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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
山伏姿の式神シリーズ
4/47

山伏姿の式神と童子式神の蘇る記憶

 ? 星空の下鳥居に腰掛け、巫女式神はふいに喋り出した。

「なあ、あたしの主。どう思う?童子さんは越久夜町の神域を弄ろうとしてる。それは悪いことなのかな?良いことじゃあないけど。」

 巫女式神が何かに向かって話す。返事はなく、巫女式神はいつの間にかとなりにいる冷静に目配せする。

「魔神のいる荒れ野に行くのか。」

「ああ、あんたは既に知っていたのかい。」

「そうだ。だいたいの事柄は見通せる。この世界の定められたストーリーは、そうそう変わらないようだ。結末もな。」

「あんたらしいね。相変わらず何言ってるか分からなねーし、結末とかよく分からないけどさ。あたしにも答え合わせする日はくる?」

「さあ、俺はいづれこの世界から去る。」

「おい。あたしの主。なんでこんなイカれた奴雇ったんだ?」

 神社に向かって言うも返事はない。

「よく言うぜ。お前もイカれてる。」

 カラス形態になり、距離を保った。

「イカれた者同士仲良くしようじゃないか。まずはその口を閉じる。黙れ!」

「ハハハ、ピーチクパーチク可愛い小鳥ちゃんだ。さあ、行ってこいよ。今行けば愛しの童子ちゃんに会えるぞ。」

「うがー!」


「荒れ野へ行ってきます。」

「そち、荒れ野で何を見た。何故吾輩らに隠すのじゃ。」

「…有り得ない者だからです。あっしはあの日、荒れ野にいる人ならざる者に出会いました。あれは…闇を操る-」

 寡黙が、厄介な人ならざる者にあたったな、と呟く。

「えっ、あのエセ山伏が?」

「ふむ…。そやつは山伏ではないがの。人間どもが荒れ野を開拓しなかった原因じゃ。荒れ野に巣食う暴食魔神。この土地に住まう人ならざる者らはそう呼んでいた。」

「知らなかったっス…。」

「そちは知らなくて当然じゃ。人々が鎌倉時代と区分している頃の話じゃからのう。とんと風の噂を聞かなくなったと思ったら。」

 箒を動かしながら、童子式神はこの町のことを知らなすぎるとしょぼくれる。式神なら仕方がないことなのだが、自分は町にずっといたような気がするのだ。

「そいつは、そんな大層な名前がつけられるほど人間たちを脅かしたんスか?」

「ワケあって村へ通じる道が荒れ野しかなかった。必然的にそこを通る旅人にとって魔神は恐るべき存在だったのじゃ。」

「へえ…。そんな過去が…。あいつも、神様だったんスね。」

「奴は式神になっていたのか。なるほど、なら辻褄があう。なら食われる危険性は低いな。」

 あいつ、も?あれ?

