叶わぬ理想と式神システム
★叶わぬ理想と式神システム
「ならば貪欲に自らの願望に従えばいい。私は期待しているよ、また君が神にのし上がることを。」
「はあ…」考え込む童子式神。「あっしは、やはり分霊だったのですね。」
鬼は意外そうに片眉をあげるや、鳥が鳴き始め、夜が開ける前触れが訪れているのを知る。
「おや、もう夜が開けるようだ。早いなぁ。」
「ま、また時間切れっスか!」慌てふためく童子式神に鬼はヒラヒラと手を振り、本殿に向かい出す。
「私は休むとするよ。人の姿をとるのも以外に疲れる。」
「あ、あの」
「はは、そういや、いつも私の式神のお相手ありがとう。」
「式神?おめぇ何様のつもりだ…!」
「式神…?いたかしら…?」地面から言う山伏式神。
「君は見たことないのかね?巫女装束をきた子供の姿をした式神だ。」
二人は衝撃で固まる。
「えっ!あ、あの…!まさか、主って!」
巫女式神の主が鬼であることを知り、山伏式神はビビる。
『あたしの主の魂を食べればいい。それでいいだろ。』
「食べられるわけないじゃない!!」
「食べる?」
「い、いや!!な、なんでもないわっ!」
バクバクした心臓を抑えながら山伏式神は取り繕う。
「巫女式神が」
「巫女式神と呼んでいるのかい?変な名前を貰ったねえ。」
「アイツとは何故契約したんですか?神が式神と契約など--」
「契約はしていないよ。私から生まれたのだからね。私が目覚める前からすでにアイツは産まれ、越久夜町の情勢をくまなく観察しあげた。アイツなりにね。」
「あ、あの巫女姿の奴…式神じゃなかったの?!」
「式神さ。私が式神として作り上げたのだからね。妬み嫉みを糧にして、主の魂を食らう人ならざる者…そう設定されてる。そうだろ?式神諸君。」
二人は顔を強ばらせる。
「鬼神が式神を作るなど、式神システムを崩壊させたいのか?」
「ほう…。何度も言うが私は一応鎮められた神でもある。そしたらあれは…眷属かな?だが式神として作ったのだから、式神だ。まあ、どっちでもいいだろう?」
「良いわけないだろ。」
「少し失望したぞ、童子式神。現状を打破したいのなら固定概念に囚われてはいけないんだ。保守的な言動では神格を得られないじゃないか。」
「て、てめえっ!」
「さ、おかえり。お子ちゃまは寝る時間だ。」
俯き落胆を堪える童子式神に鬼はモヤになって消えていく。
「君が神格を得るのなら、再び会えるだろう。」
「き、消えた……???」
山伏式神が顔を上げ、当たりを見回した。「いない……」
「あ、あ…、私生きてる…。」山伏式神が地面を這いずりながら、安堵する。
「…無様。」呆れた様子で童子式神は言う。
「な、なんですって?!このっ!」立ち上がろうとするも体に力が入らず、また寝転がる。
「は、早くこの場から去らないとっ!ミンチにされるわ…!」
「はいはい、手を貸しましょうか?」童子式神は手を差し出すと、ガッと掴まれた。ビュンと視界がブラックアウトし、浮遊感に揺さぶられる。
「え」
宙にいるのに気づき、ギャグ顔になる。
「わっ!またどっかに?!」
暗がりに瞬間移動した状況に、童子式神は目を丸くする。
「ギャッ!!」地べたに落下して、ぺたぺたと確かめがら痛がる。
「じ、地面はあるようですね…はあ…まったく驚きますよ!」
「だって!しょうがないでしょ?!逃げるしかないじゃない!あんな危険なとこ!」
虚無(境界)に逃げ込んだ山伏式神に詰め寄られる。
「まあー…確かに鬼神のテリトリーに入ったのは初めてっス。で、ここはなんのテリトリーなんスか?」
「境よ。境界線の上」
「えっ」
「どこなのかは不明!悪い?!!!」逆ギレする山伏式神。
「困りますよ!どうやって帰るんすか!」
「困るってなに??!!感謝ぐらいしなさいよっ!あなたも避難させたんだから!」
「あー!感謝しますから!」怒鳴られてうるさがる。「この世界は太陽の影響を受けないようですし、助かりましたよ。」
「そうよっ!感謝しなさい!もうっ二度と町には下りたくない!二度とよ!」
「はいはい…」
「だって鬼はなんでも食べちゃうのよ、人も人ならざる者も!一口でっ!」
