ネーハの代価
★ネーハの代価←ネーハ、象徴を手に入れる
-彼女が鍵なんだ。この状況を打破する、大切な特異点。巫女式神が最高神になってくれさえすれば-
ネーハは錫杖を消し、立ち止まる。
すれば?私はどうなるんだ?
汗を垂らし、ネーハは《この身はまた苦しみに苛まれる。それこそ忌み嫌われた式神のように。》のコマを使い回す。
-やめるんだ。使役者の命令に従い、任務を遂行するのみ。私情を挟んでは行けないのだ。
「巫女式神。いるか?君に用がある!」
鳥居に向かい、ネーハは叫ぶ。するとスタスタと足音がし、境内の奥から巫女式神がやってきた。
「よう!護法童子。」
巫女式神はいつも通りの調子で挨拶する。ニカッと眩い無邪気な笑みに、彼は自らの心に後ろめたさを感じ不格好に笑い返した。
「決まったかい?それを聞きに来たんだ。」
ネーハが神域越しに問うた。夕闇に包まれた町にカラスの声が響く。
「…うん」こくりと頷くと、神妙な顔で言う。
最良の反応を期待して、パッと表情が明るくなる。神域に手をつけようとした折、巫女式神は口を開いた。
「あたしは最高神にはならない。」
二人の間が心理的に遠くなる。※コマでたくさん分断する演出をする。
「どうしてだ!神になるのが、君の願いのはずだろう?」
「確かにそうさ。それが"あたしの主"の願いだ。」
「……。」ネーハはかたずを飲む。
「それはあたしの真の気持ちでも願いでもない。」
「式神のくせに主に逆らうというのか?」
巫女式神はかすかに笑った。
「この巫女式神という者はな、式神だけど式神じゃないんだ。主もそれを知ってる。なあ、ネーハ。」
「な、なんだい?」
「考えたんだ。あたしが最高神になった未来を。」
ネーハが顔を明るくする。
「町はもう高齢化が進んでる。今もきっと未来も。人も神も、限界が近いんじゃないか?ならあたしが最高神になろうが変わりやしない。それに鬼神の眷属が最高神になってしまったら、神々も神使も納得するはずがないだろ。」
「しかし適応力があるのは君らしかいないんだ。神々も納得せざる得ないよ。」
身振り手振りで必死で説得するネーハ。
「表向きにはね。けどまとまりはしないと思う。」
「……そうか。」ネーハは有屋鳥子との会話を思い出す。
「しかし!町を滅んでもいいのか?君が生まれた故郷じゃないかっ!」
「……地球を操っている全知全能の神さまじゃないんだ。滅んだって、もがこうたって変わらないよ。あたしらは決められた物事を眺めている小さな存在でしないんだから。」
「き、君までっ!」
「だからあたし、この際どうなるか分からないまま精一杯突っ走ってみようと思う。消えても、逆に大出世しても恨みっこなしだ!」
にこりと無邪気に笑った巫女式神に、ネーハは虚しさを感じる。※トーンでネーハだけ暗くする。
「……。」
「じゃっ!またな!」
境内に消えていく巫女式神。僅かに手を伸ばしたが、すぐ引っ込める。ネーハは佇み月明かりに照らされていた。
「私たちの気も知らないで、呑気なものだな。」
そう呟いてネーハは眉を潜めた。
-ああ…有屋さまになんと説明しよう……。
?
肩を落としネーハが地主神の鳥居の前で佇んでいると、山伏式神が駆け寄ってきた。何かを布で包み、手にしている。
「おや。式神もどきの-」
「久しぶりね!探し回ったのよっ!」ゼェゼェしながらも、包みから剣を取り出し差し出した。
「それは」
「墳墓から見つけたの……!でも…これでいいのかしら?」
錆び付いた剣は欠けて、使い物にはなくなっていた。ネーハはこれだ、と確信する。
-あの"お飾り"に一泡吹かせることができる。
「墳墓のどこでそれを手に入れたんだ?」
詰め寄ったネーハに山伏式神は少しギャグ調の驚いた顔になる。
「内側にある室内から出てきたわ。これがあなたが欲しがっていたものよね?」
「ああ、ありがとう。」
受け取ると、ネーハは頭を下げる。「恩に着るよ。」
「いいのよ、探していたといっていたから。」
ニコリと善良な笑みで答える。ネーハは嬉しいそうに
「さっそく報告に行ってくるよ!」
走りながら手を挙げ、パタパタと遠さがって言った。
山伏式神は笑いを固定したがやがて顔面蒼白になる。※コマ割りで表現する。
「わ、渡したわ。これでいいのよね?」
天津甕星が逆光で現れ、ニタリと笑う。山伏式神はそれに恐怖に歪んだ笑みで返した。
-死ぬのは、イヤ……。
一方ネーハは走りながら明るい顔で希望に満ち溢れる。
-有屋さまが喜んでくださる!町は正義によって再生するんだっ!
有屋鳥子が言っていた「それにしても心外だわ。アレが悪神を肯定するなど、ましてや女神の命令を裏切るなんて起こってはならない事態よ。」のコマを使い回す。
-心外でもなんでもない。アイツは悪なんだ。山の女神に付け入り、町の神々からも嫌われている。何を考えているかも分からぬ君の悪いヤツ……。
剣を握りしめ、ネーハは翼を生やし飛んだ。キラキラと当たりを照らし、反面表情はおぞましい。
-魔のフリをしている所も気に入らない。神である者が魔の何がわかる?冒涜に他ならないじゃないか。
………。
おぞましい魔性の顔から、少年の顔に戻り深呼吸した。
「はあ…やめだやめ。」
己の考えに嫌気がさして、ネーハはシュンとする。
「護法童子になってから-この町に来てから…ろくな考えをしてないな…。こちらまで穢れそうだ。」
ゆらぎが雲となり漂っているのを見て、ネーハは嫌悪した。
-越久夜町はケガレに呑まれる。
「あの悪神を早く滅しなければ!」