「ほれ、行け。あやつが来るぞ。」

「えっ」

 寡黙がフッと姿を消し、テリトリーが晴れていく(?)。現れた庭に佇んでいると、

「よう!」羽を広げ、巫女式神はばさりと着地する。童子式神は嫌がりもせず、佇んでいた。

「…来ましたか。」

「今日は煙たがらないんだな。」首を傾げる巫女式神。

「…来るのは分かっていましたから。寡黙が…」

「寡黙?」

「ええ、あっしの対になっている式神が」

「えっ。そんな奴いたのか?しなかったぜ…まさか、イマジナリーフレンドとかじゃないよな…?」

「な、何言ってるんすか?!そんなわけないでしょ!」

「ならいいけどよ~。」


 巫女式神と童子式神はまた荒れ野に向かう。

「珍しいよなあ、童子さんが乗り気なんてさ。」

「…まあ、用事がありますから。」

「やっぱり山伏の式神に会いに行くのが本命かい?気になるよな。」

 路地を歩きながら、2人は話す。野良猫がびっくりして走っていくのを、巫女式神は不思議そうに眺めた。

「いえ、あっしの目的はシールドを見に行くことでス。」

「ありゃ城壁みたいだよな。他の町を見たことねーけど、皆あんなもんなのかい?」

「…おめぇは見たことないんスか?他の町を。」

「あ、えっとまあ!そんなもんだ!」逆に胸を貼る巫女式神に童子式神は首を傾げる。

「式神システムがどのように作用するかは分かりませんが、あっしらはだいたい2つ隣の町ぐらいの範囲で召喚されるみたいっス。」

「式神しすてむ?なんじゃそりゃ…あー、ほら、あたし新米式神なんだ。」

 ……式神ならシステムを忘れるわけがねえ、こんな惨めな身分になるなんてよ…。巫女式神、お前は-

「どうりで…。式神システムは、人間の言う会社や組織みてーなものです。おめぇも式神なら就職してるはずなのに、知らないとは…」やれやれ、と肩をすくめる。

「フツー新入社員に優しく手取り足取り教えるのが、先輩ってもんよ!よろしくぅ!先輩っ!」

「はあ…」

「けどさ、童子さんはこの町で何回式神やってんだい?」

「はあ?!そっそれは…確かに」焦って振り向く童子式神。

「この町に召喚された方が多いっスね。なんででしょう?気にしてもなかったっス。」

 月を見上げながらしみじみと言う。半月の月と雲が空にかかり、童子式神は照らされる。

「多分あれさ。うんめーってやつだね。」

「は、はあ?!」

「オメー…本当に運命ってやつが好きっスね。」

「へへっ、そうだろ?」にこりと嬉しそうに巫女式神は言う。

 その後、優しげな大人っぽい笑みを浮かべる。


 カラス形態になり、童子式神を掴んだままトサッと着地する巫女式神。

「どうもっス」

「お安いごようさ!ついでになんかくれるんなら嬉しいねえ!」

「何すか?」首を傾げる童子式神。

「あんたの魂、とか?」

「はあ?!」驚く童子式神に、巫女式神はお構い無しに人間形態になる。

「しかしベチャベチャだな、歩きにくい。」

 ジト目の童子式神。

「……。もう人の手が入らなくなって随分経ったみてーですし。」

「へえ。荒れ野って人が使っていた時期があったのか、知らなかった。この有様じゃあ分からないよ。」

「ええ、鎌倉時代は……。」

「カマクラジダイ?なんだいそれ?」巫女式神は首を傾げる。

「人間が区別している時代という、考えです。…戦国時代は、人間が戦をしていた時期がありましたね。その頃でしょう。寡黙が言っていました。」

「寡黙、ねえ。ソイツって物知りなんだね。」

「町の歴史に詳しい、という印象はあります。」

「式神が人間の時間に詳しいのも、ありうることなのか?」

「うーん?あっしが知らなすぎなのかもしれません。」

「それが普通だと思うぜ。人の歴史なんて勉強するのは、物好きだけさ。他人の事情をわざわざ覗くのは人ならざる者らしくない。」

「…物好き、ですかね。」

「ああ。」寡黙を思い出して、童子式神は不思議がる。(寡黙について良く考えたことは、あまりない。)


