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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
越久夜町シリーズ
36/47

収斂

★収斂←最頂点


巫女式神が鳥居の下の階段で座っているのを見つける。誰かと話していたのか、「じゃあ」と境内へ向かって言う。誰もいない境内にネーハは訝しがった。

「ん。ネーハ、どうしたんだ。」

ネーハに気づき、手を振った。思わず振り返して己を恥じる。

「君に言いたいことがあるんだよ。」

ため息をついてわざとらしく肩を竦めて、お手上げのジェスチャーをする。

「巫女式神!聞いてくれっ」

「またかい?しつこいなぁ。」苛立ちを露わにする巫女式神にネーハは詰め寄り、息を整える。

「君曰く童子式神……だっけ?彼がかつて分霊だった頃の象徴を手に入れたんだ。」と、ネーハは言う。

「え!本当か?!すごいじゃないか!」

パッと顔色を変え、巫女式神は明るくなる。ネーハは錆び付いた銃剣を鞘から抜くと、巫女式神に見せつけた。

「へー。洒落た本体じゃないか。剣か何か?」

「銃剣ではないかな?神々は地球の文明を保存し、模倣することがある。」

「すごい昔なのに、不思議だな。」

巫女式神はつんつんと銃剣をつつく。

「古代核戦争説があるように、地球にはいくつか文明が誕生し滅んだのかもしれない。-それはどうでもいい話だ。」

「これで、アイツは戻れるのかい?」

「ああ。」銃剣を渡す。

巫女式神は銃剣を手にじっと魅入る。

「ああ、きっと。巫女式神、これを彼に渡すんだ。」

「負けたんだな、あたしは。」

ポツリと呟き、ネーハは首を傾げる。「負けた?」

「うん。競争してたんだ。どっちが先に何者になれるか。でも嬉しいよ、アイツの願いは叶えられるんだ。」

「……君は」言いかけて、ネーハは押し黙る。

「さ、早く渡しに行こうぜ。」

走り去っていく巫女式神の後ろ姿でフェードアウト。


場面は変わり、巫女式神は庭にやってくる。ネーハは「邪魔しちゃあ悪いから隠れてるよ」といい、どっかに言ってしまった。

「童子式神ー!」

大声で叫ぶと、テリトリーから童子式神が呆れ顔で出てくる。

「なんスか…うるさいですよ。」

巫女式神は童子式神に言う。

「おまいさんに見せたいものがあるんだ!すごくびっくりすると思うよ!」

「はあ…夜が空けそうなのに?」

庭を見回してうんざりする。

「童子さんが神に戻れるかもしれないんだっ」

巫女式神の言葉に明らかに目を丸くし固まる童子式神。瞳に巫女式神が映る。

「……。ジョークか何かッスか?」

「ちがうやい!-見てくれよ」

隠していた銃剣を鞘から抜く。錆び付いた刃を童子式神に見せつけた。

「この町にいた悪神の、御神体-本体と言われてる剣なんだ。それが見つかったんだ。」

「こ、これが……?」

ゆっくりと震える手で童子式神は刃先に触れようとする。

「しめた!」

「え」

物陰から奇襲してきたネーハ。剣をひったくられ、巫女式神は固まる。ネーハは力を込めて童子式神へ突き刺した。

「がっ!」

童子式神が護法童子により剣に貫かれる。

「な、なんで-」血を吐いて巫女式神をみやる。巫女式神と目があい、お互い驚愕で固まっていた。

「悪神めがっ!」

「…ネーハ?!」

「ここで滅べ!町のためにっ!」

ネーハが叫び、一瞬童子式神が融解し、剣が再構築される。元の剣に戻るも童子式神は昏倒したままぐったりとしてしまった。巫女式神はそんなはずじゃなかったと童子式神に駆け寄る。起きない童子式神。

