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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
越久夜町シリーズ
37/47

捕食寄生

★捕食寄生(主の敗北と童子式神、分霊になれず)


-暗闇なんて怖くなかった。暗闇というのは魔にとってむしろ安心できる空間だった。

人と魔を分け隔てる夜闇。何も無くしてしまう視界の闇。…本当に何もなく全てを含むカオスを顕在させた闇。

チカチカと煌めく光がある。蛍のようにまう光。

-ここはどこだ?

童子式神は独り"夢"の中、行き場を失い途方に暮れていた。行く宛てはある。あるけれど本当の安寧の場は?

テリトリーでも、山伏式神に連れていかれた太虚でもない。

-魔は眠らない。死なない。人の様に睡眠を必要としない、息を引き取らない。何故なら肉体がないから。何処にも居て何処にも居ない-魔。

睡眠の様にふっと意識をなくしてしまえたら、と思う事がある。無に飲まれてしまえば何者でもなくなれる。

……何者でもないくせに。

「うん。勝負しようよ。どっちが先に何者かになれるか。」

巫女式神。あいつは何者でもない事を謳歌している様に思える。

「馬鹿らしい…」あの呑気な顔を思い浮かべるや、何だか思考するのも面倒くさくなってしまった。

今は暗闇に身を任せて、目を瞑り……。

黄金の光が暗闇にさし、ネーハが表れる。ネーハはストンと闇に着地するとメイド服を整えた。

「なぜおめえがここに?」

威嚇する童子式神に、彼は何の気なしに

「夢を媒介とするのが護法童子だ。夢の中ならどこにでも行けるぞ。」

「夢?ここは人間が見るという夢なのですか?あっしの夢ですか?!」

「まさか!式神が夢など見るわけなかろう?貴様の主の夢の中だ。」

挙動不審に周りを見たわす童子式神。

「へえ、なんだかテリトリーと変わりませんね。」

「人間の夢の深層に近しい場所にいるからな。シナプスの光が、集まる場所だ。」

「しなぷす?ふーん。」さほど興味がなさそうに頷く。

「さすがは式神だな。無知蒙昧だ。」

「ムッ!人ならざる者が人界のことなど知らなくても良いじゃねえすか!」

「まさに程度の低さが露見している。……童子式神、君は主の魂を食べるのか?」

「ええ。式神ですから。」

「野蛮だな。世の中には君らと同じように、宿主に寄生して食い尽くしてしまう種がいるらしいが、なんとも野蛮だ。」

「は?野蛮って。それは生き物としての生き様なんス。その種だって生きるために、宿主を食べるのですから、野蛮というのはお前のエゴに過ぎないんじゃねえすか?」

不機嫌そうに言ってのける。

「うむ…エゴか、そうかもしれぬな。反省する。」

ネーハはうんうん、と納得する。

「いや…、別に反省しなくても。」

「式神にも僅かに思考する頭があるようだ。」

「こぉの〜〜~!」胸ぐらをつかもうとするも、ヒョイッと避けられた。

「あっしだって色々考えています!おめえらが思うよりも!」

「ならば式神から逃れられる道を探らないか?」悪魔の囁きのように、ネーハは耳打ちする。

「魂を食べずに得を積み、式神という呪縛から解脱するんだ。」

「種の欲求に逆らえと?」二人は拮抗する。

「魂が輪廻を巡れればその欲求も終わるんじゃないか?この世にしがみついているから苦悩が生まれるんだ。君は長く留まりすぎだ。」

「それって、おめえの本心なのですか?」

意表を突かれ、ネーハはピクリと反応する。

「…。当たり前だろう。やってみる価値はあるとおもわないかい?」

「……。」

「期待しているよ。」


? 有屋鳥子と主が何やら話している。それをドア越しに聞いている童子式神。

世が更け、廊下には満月に近い月の明かりが降り注ぎ発行していた。

-また、終わってしまった。

童子式神は俯き、まぶたを伏せる。

-再び最初からに戻ってしまうのか。今回は不思議なことばかりだった。二度と近づけやしないだろうか。

「おやすみなさい。」

バタンと扉が空く。有屋鳥子が部屋から出てきたのだ。

慌てて逃げようとする童子式神に、「待ちなさい」と声をかける。

「な、なんスか?」

二人は無言で睨み合う。※奇妙なトーンで背景に重ねる。

「罪を償いなさい。加えて彼の魂を解放すること、分かったかしら?」

有屋鳥子が童子式神へ言いつける。

「罪って、あっしは悪いと思っていないのですが。それに、嫌だと言ったら?」

「浅ましいわ。」

「式神でございますから。」

「汚らわしい寄生虫が。」

