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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
鬼神と巫女式神シリーズ
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鬼神の目覚め

★鬼神の目覚め


何かが目ざめ、大地の悲鳴のような地鳴りが起きる。童子式神 は地鳴りを聞き、誰かに呼ばれた気がして心がざわめく。自分の名を呼ばれるなんて何千年ぶりだろう。名前?違和感にいても立ってもいられず、テリトリーから飛び出す。

外は地鳴りから一転静まり返っていた。寡黙が尽かさず現れ、何をしているという。

「なんだか、呼ばれた気がして…。」

「何を言う。そちの名なんてないじゃろう。吾輩と同じでな。」

「そ、そうっすよね。」

二人の間に微妙な空気が流れる。「そんなことよりテリトリーの配備を怠るな。さあ。」

寡黙の怪しい笑みと手をさしのべられ、しょうがなく配置に戻る。


「よう!元気か?」

バサりとカラスがしめ縄をくぐって現れる。

「また来た。」

巫女式神がカラス形態から人間形態に変化する。その様子を見ながら、

-毎回どうやってテリトリーに侵入するんでしょう?寡黙は何をしているのやら……。

巫女式神はいつもよりにこやかで、童子式神に擦り寄る。

「良いことでもあったんスか?」

「まあな!」キラキラトーン。

「主がやっと本調子になったんだ!」

-もしやコイツの主、もうダメなのか?

心外そうな顔をしていた童子式神は思う。そしてニコリとくったいなく笑った。

「良かったですね。」

「あ、うん?」軽く首を傾げる巫女式神。

「そういや昨日、地鳴りがしましたね。あれはなんだったんでしょう?おめえは聴きましたか?」

巫女式神は

「地鳴りを聞いたっちゃあ聞いたが、あれは自然現象だろ?」

と切り捨てる。いつもなら興味津々の巫女式神がやけにサラりとしているのを疑問に思った。

「そいやさ、何か変わったこたあないのかい?」

「変わった?なんスか?何も…?」

「ホントか~?」

「う~ん…任務の内容も変わりませんし、そうですね…。う〜む。」うんうん唸る童子式神。

「あんたは嘘つきだ。何が理想とか夢とか、あっしは興味ないです~だ。自分の胸にちゃんと聞いてみな。」

「ええ?」

唇を尖らせて、ふいっとカラスになる。「一度眠ったら起きないタイプだろ、あんた。」

「はあ?」

ぽかんとしていると寡黙がやってくる。

「彼奴はよく訪れるのか。」

「え…ええ、意味わかんねーことばっか言ってくるっす。」

「ふむ…。注意しておくことだな。」

「え?アレを?」

寡黙は答えず、しめ縄をくぐっていく。童子式神は怪訝な顔をしたままそれを見送った。


童子式神は路地を歩いている。月明かりの下、影がなく電信柱の影を気にしている。

「寡黙とか、巫女式神とか、アイツらついてきてないよな…」

キョロキョロして、ホッとした。

-地鳴りがしたのは住宅地の方。その方向にあるのはある神社だ。田舎の町としては少し大きな神社で、他は地鳴りの原因になりそうな工場やらはない。

「神社が原因だとしたら、普通のコトじゃねーな。」

-神になにかあったのだろうか?そしたら、それってその神より強い何かが……。

「どうしちまったんだろ。今までこんなこと……」

-越久夜町はおかしくなり始めてる。

「町の結界を壊した反動、とかじゃねーよな。」

童子式神は主の言っていた言葉を思い出す。まさか神使たちも人間が結界を壊すとは思いもしないだろう。

「ゆらぎもひでえし、主さまのやっていることは越久夜町を…」

ハッと口を噤んだ。

「-ん?」

-人ならざる者の気配!

