新仕事
---入社から3か月後の6月2日
暁は新しい課の仕事に就いた。
今回行う業務は、デッドニングという作業である。
簡単に説明すると、車の鉄板内部に制振、吸音効果のある材料を貼っていき、車の振動や騒音を軽減させる業務だ。
ドアだけの施工の場合もあるが、今回はフルデッドニング。車体全体に施工していく。
簡単そうに見えて、素人の暁にはなかなか難しい作業だ。
「納車日は4日後」と営業兼指導員の小川に言われる。
「了解です!」暁は4日もあれば終わるだろうと元気よく返事をする。
ザっと施工の流れを教えてもらった。
そして作業開始。
・・・・・・
「あれ、何すればいいんだ?」
暁は何もわからなかった。
小川は営業でお客様と話している。
仕方ない。自分で調べてやろう。
暁は自分のスマホで施工方法を調べた。
今の時代、大体のことは検索すれば出てくる。
暁は調べながら作業を進めていった。
--3時間後
小川が暁の作業を見に来た。
「え、遅いよ?」小川は驚いた表情で言った。
暁も驚いた表情で「え、、」
小川のような経験者からしたらキホンの「キ」の字の段階にも満たないのだろう。
そこから、約30分間、小川が作業に加わった。
教えるというより、作業を進めてくれる感じだ。
30分が経過し、小川はお客様が来るからと去っていった。
暁は一人、何もわからない空間に取り残された。
何もしないのはいけないと思い、調べながらまた取り組む。
気付けば午後6時。定時の時間だ。
小川が暁の元へ歩いてきた。
「あと3日もあるし、今日は帰ろうか」
「はい」
暁からしたら、良いペースで進んでいると思っていたが、小川の表情を見る限り、そんなことはないのだろう。
暁は、人の表情、口調を細かく観察する傾向がある。
小川が営業をしている際も、暁は業務に行き詰まり、何度も小川に聞きに行っていた。
しかし、忙しさをアピールする小川に、軽く口頭で説明されるだけであった。
暁も、もっと細かく聞けば良かったのだろうが、小川は指導員という立場であるが、営業部の人間だ。迷惑をかけてはいけないと、暁は察する。
「明日からまた頑張ろう」
そう思い、暁は退社する。
タイムカードを切りに行く際、先輩方が声をかけてくる。
「どうだった!?」
「お、期待の若手!」
先輩方は笑ってくれていた。
「難しいけど頑張ってます!」
暁も笑顔で答える。
先輩はみんな良い人だ。
最初だからできないのは当たり前。頑張ろう。
暁は帰路につきながら自分を鼓舞していた。
先輩方の笑顔の声掛けの裏には、暁への心配が隠されていた事は、後になって知ることとなる。