「……。」罵られ、じっと反抗心を燃やした目で見つめ返した童子式神に、彼女は無表情に立ち去っていく。

-式神が罪をつぐなえるかよ。

心の中で毒づいた。


-そろそろ、命の灯火が消える。主さまは輪廻に旅立とうとしているのだ。

童子式神は魂の匂いを嗅ぎ、確信する。ベッドに近づき、椅子を運び出した。

-式神は輪廻に旅立つ直前の主の魂を食う。

「主さま。」

「ああ……死神。来たのか。」

「式神です。」

主が負け、童子式神との契約が満了する。

ベッドで天井を見つめながら、主はとつりという。

「人であるがためにお前のようにはなれなかった」と、吐き捨てた。

「結局人は人以上の者にはなれないのだな。」

「主さま…無理をなさらずに。」

「あの世なんかに行ってやるものか。お前の中で生き続けてやる。血肉となり…」

「ええ…あっしが食べますから、今は」

「代わりにお前が願いを叶えるのだ。ルールを変えろ。このままでは町は滅ぶ、いや、醜悪な世界になってしまう…人も魔も全ての生物が平等になる、理想郷は…」

「あっしは……分霊に戻りたい。主さま、あっしに」

「式神どもは馬鹿だ、たかが人の魂など手に入れても……」

「……ええ…」

「さあ、食え。お前の大好きな魂だ。」

「しかし、主さまはまだ」

突飛もない発言に舌を巻く。

「式神として保存される前に、オレが死ぬ前に、魂を食え」

「えっ」

「言っただろ。まだ輪廻は巡らない、お前の中で生き続けると」

「あっしに、式神もどきになれと言うのですか?」

「式神から開放されるのなら、それもありだろ。」

『魂を食べずに得を積み、式神という呪縛から解脱するんだ。』

ネーハの言葉が甦る。

ゾワッと式神の本性が溢れ出し、心臓が早鐘を打つ。

「はあっはあっ」涎が垂れ、汗が吹き出した。

「食え。魂を」顔面蒼白の童子式神に魔性の己が語りかける。自分を見失いかけそうになった時

「星の神よ」

「ハッ」主の声に引き戻される。

「お前は星の神に似ていた。」息も絶え絶えに主は言う。

「あの時訳も分からず読んだ法文は、星の神を使役するものだった。」

「お前が星の神でなくても今はそれでいい。式神に食われるのが正しいと思える。」

ベッドに横になる主を見つめる童子式神。

「お前が…何であろうとこれで良かったのだ。そうだろ」

-結局…自分は…怖かったんだ。でも独りぼっちから二人になった。それだけでよかった。

少年の主と童子式神が向き合う描写。※終盤の焼き回し。

「さあ、食べろよ。」笑顔の少年が魂のゆらぎになり、人魂状になった。その人魂が童子式神の手の内に収まり、当たりを鮮烈に照らした。

童子式神は魂に口を近づけ、ごくりとそのまま飲み込んだ。光が途絶え、主は息を引き取った。

「………。」

魂をもらいうける童子式神。ジッと複雑な心境で主の亡骸を眺める。そして椅子から降りると、扉へ歩み寄った。

フッと振り返り、童子式神は扉を開ける。※扉を開ける描写はしない。

扉が閉まり、部屋は薄明かりだけになる。


あれだけ薄ら寒かった世界に朝焼けの予兆が照らし始める。鳥のさえずりが聞こえ、童子式神はテリトリーへ逃げ込んだ。

「寡黙?」返事はなくしんと静まり返っている。しめ縄が少なくなり、テリトリーのそこかしこから光が漏れいでている。

廃屋めくテリトリーに風の音がわずかに響いた。

-魔法が解けたみたいだ。幻を見せられていたのか。

転がった椅子が枯葉に吹かれている。

テリトリーのしめ縄が一様に解け始め、暗闇が薄くなってくる。童子式神は一際濃い闇に歩み寄り、手を伸ばす。ヒビがはいり始めた空間に手が触れると、パリンと砕け散った。

「!」

崩壊した先には朝日が昇る空があり、早朝の庭が広がっている。

「あれが太陽、………。」

手を太陽に伸ばし、煌めきに目を瞬かせる。鳥のさえずりが耳に入る。

「生きとし生ける者の世界は、こんなにも色鮮やかだったのですね。目が痛いぐらいです。主さま」

呟いて庭から正門に向かう。

日差しに照らされた様々な物に影ができる。童子式神だけ影はなく、髪飾りが反射して光る。

そそくさと歩く描写。※コマ分割。

童子式神は星守邸の門まで来ると、一度振り返る。

「狭い世界にいたものでした。」

独り言ちると再び歩き出そうとした。

「童子式神。」

呼び止められて、童子式神は前を見すえる。ネーハがご立腹の様子で立っていた。

「護法童子」

ネーハが童子式神に詰め寄る。胸ぐらを捕まれ、持ち上げられた。

「魂を食べたのか!」

「当たり前でしょう。式神ですから」

何のことも無いように童子式神は虚ろに言う。

