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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
越久夜町シリーズ
43/47

終末

★終末←転落←巫女が街を支配する


「私がムラを救う。祟りを沈め、神々に……」

「どうして?どうして、私は役目を果たしてきたはず」

「皆は私を信じていなかったの?」

「天津甕星。ムラをどうするつもり?」

「天津甕星-」

天津甕星が巫女の記憶を爪でなじる。「小娘が、俺に指図するなど」

鼻に皺を寄せ、唸りをあげる。天津甕星は大人の巫女に近い外見ではあるものの人外に近い雰囲気になっている。

公衆電話の前で立ち止まる。暗がりの中、静かに照らされる天津甕星はジロリと眼球だけ動かす。

「隠れているのならでてきたらどうだあ?」

ガサリと草藪からタヌキが出てくる。前かけをしたタヌキはジッと天津甕星を見つめていた。

「ハハ」周囲をタヌキに囲まれているのに気づき、乾いた笑いを漏らした。

「大勢でおいでなすって、神使が何の用かぁ?」

ボソボソと話し声がするが、タヌキたちの言葉は容量を得ない。

「月は満ちて、欠けていく。無に還れば二度と同じ姿にはなれない。」

タヌキはそれ以上何も言わずに踵を返し、去っていく。「言ってくれるじゃないか。」

ひっそりと静まり返った路地で天津甕星はニタニタと笑ってみせた。

「巫女さまになり代われなくとも、俺を受け入れざる得ない世界にしてやるよ。」

喉から獣めいた唸りを上げ、歩き出す。進めば進むほど、通り過ぎた路地が崩壊していく。枯れた植樹や錆び付いたカーブミラー。頭を失った鳥が飛びだっていった。

「山の女神。お前はまた拒絶するのか?」

鋭い歯を覗かせた口が言う。次のコマで血肉を滴らせ、ニタリと笑ってみせた。

「あれが、最高神。」

幼い山の女神が神々に連れられ、越久夜間山に登ろうとしていた。「よう。お嬢ちゃん。」

気味の悪い笑顔で擦り寄ってきた天津甕星に、神々はあからさまに逃げる。逃げ惑う神々の中で凛とした表情で、微動だにしない女神。

「アンタが新しい最高神カア。可愛いなぁ、前代に少し似てらあ」

「触らないで。」触ろうとした手を払う。

「神殺しが、私に触らないで。」

笑みが無くなる天津甕星。

「へえ〜〜、知ってるのか。お嬢ちゃん、ヨロシクな。俺ぁ神威ある偉大な星だ。」

「神威ある偉大な星、私が最高神である以上あなたを越久夜間山に入れる気はない。」

「おお、威勢がいいなあ。」鋭い牙が覗き、山の女神はそれに眉を顰める。

「行きましょう。」稲荷神が山の女神をそそくさと連れていく。

その姿を目で追うや、猛獣の如く険しい顔になった。

「この俺を拒絶したかァ。メスガキめが。」

神は存在を認識されなければ、認知されなければ精神を、体を、エネルギーを維持できない。存在を拒絶されたり、忘れられれば………。

俺はそこまで弱くねえの。でもな、それが仇になたんだ。

どんなに存在を拒絶されようと、首の皮一枚で生きながらえるのさ!

