山伏姿の式神と越久夜町の神域の起点
「ただ山を登ったってただのハイキングでしかないし、シールドにたどり着くには特別な手順が必要なの。」
山道を見渡し
「例えば私たち人ならざる者が支配する時間に…少人数だけで山に入り、こうするの。」
手を何回か叩き、その音が反射する。そして山伏式神が闇を放つとゲートのようなものが出現した。
「これは…」
「門よ。あの世とこの世を繋ぐ、人間の命を食べる死の門。本来なら人間の魂と引き換えに開くのだけれど私たちは自由に行き来できるのよ。その道のプロ専用の特別な通路、とも言えるわ。」
「へえ~、すげぇ。」
門をくぐり、歩きながら胸をはる。
「もちろん!私は境界を操れるもの。これで"壁一枚"の向こう側で神々についていけるわ。」
「ステルスってわけですか。」
「言い得て妙ね!」
ふふん、と得意げな山伏式神。
「その道のプロ専用の通路ってことは、あんたもプロ?」
「ご存知の通り!堺の神として信仰されたのよっ!旅人を導く大変偉い存在でもあるの。きちんと先導してあげるっ。」ウインクする山伏式神。
「な、なんか癪に障る…」童子式神はむつれる。
「あら、素人さんは黙っていなさいな。」
闇の門??を潜ると、暗闇が広がっていた。
頭上には近未来的なしめ縄がたくさんある。きらきらと光が繊維にまとわりついて、暗闇に浮かび上がっていた。
「へえ、幻想的だねえ。」
触ろうと背伸びした巫女式神に「そうかしら?」
「いつからあるのか分からないし、なんでしめ縄の形をしているのかも不明だし…あと……」
小さい吹き出しで「おう…」
「あれが切れたら、何かが終わる。」
「何かが?」
「ええ、私も何かは…。けど嫌な感じがするの、壁に爪を立てた時みたいな感じ。」
「え…千切ったんすか?」
「まさか!自然とちぎれる時があるのよ!」
ざざ…と紙垂がノイズを起こす。童子式神はそれみなから当たりを見回そうとした。
「振り返っちゃだめ!」
山伏式神があわてていう。「ここからは振り返ったら先に進めなくなるから…」
「見るなのタブーってやつスカ。」
「ええ、そうよ。何があっても振り返ってはだめ、前を見てひたすら進むのよ。」
「加えて落石というか、あのしめ縄がちぎれたら巻き込まれて圧死してしまうから上も気をつけて。」
上を指さす山伏式神。
「変な所だな。」口をとがらせる巫女式神。
「私たちが住む異界ともまたちがうルールで成り立っているもの。私たち境の神々もただ利用させてもらっているだけだし。」
「そうなのか。親切にどうも」
「あなたの主の魂をもらえるのなら、それぐらいはするわ。」
「へえ~」にやりと笑う巫女式神に山伏式神は焦る。「いちいちなんなのよっ!」
コマがしだいに変わり、三人は話しながら道を往く。童子式神がぽつりと[[rb:零 > こぼ]]した。
「荒れ野へ人が寄り付かなくなるほどに、人を食うとは……あっしには真似出来ねえっス。…魔神から堺の神として信仰されても人は寄り付かなかったのですか?…」
「確かにそうねえ…私が生まれる前から、荒れ野は特段人が来ない場所だったらしいわ。神域の起点があるくらいなのだし、何か特別な意味合いがあったんじゃないかしら?」
「そうかもな~、何かヤバいモンが眠ってたりな。」と巫女式神。
「やめてよ、そのヤバいモンに食べられたくない。」※伏線
「お前が生まれたのかも必然かもなぁ。」
「わ、分からないわ。必然とか偶然とかっ!でももしヤバいものに寄り付かなくなったのは皆、私を信仰したからよっ」
照れながらも自慢げに宣言する。
「はあ…もしも、の話ですからね?」
「ハハッ、神さまって全員こうなのか?」
「さ、さあ…」
呆れる童子式神。
「童子なんとか、っていうの?あなたも元は神なんでしょ。どうして式神になったの?」
「消えたくなかったのでしょうか…」顎に手を当てて記憶を探る。
「私もそうかも。式神になると奇々怪々な出来事に巻き込まれやすくなるのかしらね?ここを知ったのも―」
「式神になってからなんすか?」
「まあ。式神になって色々あってから、人間なら自我っていうのかしら?それがはっきりした頃に、強烈な光と誰かがテリトリーに侵入してきた。びっくりして見に行ったら荒れ野を神々が列をなして歩いていたの。」
草藪から覗く山伏式神、光を発する山の女神たちが荒れ野をゆく。瞳に映る影。煌めく光。
なんて鮮烈な光なの―!