「ああ、もう式神ではなくなってしまったようです。」

「お前…!魂を食べずに得を積めば、苦悩から開放されたかもしれないのだぞ?!なぜ自ら!」

「世迷い言を。馬の耳に念仏というのを知りませんか?功徳のありがたみを式神は理解できないのです。低俗ですものね。」

「貴様っ!」

「説教をしているあなたも、本当は消えたくないのでしょ?本性に背いていながら、あっしに得だの何だの。ばかばかしいったらありゃしねえ。」

「--式神めが!」

「護法童子も変わらない、元は人食い魔のくせに。」

「それ以外言ったら消し去るぞ。」

「消し去ってみなさいよ。」

ネーハはその言葉へ怯えるように反応した。

「虚勢もほどほどにした方が良いですよ。護法童子。」

「このっ…!」胸ぐらを掴む手を振りほどかれ、ネーハは取り残される。

「あの野郎っ!………はあ、だめだ。怒りに振り回されては」

拳を握りしめ、ネーハは息を吐いた。


後日、有屋鳥子が西洋館に訪れる。ネーハを引き連れ、二人は空になった部屋を眺めた。

「馬鹿な子。」

有屋がポツリと呟く。「悪魔の声ばかり信じて、私の言葉をひとつも受け入れやしなかった。」

「…」ネーハは献花を床に置く。

「あなたの真の目的はなくなってしまったわね。」

「はい。人間から魔物を除けませんでした。でも、まだ彼の悪神を滅する任務が残っています。」

「そうね。」手袋をした右手(わずかに痺れているのか震えている)を有屋が見つめる。

「有屋さま?」

「大丈夫よ。町の神々との会合に向かいましょう。」

「はい。」

踵を返し、二人は部屋から出る。

「審判があの様な終わり方になって、不完全燃焼だったわ。主の業は解消されたとしても、残骸である式神が残ってしまっているのが気に食わない。悪神の残骸を再起不能にせしめ、女神の安寧を…」

女神の安寧。悪神の残骸--

ネーハはおぞましい考えが顔に出る。黒塗りになった顔に汗が一筋垂れる。

表情が見えないまま、ネーハは答えた。

「はい」

不意にネーハは手袋に目がいき、普通に戻った。

-有屋さま、いつから手袋を?

「ネーハ?聞いている?」

「あ、すいません。ぼうっとしていました。」慌てて謝る。

二人は廊下を歩いていった。


童子式神の身に何も起こらず。

-後一歩で何者かになれるのに。その後一歩に届かない。やはり自分が何者であるかを思い出せない限り、式神システムからは逃げられないのか?

巫女式神と訪れた廃屋の扉に背を預け、座り込んでいる。童子式神は体育座りの状態で、ぼんやりしていた。

巫女式神が脳裏に浮かぶ。

-ヤツは罵るだろうか?それとも興ざめするだろうか?……さあ。

「そんな所にいて、そちはどうするつもりじゃ?」

階段からイマジナリー寡黙が湧いてきて、童子式神に話しかける。※足がなく、鈴がない。童子式神と同じ髪飾りをしている。

「あっしは幻までもおめえに答えを求めるとは。呆れます。」

「そちは今まで吾輩に思考を委ねてきた。」

「ええ。アイツはあっしが考えないように、しつこく遮ってきましたから。」

「そうじゃろうな。」頷いて目の前にくる。ゆらめいている寡黙を見上げた。

「寡黙。あっしはどこへ向かえば良いのでしょう?」

「主はもういないのだぞ。」

「主……」

「なら、おめえが命令してください。服従を誓います。」

「もうそちは式神ではないのだぞ。」静かに嗜められて、童子式神は俯いた。

「自らが決めるのじゃ。これからは、何千の時を自らで」

「嫌です!何も考えたくない!!」目を覆い、さらにうづくまる。

-式神で終わらせなかった主さまからの呪いなんだろうか?人間は自ら物事を考え、分岐する未来を……苦しい。苦しい!呪われたんだ。

「主を恨むか。」

イマジナリー寡黙がジッとこちらをねめつけている。

「いや、いいえ、あの人間は、理想的な言葉しか言いませんでしたがあっしを導いてくれましたから。」

「人間の言う言葉などたかが知れている、」と寡黙は思っている。

「良くて100年しか生きない"短命"な生命体がこの世の何を知れようか。」

「あのガキは、いつまでも現実など見や出来なかった。」

※フキダシを分割。

「あっしは、そんな風に思っていたのですね。」

ああ、あっしは-人間を見下していた。

「主さま…」

目をつぶり、主の魂を感じようとする。「?」

手に入れた主の魂がほぼ空っぽなことに驚く童子式神。

「空っぽだ…」

-中身はどこへ?

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