「まだアイツはでてこないな。」

 巫女式神が荒れ野を散策しながら言う。カエルが跳ねていき、それを目で追う。その着地した先が風化した石だった。

「石だ。」

「えっ?」

「踏まないで!」

 いつの間に山伏式神が現れて、立ちはだかる。


「この石に触ったらあんたらの息の根を止ますからねっ!」

 立ちはだかる山伏式神に巫女式神は納得する。

「まさかあんたの主?食ったなんて嘘で、石になっちゃったんだね?」

 悲しそうな顔をする巫女式神に山伏式神はブチギレる。

「バカなの!?」

「人の血肉が染み付いた忌まわしい石なのかもしれません。」

「違うわよっ!-これは依り代…という物よ。人間どもがそう言っていたわ。」

「元神様?!」

 巫女式神がきょうがくする。

「ええ。私は"神"という者だったの。魔よりランクが上の、とても霊力のある者だったんだから。」

「胡散臭い言い方するなぁ……。しかし奇跡だな、式神になる前のことを覚えているとはねえ。」

 興味津々の巫女式神に「式神になる前…」

 童子式神は虚をつかれた様子になる。確かに自分は"宇宙にいる何かで、飛来した化身"だった。

 -あっしは、この式神とは違う。忘れてしまったんだ。

 嫌な言葉が過ぎり、振り払う。

「おい、平気?」

「ええ、あっしのことは気にならさらずに…」

 巫女式神に心配されにこにこと取り繕う。山伏式神は何を思ったのか、また語り出した。

「……自分は人間どもにとりわけ荒御魂、魔神、荒ぶる神と呼ばれていたわ。荒れ野に巣食う暴食魔神、なんて不名誉なものまであるし」

「うわ、また語り出した。」ちいさいフキダシ。

「本当に荒れ野の魔神なのですね。」

「ええ……と言っても、善悪は人間視点で…私はただ…い存在していただけ。なのに、人間達が私を迷惑がってこの石に閉じ込めたのよ。」

 石のシーン。

「式神に堕ちてもこの石さえあれば私は何者か覚えていられる。私の根幹なの。だから…この石が大切。」石を守る山伏式神。

「何者か……覚えていられる……」

 童子式神はなにか思い出しそうになり、焦る。

 -忘れるものか。

 過去(?)の童子式神(?)が歯を食いしばり、立ちすくんでいる映像が浮かぶ。

 誰か(寡黙)が近づき、過去の童子式神は怒った顔をし振り向いた。

「あっしは忘れない。何度でも思い出してやる。」

「えっ…」

 寡黙の位置に現在の童子式神。困惑した様子で立ちすくむ。

「おめぇは?ダレ…?」様相の違う自分に、童子式神は冷や汗を垂らす。

 あっしが望む、理想の計画。それを忘れてはならない。

 ノイズ混じりの分霊時代の童子式神のシルエットがそびえ立っていた。

「わっ!!」

「我々と同じになったつもりか?神のなり損ない目が。」

 指を突きつけられ、唖然としているとたくさんの手が体をつかみ引きずり落とそうとする。

「!!」

 引きずり落とされる童子式神。

「やめろー!!」

『くやしい!!』

 落下しながら、巫女の気持ちが蘇る。『私は…民に尽くしたのに!!何故?!』

『どうして!!』 手を伸ばす先には山の女神がおり、驚いた顔をしている。(逆光でうまくみえないように)

 あっしは裏切られたんだ!

 ベチャッと叩きつけられ、場面は変わる。目を恐る恐る開けると神域の儀式の場に変わっていた。

 女神の隣に巫女が居た。

 童子式神は主が夢で見た景色と同じなのに驚愕する。巫女と童子式神は見つめ合う。

 あれは自分か?!それとも…神か?!

「あれは神域の起点だ。ルールを定める構成の1部さ。」

 いきなり分霊時代が現れ、悪さを囁く。

「あれをいじればお前でも町を支配できるぜ。面白いだろう?」

「おめぇ…!それは…!!そんなこと!」

 巫女の反論の焼き回しをするも、童子式神は我に返る。

 あれ?いや、あっしは?