照らされながらついていく山伏式神。
「あの輝きを人間どもが極楽浄土のものと思い込むのも、無理はないわ。」
「そうですか…」
童子式神は自らの手を見る。
「もしかしてこれまでも出くわしていたのかもしれないけれど……何故かあの光に惹かれたのよね。」
「ええ…」何かを言おうとした童子式神の耳にパタパタと裸足で走る音が聞こえた。
「おにさんこーちら」
声が聞こえ、ネズミっ子が走っていく。きゃらきゃらと二人の子供が走っていくのが目の端に見えて、はっと振り返りそうになる。※終盤あとの二人。
「だめよ、忘れちゃった?」
「え…今、人が」
「お化けか?!」目を煌めかせる巫女式神に、山伏式神は意味深に笑う。
「虚ろで何も無い空間にも誰かは必ず居るわ。遭っても関わらない事ね。帰れなくなる。」
「は、はい。」頼りない顔をする童子式神。
「ふふっ人間みたいな顔しないで。」
「に、人間……」
主の言葉を思い出す。
「会ってみてかったぜ~、いいなあ。」
小さい吹き出しで巫女式神が背後で言う。
「…いませんよ。きっと幻です。」
光が漏れる点があり、三人は向かっていく。ぴょん、とカラスの足で着地する巫女式神に続き二人は地面に足を下ろす。
「また山ん中だ?」着地して首を傾げる。
「私たちがいた場所からはかなり離れたはず。…人間がいる生活圏から、高次の神々が作った空間へ。」
「にしては澱んでいるような…」
ゆらぎが霧となり漂っている。ガサガサと何かが逃げていく音や鳥の声がした。
「管理がめんどくて放置されてんじゃないか?」
「人間じゃないンすから。」
三人は荒れ果てた有様に困惑する。魔が平常通り闊歩できるなど神の領域では有り得ないのではないのか?
「前はもっと綺麗にされていたような気がしたけれど…来る度に汚くなるわね。ここ。」
山伏式神が先を往く。
{崖をのぼり、こっちだという。ぴょん、と身軽な山伏式神に続き兎に近い形態の童子式神と羽を生やした巫女式神が岩を登っていく。
なんとか登りきり、汗を垂らす童子式神を山伏式神は一瞥し歩いていく。
道無き道を草をかき分けながら進む。見たことの無い虫が横切っていくのを横目に童子式神は問う。※なし}
山伏式神の過去。
「おめえ、たしかずっと荒れ野にいたんすよね?」
「ええ。町にいる人ならざる者と違って、荒れ野には高カロリーな"食べ物"がいなかったけれど…離れる気にはならなかったわ。やっぱり生まれた場所が一番!」
童子式神は複雑な顔をするコマ。
「へえ。悪名高い魔神さまの生涯、是非お聞きしたい。」巫女式神が茶化して言う。虫を食べて満足気。
「悪名高いなんて誤解よっ!まあ、旅人にミサキだの、行逢神だのひだるだの、散々なことを言われたけれども。私はただ食事をしてるだけなのに。アイツらが後から道を作ったのよ?」
倒木を山伏式神が片手で持ち上げる。その後に続いて二人はくぐり。
「ミサキやらひだるなら、旅人を弱らせて食べてたんすか。」
山伏式神が手を離し、倒木は音を立て落下した。
「ええ。腐りかけの肉がうまいっていうのと一緒よ。」
「ふーん。あたしは新鮮なのが好きだぜ。暖かくて柔らかくてよぉ-」
「こほん!式神は人魂も人肉も食べません。」
「おっと、そうだった。へへっ主の真似さ。あたしの主はハンバーグステーキが好きなんだぁ~」
