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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
鬼神と巫女式神シリーズ
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おにがみ

 ★おにがみ


 いつも現れる巫女式神がいない。童子式神はそれはそれで普通なのだ、と自分に言い聞かせる。巫女式神が現れたのはいつだか定かではないが、気づけば話すようなふざけた仲になっていた。

 巫女式神に会う前の記憶があやふやだ。まるで寝ぼけていたかのように。

 "一度眠ったら起きないタイプだろ、あんた。"

「眠っていた……?あっしは…これまで」

「何を、魔が眠ることなどありえようか。世迷い事を。」

「あ…あっ、ええ。そうっスよね。」

 尽かさず寡黙が思考をさえぎり、童子式神は釈然としないながらも頷いた。

「無駄なことを考えている暇はない。テリトリーの巡回をしろ。」

「はい。」

 そろそろとテリトリーの巡回に向かおうとする。


 寡黙が話があると、ミーティングが始まる。空白地帯ができたという。


「何故空白地帯ができたかは検討もつかぬ。神域が前触れなく消失することがあろうか?」

「そうなんスか…不思議ですね。なら…退去したのでは?」

「普通なら退去したと考えるじゃろう?普通なら-それ応答の動きを前もって匂わせる。それくらい突如空白になることなど有り得ぬのだ。」

「もしや……」

 チラリと鬼を思い出す童子式神。

「越久夜町の神使らは我々の仕業だと決めつけ、警戒をさらに強めるだろうな。これは誤算じゃ。……そちはそれを見てくる。よいな?」

「ええ…その場所は?」

「空白地帯とは…地主神が祀られていた神社じゃ。」

「…。」

「そちが見てきたように、あの神社で残念ながら何かが起きた。我々は式神。神々が定めた領域には入れぬ。真に何かが起きたのかは知れぬがのう、外側からでも見定める必要がある。」

「もし…領域にできるのなら。」

「うむ。それを見てくる、いいな?」

「ええ…」釈然としない童子式神に寡黙はわずかに片眉をあげた。

「何かあるのか?」

「呼ばれた気がするんす。あの日、地鳴りが起きた日に…」

 地鳴りが起きてからこれといったことはないが、それが気になりしかたがない。

 --あっしは童子式神。

 だが、違う。あっしには本当の名がある。

「ずっと昔に--」

「吾輩ら式神には名など必要ないのじゃ。式神は式神でしかない、そうじゃろう。のう?」

「あ、はあ…そうでしょうか。」

「そちは式神でしかない。」ジッと目を見てくる寡黙。

「ええ……」

「さあ、行け。夜が開けてしまうぞ。」


 町は静まり返り、月が空に浮かんでいた。神社は森に隠され、童子式神はそっと着地し人間形態に戻る。

 キョロキョロと当たりを見回したが巫女式神は現れず、拍子抜けする。

 呼ばれた気がした。あっしは童子式神-それ以前の真名を。

 -覚えている。己の記憶が抜け落ちていっても、これだけは。あっしの描く理想の計画を。

 呼んだ声の主に会えば、取り戻せるかもしれない。名も、存在も。

「あれ…。」貼られていたシールドがない。困惑しながら鳥居を潜り、異変を感じる。誰もいない。

 -空っぽ?

 当たりを見回し狛犬がいないのに気づく。そして神域にしては穢れがひどい、と童子式神は冷や汗を垂らした。

 -穢れがひどい…神域でこれはありえない……!

「--!」

 境内の中に人影があり、先程までいなかったはずだと童子式神は息を飲む。月明かりの下、人影は振り向いた。

「やあ。」

 鬼が優しげな笑みで立っている。月の下でたたずむ鬼にただならぬ気配を感じ冷や汗が垂れた。

「あ、あの、またお会いしました…。」

「緊張しなくてもよいではないか。」

「え、ええ。」たじろぐ童子式神に鬼は近づいてくる。

「やっと会えた-」

「あなたたちも来てたのね!」場違いな声が二人を止める。鳥居から山伏式神が走ってくる。

「境内に入れるなんてついに神が弱ってるようねっ!どうする?だれがもらう?」

「おやおや、お決まりのメンツになったなあ。」

「?何かあったの?」

 山伏式神は首をかしげ、ハッと異変に気づく。

「神使がいないじゃない。」

「神使?ああ、あの小さな獅子と犬のことか。確かにいたなぁ。」

 鬼はニヤニヤしたまま、台座を叩く。

「境内に魔がいるのに…出てこないなんて、どうしたのかしら?」

「主祭神も居ないようです。」

 シンとした境内はどんよりとしており、聖なる空気ではない。童子式神は何かがおかしい、と眉を顰める。

「あなたは知らない?」

 すると鬼は

「アイツらなら…私が全部食べちまったさ。」牙が覗き、2人は震え上がる。

「わははっ、そこの山伏まがいも-人を喰ったね?」

 山伏式神がびくりと跳ね上がる。

「な、なんで知って-ま、まさか…お、オニ?!ひ、ひい!食べないでええっ!」

「おいっ!」走っ手逃げていく山伏式神を追おうとするも掴まれる。

「童子式神、君なんだね?神威なる-」

「えっ、えっ?ど、童子式神?!何故"あっしの名"を?おめーなにもんだ!」

 興奮した目付きから冷静なものに変わる。

「そこの血なまぐさい奴が言っていた、人の道から外れた人の成れの果てオニ、だ。」

「人の成れの果てって!そんなもの居たんすか?!」

「いるさ、目の前にな!」

 楽しそうに笑う鬼に童子式神は虚勢をはる。

「ここの神を倒したのお零れをもらいに来たんスか?それなら遅いっス。あっしらの領地になるんですから。」

「ふふっ、ここは元々あたしの神域だ。」

「へお!!?!」

「久々に起きたら白々しい奴らがあぐらかいて図々しく居座ってやがる。眠らされる前には見ない奴がね。ここは私を祀る神聖な場だ。それとこの場はあたしのルールで成り立っている。分かるね?」