「忘れろ。」

 場面がまた代わり、暗いテリトリーに似た場所になる。

「そちにそれは必要のないものじゃ。」

 寡黙が厳しい形相で言う。

「寡黙…?」

 -何があっても忘れるものか。

 脳内に響く声。

 己が分霊であったことを。

 寡黙の手が近づいてくる。

 霊力を封じられたとしても、脳みそから記憶を削ぎ落とされても-

 現実に戻り目を見開く童子式神。フリーズしたままになる。

「めんどくさい奴だねえ。」

「めんどくさい?!あなたお気楽でいいわね!きっと元はそんじょそこらの精霊でしょ?!」

「そういうのは頂けないなぁ。お互い式神なんだ。上も下も関係ないじゃない?-ん?」

「童子……?」

 ボーッとして脂汗を流し、尋常ではない様子の童子式神に巫女式神はあせる。

「どうしたんだよ?酷い顔してるぜっ!」

 巫女式神に声をかけられ、脂汗を拭う。

「あ、え……あ、ああ…すみません…」

「腐った人魂でも食べてきたのかと思ったわ。」

 現実に引き戻され、童子式神は慌てて笑みを作る。

「式神は人魂を食いませんよ、主以外は…」

「減らず口を叩けるなら大丈夫そうね。全く、近ごろの式神って…。-ここで野垂れ死なれたらテリトリーが汚れるわ。式の残す穢れはしつこそうだもの」

 巫女式神は怒りを含んだ様子で言う。

「お前、本当に式神か?」

「し、式神よっ!」

「そう、とにかく!石を触らないこと、あと傷つけないのと、近寄らないこと。約束してくれるかしら?」

「ええ、約束します。」童子式神は頭を下げる。

「こんな奴に頭下げるなよっ!」

 童子式神は巫女式神に何も答えず、静かに切り出した。

「……荒れ野をぬけた先に神域の起点があるはずっス。」

「ええ、あるわよ。」

 意味深な顔をして頷く。

「でもどうしてそれを?-不思議に思っていたけれど、そこいらの式神が知れるはずない情報よ。」

「神々がいました。その"神域の起点"で、集っていました。」

「えっ、ええ、どうしてそれをっ?」

 余裕のある様子から一転、山伏式神は慌てる。「貴方、何者?!」

「……思い出したんス。」

「えっえ?」戸惑う山伏式神。

「どうしちまったんだよ、童子さん。」

 巫女式神も焦り、童子式神は複雑な顔をする。「あっしは…いえ」

「少し正気に戻ったくらいです。」

 顔を見合わせる2人に、童子式神は汗を拭い話を続ける。

「神域の起点は知っていても、行き方をしりません。どうやら…おめぇは神域を深く知っているみてえですし。」

「ええ、シールドの…神域の起点への道を知っているわ。よくど偉い神々が荒れ野を通って、こそこそしているのを見ていたから。」

「どえらい神?」

「越久夜町を仕切っている神々よ。ここら辺の魔どもは見慣れているんじゃかいかしら?私も秘密でついて行ったり、散歩しに行くもの。」

「偉い神々もアバウトだなあ…。」巫女式神がううむと唸る。

 大当たりだ。

 悪い顔をする童子式神はすぐさま平生を装おった。

「でも、それって一般的に、他人へ容易く教えるべきではないものなんじゃないかしら?それに神々を怒らせて食われたり、殺られたくないもの。」

「すまねえ。シールドまで連れてってくれねぇスか。」

 頼み込む童子式神に山伏式神は腕を組む。

「私たち貧弱な式神が、神の怒りなんて受けたら虫けらみたいに一瞬でお陀仏よ。」

「そこをなんとか。なんでもするんで!」

「……条件がある。」

 目をかすかに笑わせて山伏式神は言う。

「あなたの主の魂をちょうだいな。」

「はぁ??!!」呆気にとられる童子式神。

「それこそバレたら私たちが地獄行きなんだから、人間の魂なんて一つや二つ、軽いぐらいだわ。」

「困りましたね…あっしは主さまのために、起点を知りたいのです。」

「じゃあ教えてあーげない。」

 自信ある様子でニヤニヤする山伏式神に、巫女式神は

「あたしの主の魂を食べればいい。それでいいだろ。」

「な、な…」

「太っ腹ね!あなた!」キラキラさせて喜ぶ山伏式神。

「いいんすか?」ボソリと耳打ちする童子式神に

「あたしの主はあんなザコの腹に収まるほど弱くねえよ。」


「なあ、神域の起点ってなんだ?」

 ひょこっと巫女式神がとう。

「あなたは知らないの?まあ、普通はそうよね。文字通り越久夜町自体の神域の起点になるわ。」

 湿地帯を歩きながら山伏式神はいう。

「うーん、それはなんとなく分かる。」

「私にもよく分からない、そこで上位の神々が集って何かしてるだけだもの。」

「ルールを構成する1つです。」童子式神が影を含ませる。

「……?それを見て、あたし達は大丈夫なのかな?」

「だから私も嫌がったのよ。でもあなたの主の魂を貰うんだからしょうがなく…」

「あたしの主の魂を食べたら間違いなく腹下して中毒死するぜ、くくっ」意地悪く笑う巫女式神に山伏式神は引き気味に眉を顰める。「はあ…?」

 意味ありげな笑みを浮かべる。

「童子さん、冒険みたいでワクワクするなっ!」

「はあ…おめえは何故その道のりを知っているのですか?」

 《「……荒れ野をぬけた先に神域の起点があるはずっス。」

「ええ、あるわよ。」》

「加えておめえ、"ど偉い神々"に気付かれずにどうやってついて行っているンすか?」

 《「ええ、シールドの…神域の起点への道を知っているわ。よくど偉い神々が荒れ野を通って、こそこそしているのを見ていたから。」

「どえらい神?」

「越久夜町を仕切っている神々よ。ここら辺の魔どもは見慣れているんじゃかいかしら?私も秘密でついて行ったり、散歩しに行くもの。」》

 山伏式神は無表情に、目を伏せた。

「式神になって、主を食してから元から持ち得ていた能力を取り戻したの。」

「闇を操るヤツか?」巫女式神が問うた。

「私にはあるのよ、その他に。」

 にこりと不敵に微笑むと、ずいずいと歩いていく。

「??」ハテナを浮かべる巫女式神を置いて、2人は歩いていく。

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