「ハンバーグステーキ?なんスかそれ」
「あー!はいはい!みも知らぬ他人の食べ物の好みなんて聞きたくなーい!」
耳を塞ぐ山伏式神。
「失礼しました。コイツと話すと話があっちゃこっちゃあ行くんス。」
「ホント!どうにかしなさいよっ!」
「へへっ」ニヤニヤする巫女式神を山伏式神はねめつけるも、肩透かしに会う。
「人里離れて過ごしていたら、人間どもが荒れ野をいじり出した。何人か食い殺しても道はできてしまったの。最初は道ができたのが鬱陶しくてたまらなかったけれど、代わりに食料が勝手にやってくるから楽ちんだった。困ることはなかったわね。……そしたら村のヤツらがチクッて、この町の…名前は忘れたけど、とにかく僧侶が、私を石に閉じ込めたわけ。」
「よくある調伏譚だな。」
「人間どもの中にも魔を専門にする輩がいるのを思い知った。寝耳に水だったわ。狭くて、悔しくて…今でもその僧侶が憎い。でもいつ頃か、私に手を合わせる者が現れたの。神様、なんて祈られて困惑したわよ。私は人間を食い殺していたのに、それに縋るなんて。」
感慨深く言う。
「人間は複雑な構造の精神を持っているんさ。災い転じて福と成す。そういうことわざもあるくらいだぜ。」
「理解できなかったけれど、悪くはなかった。…人間は忘れっぽいから、短い間だったけど。」
岩を軽々登ってみせ、手招く。
「そろそろつくわ。」
森の急勾配を抜けると草木に埋もれた階段らしきものが覗いている。かなり昔のもので風雨に晒され、階段は摩耗していた。
階段には所々謎の描かれており、最上段はずっと向こうだ。
「こんなのあるなんて…知らなかった。」
巫女式神が唖然として、その先を仰ぐ。
「越久夜町であって、そうでないのだから当然よ。現実に限りなく近い、別の世界にあるのだから。」
「そーか…。」
霧がかかり上層は見えない。童子式神は巫女の姿を幻視する。
この階段だ…。
「町の神域が作られたのって随分むかしなのに古い感じがしないな。」
童子式神たちは階段を登りながら話をする。
「神に時間なんて必要ないから、この空間もきっとそうなのでしょう。」
童子式神は複雑な顔をする。「あっしらはある程度時間に縛られますから……」
「なんで悲しそうなんだよ?」
「さあ?よく分かんないわ、コイツ。」
「…悲しいのです。時間に流され、自分が薄れていくのが。あなた達には分からないかもしれませんが。」
巫女式神は後ろ手を組みながら眉を顰める。
「まあ、魂を食べてから少しだけわかる気がする。人間の気持ち。」
階段を上り、巫女式神が鬼火を燭台に灯す。マヤの神殿に似た祭壇が植物に埋もれ、照らされる。
「…。」童子式神が深く掘られた地球の文字ではない記号をなぞった。
「外の神々はよく分からない物を持ち込むわね。この星の生命には馴染まないわ。」
「おお!これがシールド?」
「いいえ。この先よ。」
山伏式神はかけて行き、パタパタと足音が響く。僅かに開いた扉をくぐり抜け、二人は奥へと進んで言った。
場面が変わり、くらい背景の中、山伏式神が山伏式神とすれ違う。目の据わった未来の山伏式神がずいずいと進んでいくのを唖然と見ていた。
「どこ行ったンすか?」「やまぶしー!」
二人で光が漏れる方向へ向かう。佇む山伏式神を見つけ
「大丈夫か?やまぶし?」巫女式神がかすかに、心配そうに問いただす。
