覚醒……………………………………15mg
前回のあらすじ
ファージを前にしてほぼ壊滅状態の魔法少女達、紡麦は選択に迷う。
ここに残って戦うべきか、一人だけ逃げるべきか、と。
「私は……、私は逃げない。
友達を置いて私一人だけ逃げることはできないから。
みんなで、みんなで一緒に帰りたいから」
梨乃も同じ思いのはずだ。
私の思いは痛いほどわかるだろう。
梨乃は躊躇している。
しかし、それも数秒のこと。
「わかりましたわ。
でも、あなたはここにいてくださいまし。
無理に危ないところに行く必要はなくてよ」
梨乃はあくまでも危険から私を遠ざけたいようだ。
私を無力だと思っているのだろう。
しかし、私だってやるときはやるんだ!
私は無策にファージに向かって駆け込んでいく。
梨乃の制止の声を振り切る。
ファージの直ぐ側まで来たとき、海桜がいることに気づいた。
さっきまではファージ影に隠れて気づかなかった。
海桜は地面に倒れてもなお、ファージに食われまいと必死に抵抗している。
しかし、その抵抗力ももはやほぼ尽きかけ、捕食されるのも時間の問題だ。
私は何ができるか。
海桜を庇って死ぬか?
いや、それでも海桜まで死んで、結果ふたりとも死ぬだけだろう。
私ができること。
海桜を助けるために出来ること。
考えろ。
何ができるか。
どうすればいいのか。
考えた結果、私が取った行動は、
充電器の端子を投げ、海桜に突き刺し、もう一方のプラグを自分に突き刺すことだった。
太ももに痛みが走る。
なんで私はこんなことをしたのだろうか。
考えすぎて頭がおかしくなっちゃったのかな。
緊迫した空間の中で過剰なストレスを感じて変になっちゃったのかな。
張り詰めた緊迫感の中、妙に冷静に自分のことを分析していた。
突然、体全体が熱くなった。
手先から足先まで、体の隅から隅まで熱くなった。
その熱さがプラグを刺した太ももに集約していき、充電器に吸い込まれたように熱さが消えていった。
その熱さはエネルギーのようで消えていった途端、体がだるくなり、意識が朦朧としてきた。
熱さは消えていったものの、その存在を感じ取ることはできて、失いかけた意識の中で、充電器のコードを伝っていき、海桜に注ぎ込まれているような感触があった。
その直後、視界がブラックアウトした。
…
〈海桜視点〉
ファージに食べられそうになる。
蚊のようにストロー状になった針を突き立てられるのを、ハサミで防ぎ必死に抵抗した。
食べられるまい。
絶対に、食べられるまい。
と、抵抗した。
だが、体勢が悪かった。
私は地面を背にしている。
重いハサミを上に掲げるように両手でもち、針を押す力に負けないように防いでいる。
ハサミを持つ手は震え、針は間近に迫ってきている。
鋭く尖った針の先を見るだけでもゾッとして、言いしれぬ不安や恐怖が襲いかかってくる。
喉の奥から込み上げてくるものもある。
不安に耐えて、
恐怖に耐えて、
吐き気に耐えて、
魔獣の押す力に耐えて、
もはや、現状に逆らわない方がいいなんて思ってしまう。
でも、それは嫌だ
せめて紡希に恩を返すまでは死にたくはないし、死ねない。
どうにかこのまま耐え切れ、私。
耐えろ。
耐えろ。
耐えろ。
耐えろ。
耐えろ。
──だめだ……
もう腕が持たない。
でも、まだ大丈夫だ。
紡希を残して死ぬよりも現状に耐えることのほうが辛くはない。
だから、きっと耐えきれる。
体に痛みが走った。
──なん…で……、もう刺されてしまったの……?
いや、刺されてない。
眼の前の針は私に達していない。
じゃあ、どこからの痛みなの?
抵抗を続けながら、痛みの場所を探ると、脇腹辺りから痛むように感じる。
それを感じ取ったとき、痛みが引いてきて、代わりにその場所が温かくなる。
どんどん温度が増していって、少し熱く感じてきたが、火傷するほど高温というわけでは無い。
なんというか、熱めのお湯に浸かったときに似てる。
その熱さがじんわりと体中に広がっていく。
その過程でエネルギーが満ちてきて、気力も湧いてくる。
そのエネルギーをパワーに変えて、針を押し返す。
先程は防戦一方だったのに、その形勢をひっくり返すほどのパワーが私の身に宿った。
ハサミを握り直して、ファージの針と本体の間に突き刺す。
硬い結晶や手足と異なってその連結部分は脆かった。
胴を下から突くと、結晶の内部まで到達し、コアを打ち砕いた。
ファージは徐々に粒子となって崩れ去った。
──やった……ファージを倒した。
ファージを倒した喜びや安堵感が込み上げてくる。
感じた喜びが言葉となって声に出かける。
そこで気がついた。
足元に紡希が倒れている。
紡希の意識はない。




