヨ。キミの命に関わるから」
「君には世界の平和を守るために戦ってもらう」
「世界の平和?」
「そう。この世界には平和を脅かす存在がいる。それこそが魔獣」
白の空間の中に黒い線で輪郭のみが引かれた絵がいくつも出現する。
これが魔獣なのか……?
「奴等は本来生態系にいることが不自然な存在……、まぁ想像上の生き物のようなものだと思ってもいい。が、現実には存在してしまっている。
矛盾しているように思うだろう? それとも、そもそも魔獣が存在することすらありえない、と思っているかな?
誰だってそうさ。不可思議なことや矛盾していることは、誰だって受け入れ難いもの。でも、受け入れるしかないんだ。
話を戻そう。
魔獣の話だったね。魔獣は、存在するが存在しないものだから一般人には見えない。魔法少女のみが視認することができる。だが、現在奴等は身を潜めている。すぐにどうこうといった話ではないが、その姿を自ら現した時、人類殲滅、人間社会の破壊を始めてしまう。
だから、今がチャンスなんだ。キミたち魔法少女には魔獣を殺す力が与えられている。その力を使い、魔獣を全て討伐してほしい」
「いや、でも……」
突然、そんなことを言われたって。
私は噂を確かめに来ただけなのに、こんなことに巻き込まれるなんて。
「噂? ああ、『幸せになれる』とかいうものか。
『幸せ』というものは定められた基準を満たすことでなく、どんな状況においても主体が勝手にそう認識すれば勝手に手に入れられるものなのだが……。
そうだな。人類の平和を守れることが幸せだと言えるのではないか」
噂は嘘だったってこと?
「嘘じゃないさ。さっきも言っただろう。勝手に紐づけて勝手に幸せだと思えばいい」
「噂が嘘なら、もう帰してください!!」
声を荒げて、叫ぶように言う。
「だから、嘘じゃないって。それに、君は私の質問に肯定しただろう? もう否定はできない。君の運命のゆく先は決定したんだ」
「そんな……」
「それに、悪い話ばかりじゃない。高いリスクには高いリターンがある。魔物を討伐した暁には倒した魔物の強さによって高い報酬を用意する。魔獣の詳しい情報についてはアプリを確認すればいい。
最後に注意事項がある。他の魔法少女以外に自分の魔法少女姿を見せてはいけない。これだけは守らないと酷い目に遭うかもだ」
声の主は何も聞き入れない。
「それじゃあ、頑張ってくれ」
そう言ったあと、謎の声はふつっと消えた。
また目の前が発光する。
この場に居座ってやる、そう思ったが、耐えられなくなって目を閉じた。
少ししてから目を開けると、白い空間はどこにもなく、そこは神社で鳥居の方を向いて立っていた。
「今のは一体……」
無理矢理、魔法少女とやらにならされてしまった。
とはいっても、特に何も変わっていない気がする。
本当にそんなのになったのか。もう少し注意して身の回りを見てみる。
依然として、変わった点はない。
「なら、別に大丈夫だよね」
案外、自分を変えるいいきっかけになるかもしれない。
それに、いろいろ活動していけば友達も増えるかもしれない!
打算的なことを考えていると、ポケットに入っていたスマホに通知が入った。取り出して見てみる。
ロック画面に一軒の通知。『このアプリをインストールしますか?』とのこと。
アプリの名は『magical dose』。
白い空間で聞いたアプリとはおそらくこれだろう。
恐れることなく『はい』ボタンを押した。
すると、インストール中の表示が出て、数秒後、白い粉の入った瓶のアイコンが増えた。その下に─magical dose─とある。
とりあえず開いてみる。
中は思ったよりもシンプル。まず目につくのは、色分けされたボックスが二つ並んでいる所。
左から『魔獣リスト』、『獲得報酬』というテキスト。
ひとまずどんな魔獣がいるのかを見てみたい。
『魔獣リスト』を選択した。
そこでは魔獣が羅列して表示され、難易度は星☆から星☆☆☆☆☆まである。
何を基準に選べばいいのかわからないので、この中で簡単そうな星☆の魔物を受けることにした。
星☆の魔物でもかなり多くいるようだ。
なんとなくフィーリングで決めよう。
『ブラックウィドウ』
選択すると、スマホ上に地図が表示されて、ピンが立てられた。
とりあえず行ってみよう
そう決め、目的に向かい始めた。