路地の奥に人影があり、なにやら歩いている。童子式神は息を潜めながら近づき、やがて山伏式神が町を彷徨いているのを見つける。

「どうしたんスか?」

「それが、地鳴りがした原因を探している最中なの。あれのせいで石がちょっと劣化したんだから。」

「そ、そうなんすか…。」

「あなたこそ、なんで私に付きまとうのかしら?」

「は?あっしは主さまの命令に従って新しいテリトリーを。」

へえ?まあいいわ。地鳴り…あっちから聞こえたのよね。

指さした先には神社があった。童子式神は冷や汗が垂れる。あの神社は…町としては中規模で、どっしりとシールド(神域)が貼られている。…いや、それはいい。

「神社からなんて。」

不思議でしょ?それに断末魔みたいみたいだったわ。捕食者に食いちぎられたみたいな……ふふ。」

危ない笑顔になる山伏式神に童子式神は引く。

「そうスか…。断末魔というのはあながち間違いではない。」

「行ってみない?なんだか楽しそう。」

悪戯っぽい笑みを浮かべ、山伏式神は手を引く。


神社の境内が見え(狛犬が居ない)、鳥居にシールドが張られており、そびえ立っていた。童子式神はベチベチとシールドを叩くも隙がない、山伏式神をみやる。

「ほら、あっしら魔は入れません。」

「神域が健在ってことはまだ神はいるのね。な~んだ、成り代わってやろうかと思っていたのに。」

残念そうに山伏式神が言う。

「そう言えば、あれからどうなった?」

「え?神域の起点って…なんで知ってるんスか?!」

「は?私が起点まで案内したじゃない。あの後どうなったの?」

「な、あ、あっし、そんなこと…知らねえッス!」慌てふためく童子式神に山伏式神は眉をひそめる。

「忘れちゃったわけ?どこまで覚えてる?」

「あ、あれ?あ……えっと…」ズキリとする、頭を抑え童子式神は目を回す。

「ふうん。なんだかおかしいわね?」

「え、ええ…あっし、どうしちまったんでしょう……?」

「さあ-」山伏式神が言いかけると

「お二人さん、そこで何してるんだ?」

鬼が話しかけてくる。鳥居からひょっこり顔を出すと、ニヤニヤ顔で歩み寄ってきた。

「ああ、…私はそんじょそこらのごく普通の魔だ。魔が神社の前で話し込んでるなんて、珍しいじゃないか。」

2人はびっくりするも、魔だと勘違いする。

「ここから地鳴りを聞いたのよ。あなたは知らない?」

「確かに、聞いたかもしれないなぁ。」腕を組みわざとらしく頷く鬼。それを気にせず山伏式神は喋る

「みんな集まって来てるのね。気のせいかと思い始めてた所なの。」

「ほう、そこのお二人は…式神だね?」

「ええ、あなたは?」

「ただの魔だよ。人の形をしているが、牙もあるぞ。」指を入れ口を引っ張ると鋭い牙が覗いている。

「物好きね。好きこのんで人間の形をとるなんて。」

「人間も捨てたもんじゃない。文明を生み出す器用な手もある、意思疎通もはかれる言葉も発せる―どうだい?君たちもその姿へ利点を感ずるだろう?」

「もしかして人間信者?」嫌そうに吐き捨てる。

「ふむ。それも良いかもしれないな。」

「変な奴に当たっちまったッス……。」小さいフキダシでボヤく童子式神。

「人好きさんはこの神社、良い物件だと思わない?」

ゲスい笑みを浮かべる山伏式神に、童子式神は慌てる。

「な、何言ってンスか?!」

「だって、絶対この神社何かあったでしょ?神が消失したかもしれないもの。成り代わって力を得られるかもしれないし。」

(みんな思うことは一緒ッスね……。)呆れる。

「もう先客がいるらしいぞ?残念だったなぁ。」

「あらァ。興醒めだわぁ。」

あからさまに興味を失う山伏式神に、童子式神はさらに呆れる。

「山伏の式神さんはそうとして、童子姿の式神さんもまさかこの神社を欲しがりに来たのかい?」

「えっ、えっと--呼ばれた気がするんス。あっしを誰かが呼んだんス。」

キリッとした表情で言い放つ。

「君を?」

「ええ。」

しゃがみこみ、優しく頬に手をやる鬼をきょとんと見やる。ソッと耳に唇が近づき、

「それはそうさ、呼んだのだからね。」

謎の気迫に後ずさり、閃く。-コイツは境内の方から現れた!

