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【5】言わぬが花とは言うけれど【完結】  作者: ホズミロザスケ
咲くも枯らすも自分次第
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第十二話 咲くも枯らすも自分次第5

「先日京都で真綾を泣かせてしまった。言わなくても、真綾に思いは伝わっている、真綾は俺を好いてくれている。その気持ちに驕っていた。そのせいで些細な出来事から、真綾が以前から気にしていた不安を一気に爆発させてしまった。すぐ話し合って、固く約束した。お互いの気持ちはしっかり伝えていこうと」


 傍から見れば、ただイチャついてるだけにしか見えないけど。


「真綾に出会うまで、家に引きこもり、人と会話することを避ける生活を送っていた。あの一件で改めて自分の置かれた環境を思い返した。両親はもちろん執事、メイド、調理師、庭師……。両親の不在が多い中、俺の周りには多くの人間がいて、見えないところで俺の世話をしてくれ、住みやすい環境を整えてくれていたのだ。その人々への感謝の気持ちを述べたことがないことに気づいた瞬間、どれだけ己を恥じたか。挨拶から始めようと、少しずつ行動に移した。最初はたいそう驚かれたが、向こうも少しずつ声をかけてくれるようになった」


 柔らかい表情を浮かべて続ける。

「悠太、お前が真綾のことを好いていることはしっかりわかっている。なにかあれば、真綾のことを目で追っていたからな」

「えっ……」

 そんな指摘されると恥ずかしいんだけど。別に意識してたわけじゃないし。

「だからこそ、お前が真綾に語気の強い言葉で反応するのが気になった。思わずお前に訊いてしまった。『真綾にそんな無礼な態度をとるんだ』とな。……お前の言う通り、俺は部外者だ。軽率に口出ししたことは反省している。すまなかった」

 頭を深く下げられ、俺もたじろぐ。

「いや、まぁ、正直、正論ぶつけられて何も言えなかっただけなので……。俺こそ初対面なのに、すいませんでした」

「俺のことは気にするな。弟や妹というものは生意気なものだと本で読んだ」

 本で読んだ、か。ホントに変わった人だ……。でも、興味が尽きないって姉ちゃんが言った意味すごくわかる。


 その時、階段から足音がする。

「悠ちゃん、何事……?」

 何年も着続けているクマのイラストがたくさん描かれたパジャマに赤い半纏を羽織った姉ちゃんが現れた。まだまだ眠いのかメガネの奥の目は半分も開いてない。

「あ、姉ちゃん」

「真綾」

 君彦さんの顔と声を認識すると一瞬で目を覚まし、

「へっ……? なんで君彦くん……えっ?」

 真っ青な顔のまま、バタバタと階段を上っていく。自分の部屋に入ったかと思うと、泣き叫ぶ声が聴こえてきた。俺と君彦さんは慌てて二階にある姉ちゃんの部屋のドア前へ向かう。


「おーい、姉ちゃん。あのさ……」

「悠ちゃんひどいよ! 君彦くん来てるのに起こしてくれないなんて!」

俺がなにか言いかけようとすると、遮るように、

「悠ちゃんはいつもいつも! 大切なことなにも言わない! 後になって言っても遅いんだからね! 世の中、言われなきゃわかんないことばっかだよ! 悠太の気持ちなんて全部わかんない!」


 俺が悪いとはいえ、怒りスイッチ入れちまった。姉ちゃん普段怒らない分、規定オーバーしたらずっと溜め込んでたこと一気に放出しきるまでずっとキレたままなんだよな……。


「こないだ体操服勝手に洗ったって怒ってたけどさー! 廊下にポイって置かれてたら洗うでしょ? まさか持って行くなんて思わないじゃん! お弁当のことだってそう! 急に要らないって言うし! 理由訊いたら逆ギレしてさ⁉ なんでも反抗期のせいに出来ると思ってんの⁉」

「別に反抗期だとか……」

「口開けば、文句ばっかり! 自分でやりなよ! 子ども扱いして欲しくないんでしょ!」

「それは……」

 今まで自分の言い放った言葉がブーメランになって突き刺さる。俺たちの間に沈黙が出来ると、

「真綾、入るぞ」

 君彦さんはドアを開ける。姉ちゃんはベッドの上で布団に潜って丸まっている。

 久しぶりに姉ちゃんの部屋入ったけど、相変わらず本だらけだな……。床に物置いてなくて綺麗だけど、机の上にファッション雑誌に料理雑誌、文庫本にマンガ本が置きっぱなしだ。本と本の間にプリント挟まってたりするし。君彦さんはベッドの前に膝をついて、布団の上に手を添える。


「驚かせてすまなかった。今日の件は悠太が悪いんじゃない。俺が勝手に早く来て待たせてもらっていた」

「君彦くんが早く来てくれたんなら、わたしだって早く会いたかったのに」

「起こすのは可哀想だと思って起きるまで待っていた」

「うぅ……」

「それにしても真綾もあんなに声を荒らげることがあるのだな、驚いた」

「恥ずかしい……。姉弟げんかしてるところ聞かれるなんて。それに、ノーメイク見られたし、ダサいパジャマだし、寝ぐせも……もう最悪……」

「寝起きの真綾を一瞬しか見えなかったのが残念だ」

「見なくていいよ」

「真綾もメガネをかけているのだな。俺と一緒だな」

「え? 君彦くんも目が悪いの?」

 鼻から上だけ布団から顔を出す。メガネのレンズには涙がついて、びちゃびちゃになっている。

「ああ。外出するときはコンタクトをつけている」

「そうなんだ! 君彦くんのメガネ姿見てみたいな」

「いずれ毎日、嫌になるほど見ることになる」

「それもそっかぁ」

 と姉ちゃんは笑い始める。

 なんだこいつら、めちゃくちゃイチャついてんだけど……あの、俺、いるんだけど……。


「機嫌を直してくれないか、真綾」

「……わかった。服着替えてお化粧する」

「うむ。もう少し真綾の部屋を見ていたかったが」

「それは今度ちゃんと片付けた時に……」

「汚くはないが、真綾がそういうなら仕方ない」

 すっかり機嫌が直っていると、安心していたら、

「あ! 悠太、トースターで食パン焼いといて。あと、ケトルでお湯も沸かして」

 一変、ぶっきらぼうな声色で言われる。

「なんで命令すんだよ」

「命令じゃないもん。お願いだもん」

「はぁ?」

 言い争いに発展しかけたその時、君彦さんが無表情のまま、スッと手を挙げた。

「じゃあ、真綾のために俺がやろう」

「君彦くん⁉」

「君彦さん⁉」

「やり方さえ教えてくれれば出来ると思う」

 箱入りのお坊ちゃまで家電にほぼ触ったことなさそうなのに、どこからそんな自信が沸いて出るんだろうか。

「ふーん。悠太はお客さんの君彦くんにさせるんだ……?」

「ああもう、わかったよ! 俺がするから。ほら、君彦さん、戻りますよ」

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