 神々は神域内の森羅万象を操れる……、下手に動いたらどうなるか…ここは従うしかねえ……。

「……分かりました。」

「よろしい。」

 困ったものだ。鬼神のテリトリーに迷い込んでしまったッス…。

 山伏のヤツが下手に動かなきゃいいが……

 忽然と消えている山伏式神が石碑の後ろに隠れ、こちらを見ている。それに童子式神は呆れた。

「まだ力加減が分からないもんでねぇ。人でいられるのが奇跡なぐらいだ。」

「…あっしに何をお望みなのですか。」

「お話をしよう。前から君と話したかったんだ。」

 上機嫌に鬼は言う。

「話すって……。」

「そうだねえ。まず何から話そうか。そうだね、今宵君がやってきた理由について聞こう。」

「偵察に来たっす。まさかこんなことになるとは。」

「ふうん?偵察ねぇ…君の主はこの町を掌握しようとしていたんだね?知っているよ、-でも遅い。随分昔から私はこの場所で目え覚ましてたんだ。」

 ことが始まる最初から。なあ?

「盗み見たんすか、あっしらを。」

「ああ…盗みも何も、君らが何かよからぬことを企て、実行しているのは魔の間では有名だった。この狭いコミュニティで秘密で何かをするというのは、早計だったのではないかね?」

 鬼は欄干に腰掛け、足をぶらぶらさせる。

「…それは分かっているっス。」

「主とも会った。」

「…」目をそらす童子式神。

「人の世とは違う領域で、だが。君を従え、越久夜町を破壊する人間がどういう者なのか知りだったんだ。あれは…駄々をこねる大きな赤ん坊って感じだったね。残念だ。」肩を竦め、不満げな鬼。

「そりゃあそうでしょう。人間ですから。」

「人間が皆幼いとでも?保護対象だと?そんなことは無い。人間をナメるなよ、地球の生態系の頂点に立つのは誰だ?人間だ。」

「なるほど、人類信者のようですね。」

「私がなんだったのかも、覚えていないのか?」

「ええ。」

 鬼は額に手を当て、わざとらしい態度をとる。

「……ふーむ。」指の合間から鋭い眼光が除く。

「随分その人間風情にご執心のようだね。意外だよ、私はびっくりしてしまった。見間違えたのかと思ったよ。」

「わたくしは式神でござい。主に仕える種族ですから」

 ムカムカしてきた童子式神に、鬼はニヤニヤする。

「へえ。式神になると性格まで変わるのかい。」

「さあ、知りません。あっしは前からこうだった気がします。」

「……。分霊らに見せてやりたいね。ヒトっつうのはこんなに変わるってな。」

「おめぇが何者か知らないが、それ以上言ったらあっしも何するか分からないぞ。」

「へん、相変わらず可愛くない奴だ。」

「何も知らないくせに。分かったような口を聞くな。」

「……君が話したいことへ戻そう、残念ながらここは私の縄張りだ。君らには譲れない。空白地帯を領地にしたいのならあきらめて帰るんだね。」

「主さまと話したんだろ?なら、」

「それもアイツと話をつけてある。もう一度言う。この土地は渡せない。アイツは言わなかったかい?」

「いいえ。」

「ふーん、何だかおかしいねえ?」

「…。主さまはおめぇを信用していないと言うけとだ。」

「へへえ?まあまあ。怖い顔はよしてくれや。」

 鬼は欄干から着地すると、スタスタと石畳を歩く。

「そうだ。あんたの主が鬼と化したら私が横取りしに来てやるよ。人の魂より高カロリーだからねえ。」

「下衆が……!」

「冗談さ。今はね。あのツマラナイ人間に惚れ込む-童子式神、君も食べてあげたいぐらいさ。」

 人ならざる者丸出しで歯を見せつけ笑う。

 ゾッとして後ずさる。「ひっ……」

「そこの血なまぐさい式もどき。いい加減出てきたらどうだい?」

「わわわ私も神だったのよっ!多分あなたより町の役に立っていた-」

 鬼は山伏式神をつまみ上げる。

「こいつは存じない神だな。」

「や、やめて食べないでっ!」顔面蒼白でもがく。

「人からしたら迷惑な寄生虫だ。式神ってのはね…。」

「食べないでっ!なんでもするわ!あの童子式神、とか言う奴を殺めてあげる!あなたを主として仕えてあげるから!」

「やはり無様だな、式神というのは。」

 暴れる山伏式神をニタニタしながら見つめる。

「…おめぇはそんなに式神が嫌いか。」

「ああ、私の崇拝していた神を陥れ惨めに恥辱した。まさか君が、あの神だとは思うまい。」

「あの神?」

 童子式神は目を見開く。 -分霊であったのは、勘違いではなかった?

「ふふ、童子式神。知りたいかい?」いじらしく人差し指を立て、口に当てる鬼。

「ええ。」真剣に答える童子式神。「あっしは自分が何者だったのか知りたい。」

「ならば貪欲に自らの願望に従えばいい。私は期待しているよ、また君が神にのし上がることを。」

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