「だから、壊れちゃったんだよお!」

前代の最高神の亡骸を食い破る天津甕星。頭はなく、首の断面から大量の穢れた体液が吹き出している。心臓部がえぐれており、天津甕星が愛おしそうに抱き抱えていた。

「愛しの最高神やぁ。どうして拒絶した?何がいけなかった?なあ?」

涙を一粒流す天津甕星。「俺の真名も、気持ちも何もかも教えてあげたのに。」

最高神の体が、大量の頭のない蛇に変わる。蛇が羽ばたいて飛んで行った。その中で彼はこちらを見た。

「あぁ、こんな所にいたのか!」

口に吸い込まれ、ちぎれる音(?)。

暗がりの中、正気めいた表情の天津甕星がニコリと笑う。

「俺は神威ある偉大な星。地球を侵略しにきた、外の神。真名は……教えてあげないよ。」

思わせぶりに誰かに向かって、茶化す。

「……天津甕星。」

「でも、ここは壊さない。あなたがいるから。あなたが認めてくれたのなら何でもする。神々に後ろ指を刺されても食わないさ。」

「あなたの前では冗談は言わないよ。なあ、」

「俺があなたを愛してると言ったら?どうする?」

「この世界を、時空を壊しても後悔しないほどに、あなただけを愛していると言ったら?」

次のコマでは天津甕星は狂気に呑まれた、危うい目付きをしている。

「おめえまで、俺を拒絶するのか?」

-悪趣味だな、覗き見は良くないぞ?なあなあ、厄介な記憶だよな。そうだろう?これは俺の記憶だ。なあ、神世の巫女?

神世の巫女の返事はない。天津甕星は考え込むと、テレポートする。巨大な女性(スピンオフ作品に登場したライラ)がジッとこちらを眺めている。

「全知全能の神さまはどう思うかい?」

ライラは何も言わずに、目を閉じた。

「こおんなことしてもか?!」

パラレルワールドの集合体である注連縄を切り裂きながら、四つん這いでかける。

「ああ!全知全能の神よ!宇宙を創造した管理者よ!許したもう!」

歪な獣となった彼は吠えて、越久夜町のパラレルワールドを全て破壊してしまった。

「前代の神よ!この哀れな子羊を許したまえ!」

キラキラと光る注連縄の欠片をなめると、壊れた笑みを浮かべた。

「--山の女神の全ての分岐を壊したことを。」

獣形態のまま、太虚をかけていく。

「体が掻き消えそうだ!最高だ!無に還レぬのになあっ!天の犬おめえもそうだろう?!お前も俺の末路なんだろうっ?!アハハは!」

「天津甕星、早く神域の起点へ向かえ。」

巨大な犬が隣をかける。たくさんの犬たちが舌やヨダレを垂らしながら、走っている。太虚を走る犬たちは流れ星になり、ちりじりに散っていった。

「ああ、ああ!わかってるさァ!」

「ランナーズハイか?さあ、役割を果たせ。神威ある偉大な星!」

天の犬が一際眩く燃え、太虚を照らした。天津甕星やまだ切れていない注連縄をことさらに輝かせた。

白飛した画面が途切れ途切れに続いていく。

「……。」

天津甕星は玉座に座っていた。たくさんの死骸の中で、神域の起点は陰鬱に沈んでいる。

「あ〜〜、また俺は狂ったのか?それとも白昼夢ってヤツか?はははあ」

コキコキと首を鳴らし、玉座から腰をあげる。時空が悲鳴をあげ、奇妙な金属音のような軋みをあげていた。

「あれは俺らの末路だ。永遠に退去を、いや、那由多を駆け続けなければならなくなる。なりたかないだろう?」

「楽しかったぜ。無というのは、甘美で孤高だ。人間など必要のない、あの時代のような無であり全有であった状態こそが最善なのだぜ。何も無くなり有ればいい!神も、惑星も、この時空さえも!なーんも!」

「天津甕星。それ以上時空を傷つけてはならない。」

天の犬が獣人姿で言う。

「おめえはなんだ?天の犬さんよ。何のために?善行を積んで極楽浄土でも行く気かい?」

「前代が悲しむぞ。」

「ああ〜〜、前代なら俺の血肉になったんだあ!良いだろう?一つになれたんだよ!--天の犬。おめえさんは善人ぶっているが。人様の願いを叶えて、気持ちいくなってるんだろうが、誰もおめぇに感謝しねえ!消された分岐の人々は悲しみ、恨んでるんじゃないかねえ?」

「あんたのその口車、嫌いじゃない。」

「なあにがお望みだ?」

「最高神になれ。さあ、神域の起点へそれを認識させろ。」

天の犬は表情ひとつ動かさずに言った。

「へへえ?破滅の道を選ばせるのか?この時空に?」

「あんたが、最高神になれば突破口が開かれる。それだけは言える。」

「お手伝いさんも大変だな〜?」

「もしこのまま時空を破壊させれば、誰からも受け入れられない無の世界をさ迷うことになるぜ。苦しみにもがき、走り続け、誰からも認識されることも無く、光を喰らおうと空腹に悶える。」