「す、すまねえ!用事を思い出した!」

ぐい、と山伏式神を引っ張り道を引き返し始める。鬼がニヤニヤしているのを背景に書く。

「痛い!何するのよっ!」

耳をつんざく怒鳴りで山伏式神は童子式神の胸ぐらを掴んだ。

「あいつやべぇ!鳥居の…神域の内側から出てきやがった!」

ヒソヒソながらも言いつけると、山伏式神の表情が変わる。

「な!ひ-逃げるわよ!」

「バカなんスか?!逃げてるんスよ!」

「君たち、どうかしたかね?」

「ヒイッ!!」二人はすくみ上がり、あとづさる。鬼が急に末恐ろしい者に思え、笑みが意味深に見えた。

「キッキィヤアアアアア!!!!」

山伏式神が奇声を上げ、童子式神の裾を引っ張るやテレポートをキメた。

残された鬼は薄らと驚いたら顔をしたが肩を揺らして笑いだした。

「あ〜〜おもしれえなぁ。まるで鬼でも見たかのような顔だった。」

ヒーヒーと笑いをこらえると、画面端にいる冷静に目配せをする。

「どうだ?私とあのお方であろう者のファーストコンタクトは。」

「………」冷静は何も言わず、鬼は「ツレねえなあ」と肩を竦める。


「寡黙」

しめ縄を見つめていた寡黙を童子式神は引き止める。フッと振り返った寡黙は

「なんじゃ?」

「あの神社は…確か地主神が祀られているようですね。」

「そうじゃ、この町の土地の守護を任されている。…何故それを?」

「え…いやぁ、そんなに町のことしらないなぁ~と思いまして。」必死に取り繕う童子式神。

「そちは頭がすっからかんで忘れっぽいからのう。」

「むう。」

「地主神である神は、通常は町の最高神から勧請・選抜された者じゃ。この土地に存在する人ならざる者でありながら知らぬとは、恥ずかしいぞ。」

「最高神…。」意味深な顔をする。

「最高神も知らぬのか?」

寡黙はどこか呆れたような、納得した顔をする。 「いえ、それくらい知っておりますよ。町を形作ったルールと勧請された神々をまとめる神でしょう。この星にいる限りは覚えておかないと、地球ジン失格っス。」

「そうじゃ、見直した。」

「バカにしすぎっス…。あの」おずおずと童子式神は口を開く。

「む?」

「その地主神は、実は変わった服を着た子供の姿をしてはいませんか?」

「……いや、…なぜ吾輩に聞くのじゃ。一端の式神が知るわけがなかろうが。」

「おめえは物知りでしょ。知っていると思って」

「ふむ…物知りとな。」寡黙はわずかに嘲笑した表情になる。それを目の当たりにして、童子式神はムッとした。

「吾輩にも知りえぬことはある。そちは首を突っ込まずに何も知らねでよいのじゃ。」

「ムム。」

その反応を見やり、寡黙はしめ縄をくぐっていった。

場面は変わり、

くんくんと微かに香った風を嗅ぎ、童子式神は手を止める。

外は雨か…。

「呼ばれた気がするんス。あっしを誰かが呼んだんス。」

「君を?」

「ええ。」

テリトリーで箒を弄びながら、思考に集中する童子式神。

-あの魔は、魔であってそうでない。神社から出てきたとしても、地主神ではなかった。神は神域から容易にではしないのだから。

しゃがみこみ、優しく頬に手をやる鬼をきょとんと見やる。

「それはそうさ、呼んだのだからね。」

あっしを知っている…?

「地主神にいた魔が……」

-式神になる前、自らは分霊であった。

…とても大切なことを今まで忘れていた。まるで削げ落ちたかのように記憶が失われていた-そうなるくらい、あっしには思い出したくない過去があるのだろうか?

人間ではあるまいし。

分霊であった頃の名を思い出したら、式神から脱せるかもしれない。当時の力を、理想を取り戻せるかもしれないのだ。

あの魔はあっしの過去をしっている。

「怠るな。ゆらぎを掃き清めよ。」

「…寡黙。」

寡黙がぬっと闇から現れる。

「わっ!びっくりするッス!!」

「そちは何故吾輩を寡黙と呼ぶ。」

「えっえっ…それは、呼びにくいじゃーねすか。」

「ラベリング、というわけか。それとも名で縛りつけ、逆らわぬようにと…。吾輩を恐れているのか。」

「な、なんスカ。そんな風に思っていませんよ。」

心外そうに童子式神はムッとした。しかし寡黙はさらに不服な表情で言う。

「名など、式神には必要ない。」

「ま、まあ…確かにあってもなくても、支障は来たしませんけどぉ」

「ならばくだらぬことに囚われるな。さあ、ゆらぎを掃き清めろ。」

「はいはい!分かりましたよ!」鬱陶しそうに返事をする。寡黙は病んだ目つきでそれを眺めていた。

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