「落ち着けっス!」
「そっちだって興奮してるじゃない!」
がくがくと童子式神を揺さぶる山伏式神を無理やり引き剥がす。
「その鬼からわたしたちは生き残った!幸運だわ!」
「あ~!黙れっ!」
「本当によく食われなかったわね…何度でも言うわ!人も魔も神も分別なく食べ尽くすって噂じゃない!!」
「そういうお前も主を食べたのに、食われるのがそんなに怖いんスか?」
「…しょうがないじゃない。誰だって食われるのは怖い、それにこの星にいる限り、食う食われるからは逃れられないのよ。…でもこのザマ。主に仕えても、食べてもこの地獄から逃げ出せなかった。」
「地球の定めたルールですからねえ。」
《過去の漫画を使い回すか、書き直す》
「何よ」
「あなただって主を食べてきたンでしょ!あなたに責められる筋合いはないわ!」
「おめえみたいに我慢できないグズじゃあないでござい。いくら食ってもあっしの理想は叶わない。」
「理想?」
「あっしは-」
かつて神の時代がありました。
彼らは星の外から星の出来事を見守り、たまに壊し
平和に過ごしていました。
人類が誕生すると彼らは人類の進化を見張らなくてはなりません。
彼らは自らの分身を地域に派遣しルールを定め、人々を監視しました。
分身はある程度の自我を有し人々から崇められました。
しかし彼らが干渉できる余地がだんだんとなくなり始めると分身達は人々から忘れられ、または消滅し、混沌を極めました。
分身達は互いの存在を確立するため争いました。
負けた分身たちはやがて人にすがるようになります。
人々は精霊、鬼神を操る術として彼らを式神と呼びました。
式神は人に仕えます。
そのため勝った分身たちから疎まれ、惨めだと罵られました。
しかし式神達は人の魂を得るたび確信します。
この星に適応し、さらに力を得られる。
それを聞きつけた魑魅魍魎が進んで式神になりました。
式神は式神です。
どんな異形だろうと同じ土俵に立ち式神としてやっていけることも分かりました。
この星の生命が持っている力は壮大でした。
あっしらは異物だ。
この星から出て行けと言われているようなものだ。
いくら適応性を身につけても馴染めない。
「え?あっしは?」
「……はあ、なんか疲れた」
「えっ?なんなのそれ!」
「待ちなさいってば!あなたも人のように"理想"なんてものを-」
「ええ、まあ」
「そんな低俗なもの捨てなさい!一端の分霊だったのでしょ?」
「それは昔の話です。」
「…誇りをすてたのね。」
「おめぇだってさっきまで理想を抱いていたくせに。」
《書き直しおわり》
「り、理想なんてっ、抱いてっ!叶わないのに……!わ、わたしはっ」
顔を真っ赤にする山伏式神。「…なり代わろうとしていたじゃないですか。」
「--と、とにかく荒れ野に帰るからっ。あなたは自力で帰れる?」
「あっしは境界を飛び越えられるほどの力はありません。荒れ野では朝になってしまいますし。」
「そう、ならしかたないわね。諦めなさい。」
「は、はあ!?」
「一生ここで過ごしなさい。またいつか会えたら、その時は考えてやってもいいわ。」
「ちょっ!」
「じゃあね。」暗がりに混ざり込む山伏式神が空間から消えていく。残された童子式神は上も下もない、大虚に佇んだ。
「終わった……。」呟くと腰を下ろした。「どうしますかね。これまで食べた主の数でも数えましょうか。」
指で数を減らしていく童子式神の前に誰かがやってくる。
「そちは自殺志願者か?」
寡黙が静かに歩み寄ってくる。「このような虚ろな空間に迷い込むとは。吾輩がいなければ永遠に彷徨うことになる所じゃったぞ。」
「ええ。助かりました。寡黙、ありがとうございました。」
「ふむ。馬鹿なヤツじゃ。」
寡黙に導かれながら、二人で歩く。「地主神の神域で鬼神に会いました。」
「………。そうか。」
二人は無言で歩いて行く。
呼ばれた気がした。あっしは童子式神-それ以前の真名を。
-覚えている。己の記憶が抜け落ちていっても、これだけは。あっしの描く理想の計画を。
呼んだ声の主に会えば、取り戻せるかもしれない。名も、存在も。
………無理だった。あっしは、まだ式神だ。