「あ、ああ…大丈夫。ちょっとびっくりしただけ。」
「え、うん?」不思議そうな顔をした巫女式神に、山伏式神は「あれが越久夜町の神域の起点よ。」
手を広げ??指し示したほうには、遺跡と神域があった。
「わあ~!すげー!」純粋に目を輝かす巫女式神よりも二人は一歩引いて見ている。澱んだ空気が強まっていき、猿岩に似た石仏がひと間隔に並べられ、鳥居に似た石の間から神域のシールドの扉が顔を出していた。
「もっとすごいのはこれからよ。」
タン!と1箇所盛り上がったタイルを踏むと、現れたのはシールドに浮かび上がった文字列と記号。それを前に三人は佇む。
あくどい目付きをした童子式神を傍に
「おお!なんかスペーシアだぜ!」
「確か…こうだったかしら?」 タップしていく山伏式神に二人は目を丸くする。
「パスワードまで見てやがったのか。」
「だって気になるじゃない。秘密にするからいけないのよ。」悪びれもなくうち終わると、シールドの扉が開いた。
「…あける、なんて安易なパスワードですね。」
「読めるの?!」
二人に驚かれ「え、読めねえんすか?」
「あたしは人間の言葉しか読めねえよ。」
巫女式神が心底驚いた様子でいう。
「そっちの方がすげぇっス…」
神の文字が読める…!やはりあっしは――
『我々と同じになったつもりか?神のなり損ない目が。』
天津甕星の言葉に冷や汗が垂れる。
神のなり損ない……。
自分は分霊なのだろうか?それとも…人間だった?
「じゃあ、早く行きましょう。夜が明けちゃうわ。」
―どっちなんだ? ぐにゃりと景色が歪む。その中から手が伸びてくる。
「わっ」巫女式神と童子式神のコマ。
「それは困る!」
童子式神は巫女式神に引っ張られて、慌ててついていく。
「おお、近くで見るとでかいな。」
「ほら、シールドの起点よ。内側から触れても何もならないけれど、外から触れたらお陀仏でしょうね。」
コンコン、とシールドを叩く。
「強度は…」跳ね上がり、蹴りをかます童子式神。見事に跳ね返され、転がる。
「おっかねー。あたしら閉じ込められてるんじゃないだろうな?」
「箱庭、と言って過言じゃないわね。」
「箱庭?この町自体が?」巫女式神は首を傾げる。
「そうじゃない。それとも虫かご?何がいいかしら?」
吐き捨てるように言う。
「外敵から守ってくれるいい面もあるじゃねーすか。」
「それあなたが言う?」山伏式神が呆れた口調になる。」
「ま、まあ。」にへらと笑い誤魔化す童子式神。三人は下から階段を昇る音がするのに気づく。カツンカツンと硬い金属の音が徐々に近づいてきた。
三人ははっとして、祭壇の端にあるもの陰に隠れた。
すると清らかな衣を着た少女が現れ、開かれた起点を閉じる。あれは神だ。
山伏式神が小さくつぶやく。神…。
童子式神は少女をじっと魅入ると、チラリと黄緑色の瞳がこちらを見た気がした。慌ててさらに身を低くした三人に、少女は目もくれず階段を降りていく。
「あ、危なかったな…。」
巫女式神が枯葉を払いながら言う。
「あの女、何回か見たわ。」
「お、女なのか…?あれ」
「高次の神ほど男だの女だの気にするのよ。あれは女よ。分かるわ。オンナの勘よ。」悪い顔をする山伏式神にドン引きする二人。
三人は立ち上がり、祭壇から離れた。
「は、はあ……よく分かりませんが、見つからなくて何よりです。」