「騙したな!」

護法童子に詰め寄るも、ネーハは再びトドメを刺そうとする。

「倭文神っ!これがお前のバツだ!」

怒った寡黙が裂かれた空間を修復し、布でネーハを束縛する。ギリギリとネーハを苦しめる。

「護法童子の分際で」

童子式神を元の依り代状態に戻した。髪飾りを手の内に収めると、おぞましい顔つきでネーハをみやる。

「......そち、何をしたか分かっているのか。」

「私は正義を実行しただけだ。」ニタリと悪い顔をする。

「消し去ってやろうか。」

「-童子さんはどうなっちゃったんだよ?!」

二人の間を巫女式神が乱入する。泣きそうな顔をする巫女式神に、寡黙は表情を少し戻した。

「再発生するまでに時間がかかる。」

「ネーハ!なんでっ!!嘘つき!」殴りかかろうとする巫女式神に寡黙が立ちはだかる。

「吾輩が始末する。邪魔をするな」

鬼迫のある顔に巫女式神は振り上げた拳を下げる。二人に睨まれたネーハはわずかにたじろぐ。

「殺ればいいさ!私に悔いはないぞ!」

「倭文神。そこら辺にしなさい。有屋鳥子が命じるわ。」

庭の角から有屋鳥子が現れ、ネーハの横にたつ。

「女神に反逆した罪で町から追放されたくなければ、ネーハを解放しなさい。」

「吾輩が反逆した?笑かすな。」

「越久夜町の神々の間であなたの素行が怪しいと、これ以上目立った問題を起こすのならば処置が必要という話にまとまってきているわ。」

「……姑息な。どうせそちが操作したのじゃろう。」

涼しい顔で有屋は頷くと、

「ええ。あなたが女神に逆らう素振りを見せたからいけないのよ。くわえて…お飾りのあなたを良く思っていない神もいるのは確かよ。」

「…!」憎しみに染まった顔で寡黙は有屋を睨む。

「ならばネーハを解放しなさい。」

「……腐り果てておるわ。」

「なんとでも言いなさいな。」

束縛を解くと、ネーハは地面に着地する。「さあ、行きましょう。剣を回収して」

「は、はい!」

慌ててネーハが剣を拾っている間に有屋鳥子は去っていく。

「なんで解放したんだよっ?!あんなヤツに従うなんてっ!どうしてだよ?!」

巫女式神が寡黙にいいがかる。

「"大人"にはこのようなことが起きる……特に閉鎖された田舎ではな。そなたの生まれた場とは、そんなものじゃ。若造。」

「……嫌だよ……。」涙を流しそうに、食いしばる巫女式神。

「髪飾りを清めなければ。アヤツの魂が再発生するのが百年もの年月がかかってしまうじゃろうな。」

「えっ童子さん死んだんじゃないのか!!??」

涙を流したまま巫女式神は驚く。

「吾輩の話を聞いていたか?式神は早々死なぬ。だがあの依り代で魂が再構築された可能性はある。死はしないが……」

「な、なんとかしてくれよっ」寡黙にすがる。

「そちは何故そこまでアヤツに固執するのじゃ。」

「童子さんはアタシの大切な友達なんだっ!!」

必死な形相の巫女式神に寡黙は理解できないと固まる。

「そなたは人ならざる者らしくない」

フェードアウトしていく。


? 武器を構えた群衆に囲まれ、巫女は神器である銃剣を握り

「あなた達はもう、神々の加護、神託を受けることはできないでしょう。人々と神々の時代は終わったのです。」

銃剣を心臓に突き刺す。

巫女はがくりと前のめりになり、怨念の籠った眼で群衆を睨みつけた。

-憎悪。

そうだ。俺を、アイツらは拒絶したのだ。

巫女が血を滴らせながらすくっと立ち上がり、こちらを見つめる。その姿に主の面影が重なり、やがて闇が巫女を覆う。

-山の神。何故俺を拒絶した。

闇が天津甕星に成り代わり、憎悪で染まった表情で歯をむき出す。

「なあ」

鋭い歯を覗かせた口が言う。次のコマで血肉を滴らせ、ニタリと笑ってみせた。

前代の最高神の亡骸を食い破る天津甕星。頭はなく、首の断面から大量の穢れた体液が吹き出している。心臓部がえぐれており、天津甕星が愛おしそうに抱き抱えていた。※天津甕星は拒絶されて前代を殺めた。

童子式神はその景色に喉がヒュッと鳴った。

-あれが、神威ある偉大な星。

「"お前"も拒絶するのかぁ??」

巫女の衣服を纏い、髪を垂らした童子式神は怯える。「い、嫌だ!あっしは-!」

「ソうぅなのかあ。おめえも、この俺を--」

天津甕星の顔がさらに化け物に変じて行く。腐敗して壊死していく顔面から、触手が飛び出した。

「あっしはあんなヤツじゃないっ!」

背を向けて走りだす。覚束無い足取りで逃げる。

「-その空っぽで純潔な魂、食らってやろうぞ。」

-神世の巫女。

「ハァハァ…!」ぬかるむ足元にとられ、べちゃりとこける。

「くっ……!」ズブズブと沈んでいく童子式神。

『神威ある偉大な星』

声がしてハッと顔を上げると、太古の昔の服装をした人がいた。

『眩いばかりの輝き、畏怖を抱くお姿。何事にも屈することのない意思。己に従い貫く正義。太陽にも負けぬ明星のように、他の神々とは異なっていた。…私はその輝く神を崇拝していたのだ。民に言葉を伝え、どんなに素晴らしいか…』

熱弁している人間時の鬼がいる。

険悪なイメージが湧く。

-異国の巫覡。お互い仲は最悪だったが考えている事は一緒だった。

「アイツはそんなヤツじゃない--」

迫ってくる天津甕星に童子式神は吐き捨てる。

「神世の巫女かみよのみこかみよのみこお前に成り代わってやる。」

食われる!

-ムラをどうするつもり?女神を殺めても前代の最高神にしたことの焼き回しにしかならないわ。

大人の姿の巫女が言う。

-神威ある偉大な星。あなたを鎮めなくてはならない。

巫女の言葉が振り返らせる。

「終わらせなければ」

彼女の手が童子式神を立たせる。カオスに変貌していた空間が崩れた異質なしめ縄の連なる、大虚に変わっていた。

「おめえは、神世の巫女。」

「わたしはあなた。もう終わりにしましょう。神威ある偉大な星の稚拙な願望も、わたしの未練も」

「えっ」

「大丈夫。この時空ならできる。」

童子式神は絶望した相貌で立ち尽くす。

「そんな………あっしの未来は?あっしは、続かないの?」

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