足を組み、天津甕星はふうむと唸る。

「しかし最高神になれば、あんたは受け入れられる未来が開く。この苦悩ともおさらばだ。まあ、ハッピーエンドってやつだ。」

「ははあ、甘い響きだ。」

触手を神域の起点のシステムに接続し、空中に浮かんだ画面に打ち込んでいく。神の文字が羅列した文字盤をエンターすると、空に『あなたが最高神です』と表示された。

バン、と文字盤を叩くや辺りに模様が羅列され、神域の起点に伝播していった。周囲に転がっていた死骸がいつの間にか消失しており、神域の起点は元の静かな空間に戻った。

「分岐が変わった。」

天の犬が言う。

「"あの世"でオマエを呪ってやる。」

「お生憎、俺にはヒトの心はない。」


? ルールが書き換えられ、町や人は消滅してしまう。

町が虚無に飲まれルールのないカオスに変貌する。

月か星(?)が空を支配し、太陽はなく真っ暗な世界になる。時間は消え、物が浮遊し始める。

有屋鳥子は空を眺め、舌打ちする。

「あいつ……!神々は何をしているの?!」

走り出して、ハイヒールのせいで転ぶ。「いたい……。」

涙をこぼさぬようにまぶたをギュッと閉じ、ハイヒールを脱いだ。

「私が、あいつを止めないと……!」

立ち上がると裸足のまま走り出した。立ち去った場所をじわじわとアスファルトを泥のようなカオスが侵食し出す演出。

「ネーハ!どこにいるの?!」髪型を崩しても気にせず、声を張り上げる。「ネーハ!!」

返事はなく、頭上から断末魔をあげてのたうち回る雀が落ちてくる。雀には穴が開き始め、弾け飛んだ。

「カオスが理を壊し始めてる!-ネーハ、答えなさいっ!」

前掛けをしたタヌキがサッとブロック塀を駆け抜けていき、ちらりと有屋鳥子をみた。

「神使!あなた、わかっていたのね?」

言葉を発しはしないがタヌキはこちらをみ続けている。

「お願い、神々に招集してほしいと伝えて。」

息を切らし頭を下げる。タヌキはそれを合図に駆け出した。

場面は変わり、天津甕星は最高神が座る玉座に座り、頬杖をついていた。

「元に戻しては前代はいないのか、切ねえなあ。」

ぼやいていると崩れかけた階段を登る足音がし、獣めいた瞳孔を開く。

有屋鳥子が先頭に、町の神々が神域の起点にやって来たのだった。神使も連れ、神々は天津甕星を睨む。

「天津甕星!」

「やってきやがったな?」

「何故このようなことをした?」

「新しい最高神をありがたがらねえ不届き者めが。」

「今すぐ元に戻しなさい。」有屋鳥子がピシャリという。

「よく言うぜ。今まで何もしてこなかったくせによお。神というご身分に甘んじて町を放ったらかしにしたんだろ?俺が蘇らなければ、そのままだったんだろう?前代が泣いてるぜ。」

「確かに私たちは考えることを放棄して、人の任せるままにしてきたわ。でも、そういう時代なのよ。人の力は強大になった。私たちには手を出せるほどの存在ではなくなったの。」

二人は睨み合う。

「地球の策略だ。星に人間にのさばらせて外敵を排除しいなくなった頃に、また壊すつもりなんだよ。ならば先に壊してしまえばいい。」

「前代のいた時代に囚われないで。前を、現実を見なさい。」

「ああ?」不快感を露わにする。

「もう何もかも変わっているの。……やはりあなたは星守家のご子息の核であった者ね。」

「それをやめろ。」一瞬、主が被る。

「あなたもすでに昔のあなたではなくなっている。星守家の子であり、巫女であった者でもあり…幾人の"魂"が混ざりあった"紛い物"なのよ。」

「だまれ!」ガン!と玉座を殴る。神々が怯え、ざわめいた。

「それ以上言ったらどうなるか分かるよなあ?」

おぞましく笑う天津甕星に、有屋鳥子は

「やってみなさい。覚悟はできてる。」

-女神はルールを作った張本人だけれども、もう正すほどの力を無くしてしまっている。私が何とかせねば……私が……。


? 目を覚ますと暗闇に眠っていた。脱力し、まだ生きていることに乾いた笑いをうかべる。

-何もない。

しめ縄もなく、今まで来たことのない領域に達したと確信する。

-死の世界。いいや、虚無。空虚。……大虚へ行き着いたか。

体を起こし、歩き出す。自分の体が崩れ落ちていくのをみて焦る。自らは誰だ?

