表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【5】言わぬが花とは言うけれど【完結】  作者: ホズミロザスケ
隣に咲く花は綺麗
7/15

第七話 隣に咲く花は綺麗7

 翌日の文化祭二日目も同じ時間帯で一時間校内清掃にまわる。

「あんだけ飾り付け大変だったのにもう終わりだな」

「あっという間だよね」

 ペンキで色付けて字を書いた木の看板も、色画用紙でつくった飾りも数時間後にはすべて撤収。掃除をして、元の学校に戻るのが寂しい。

「岸野、昨日、このあと部活だって言ってたけど、部活どこ?」

「家庭科部」

 全然ピンと来ない。

「家庭科部って何すんの?」

「主に手芸。ぬいぐるみ作ったり、服作ったり、アクセサリー作ったり。みんな好きなもの作ってる。で、たまに調理室借りて料理したり」

「へぇー!」

「今は先輩もいなくて、一年生五人だけだからまったりした良い部だよ。文化祭は空き教室借りて、小物販売してる」

「岸野は何作ったの」

「私はヘアゴム。丸い飾り……くるみボタンっていうんだけど、それに好きな布を貼り付けてゴムに通して作るの。こんな感じ」

 そう言うと、俺に手首を近づける。さっき話してくれた通り、花柄の、丸い形の飾りのついたヘアゴムだった。

「マジで手作り? クオリティ高いな」

「ありがと。褒めても何もでないよ」

「お世辞じゃねーよ。すげえって思ってる。俺もなんか出来たらいいんだけどな」

「佐野くん、興味あるの?」

「興味というか、憧れかな」


 俺は中腰になって、汚れたプラスチックスプーンをトングで挟んでゴミ袋に入れた。

「両親が共働きでさ、三つ上の姉ちゃんが小さい頃から面倒を見てくれてた。学校が終わったらまっすぐ家に帰ってきて、家族のために料理を作って、俺を風呂に入れて、一緒に寝てくれて」

「良いお姉さんだね」

「尊敬してる。照れて口には出せないけど」


 こういう家族のこと好きだなんて真剣な話をしたら、からかわれると思って友達にも言ってこなかった。でも岸野は茶化さずに聞いてくれている。

「姉ちゃんがいなかったら俺はどうなってたんだろうって思う。料理も出来ない、怖がりで一人では風呂に入るのも、眠ることも出来なくて。父さんや母さんと同じくらい、姉ちゃんには感謝してる。でも、この歳になっても恩返し、出来てないんだよ。なんか作ってさ、プレゼントとかできたらとか思うけど、特技も趣味もないから」


「特技も趣味もないなら作ればいいじゃん」

「そんな簡単に作るって言ったってさ。才能ないし」

「やってみないとわからないもんだよ」

「そうか?」

「私、絵は下手だけど、アクセサリー作ったり、お人形の洋服作るのは大好きで」

「絵が下手なの知ってるから、なんか説得力がある」

「もう!」

 ふくれっ面になったあと、一転、「そうだ!」と明るい表情に変わる。

「佐野くんもよかったら手芸やってみない?」

「はっ⁉」

「自分で作ってみるって楽しいよ! 家庭科部は女の子ばっかで気まずいなら、私が手芸教えてあげる」

「岸野教えてくれんの」

「え、あ、ごめん! 興味持ってくれたのが嬉しくて。でも突然教えるからなんて、おかしかったよね……」

「いやいや、おかしいとかじゃなくて。俺みたいなのに手芸教える時間を友達や……彼氏とかと一緒にいるほうがいいんじゃないの? って思って」

 そう言うと、岸野はうつむいてしまう。せっかく教えてくれるって言ってくれてるのに、思わず俺は突っぱねるようなこと言ってしまった。

「私、その、佐野くんともっと仲良くなりたくて……」

 トングとゴミ袋を持ってない左手で、俺のブレザーの裾を小さくつまむ。そして、

「好き」

 と一言、声量は小さかったけど、しっかりとした口調で言った。

「……えぇ⁉ 好きって……」

「言葉そのままだよ。私は佐野くんが好き。話してて楽しいし、前からカッコイイなぁって思ってて」

 初めて受ける告白、しかも、気になってた子から。俺は目を合わせることは出来なかったけど、

「えっと、その……俺で良ければ」

 とその告白を受け入れた。

「あ、ありがと。じゃあ、これからそういうことでよろしく」

 はにかみながら笑って言った岸野はかわいくて、俺はただ黙って頷くことしか出来なかった。


 そうやって付き合い始めて、連絡先も交換して、メッセージやりとりして。だけど二週間後にあの一件が起きた。文化祭の後に期末試験があったから、まだデートはおろか、手もつないでない。もうすぐ冬休みだし、クリスマスもあるというのに。メッセージ、やっぱ俺から送ってみようかな。でも既読無視されるのも、ブロックされるのも嫌だなぁ。

 はぁ……と大きいため息をつくと、

「悠ちゃん!」

 と突然姉ちゃんが声を上げた。

「なんだよ。そんな大声で呼ばなくても聞こえてるけど」

「パン、いいの?」

「あ!」

 慌ててトースターからパンを取り出す。すっかり焦げてしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