もう誰でもない。神威ある偉大なる星でも巫女でもない-

童子式神は

-繰り返しだ。式神にならなければ行けなかったあの時と一緒だと。

崩れるからだで走りながら、自分は誰だと自問自答する。

自分は誰だ!

「見つけた!」

虚無の中で山伏式神と出会い、抱きつかれる。

「童子式神っ!」

童子式神はやはり自分は童子式神である確信する。

山伏式神の服装はボロボロになり、髪型もボサボサになっていた。

「どうしたんですか?それ」

「あなたのように、存在が不確定になっているんだと思う。お願い。私の名を呼んでくれないかしら?」

「はあ?あの時、もらってあげないって言ったじゃネエすか。」

すると山伏式神は手を合わせて、懇願する。

「お願いっ!さっきあなたの名前を呼んだじゃないっ!ね?」

「はあ……分かりましたよ。山伏式神。」

「ありがとう〜!感謝するわぁ!」抱きつかれ、ギョッとした。

「しかし何でおめえがここに?」

「あの恐ろしい神に食べれたのっ!パクリって!すごく怖かったんだから!」

ズビズビと鼻水を裾でふかれ、頭を叩く。「いたっ!何するのよっ!」

「全くおめえは!」

「あら?式神もどきになったのね。私が見つけられたのも、それが要因かもしれないわ。」

「探していたのですか?」

「ええ、いると思ったから。」山伏式神はいつもと変わらないドヤ顔でいう。

-ちょっと安心してる自分が憎い…。

「太虚にあなたがいると、私は確信していたの。だからずっと探していた。何千もの時をさ迷っていたかもしれない、いいえ、あなたに会わなければいけなかった。全知全能の神が許してくれなかった。」

「は、はあ。大変だったのですね?」

「そうよっ!褒めたたえなさい!」

「いや、訳分からねーッス。」拍子が狂い、苦笑いする。

「とにかく!私は境界を司る神だったのはご存知よね?」胸を張る山伏式神。

「ええ。」

「その霊験あらたかな能力のおかげで太虚と現実世界の境界が分かるわ。」

「いやいや、それで現実世界に逃げればよかったのでは?」

「バカ言いなさい!全知全能の神は恐ろしいのよ?!」

がくがくと揺さぶられ、目を回しそうになる童子式神。

「あーわーった!やめろ!!」

「だからね。あなたを現実世界に導けるかも。一度きりよ、あなたには一度しか切符が渡されないから。」

妙な泣き笑いともつかぬ表情に、異変を感じる。

「えっ」

「--太虚を彷徨い分かったことがあるの。」

「ええ。」

「私は私でしかない、式神になっても眷属になっても自分は自分。それ以下でもそれ以上にもなれなかった。」

「……。」

「それでいいじゃない。それで」

山伏式神の気色に、童子式神は何も言えなくなってしまった。

「それに!振り回される気持ちも痛いほど理解したつもりよ。ホント困っちゃうわよねっ」

自笑すると山伏式神は言う。

「堺の神として残された力があなたを導けといっているの。あちらよ。」

指を指すと

「あちらに行けば、巫女式神に会える。」

「巫女式神に?」

「みなまで言わないから、行ってみるといい。まっすぐ、引き返せずに向かうのよ?あきらめないで、希望を持ち続けて。」

「あっちって……」何もない暗闇に戸惑う。

「いいから!」背中を押して、山伏式神は後押しした。

「では、おめえはどうするンスか?一緒に」

「私にはお似合いの場所だから、ここに残るわ。」と言い俯く。※表情は描かない。

「山伏式神……。」

「さ、行きなさい。」

ぐい、と一押しされ渋々歩み始めた。振り返ってはいけないと、童子式神は前だけを見て暗闇を進み始めた。

「さよなら」

「さようなら、童子式神。」

山伏式神は手を振ると独り佇む。※視界の端にライラがいる。

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