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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
越久夜町シリーズ
34/47

山の女神の裁きと宿命

★女神と主→山の女神の裁きと宿命


むかしむかし人々が今のような文明を持つ、もっと昔、越久夜町には神々の声を聞き、民に神託を届ける巫女がいた。巫女はその力から民から大切に守られ、女神や他の神々もまた巫女を頼りにしていたのだった。

彼女のことを人々は口を揃えて言った……女神に選ばれし娘、と。

わたしは、だれ?

わたしは-………しがないムラの娘。名前はなかった。

でも、あの方に付けてもらった大切な名前。………どうして思い出せないんだろう?

裸足が草原を踏みしめる。よれよれと歩きながら、巫女は荒れ野を進む。

暗い、苦しい。恨めしい。あの神は"わたし"を拒絶した-。

-わたしのではない禍々しい気持ちが、溢れだしてくる。それもそうだ。

もう、わたしの魂は壊れてしまったんだ。

ボロボロの服をまとい、大きな月の下佇む。巫女は眩しそうにそれを眺めた。

主は少女から分離する。驚き、自らの手をみやり、少女の背中を見た。

「あの娘…は、夢の中の自分ではないのか?」

-人の魂は、地球の一部。壮大な可能性と力を秘めている。そうは思わないか?

天津甕星が主に囁く。夢の中の自分だ、と主は椅子に腰掛け俯いた。

「お前は誰なんだ?夢を見せて何がしたい?それとも自らの願望の化身なのか?」

「俺は--」

アマツミカボシはユラりと消え、次の瞬間ドアの前にいた。

「おい!」

主は慌てて立ち上がり、焦る。

「どこにいくんだ!」バタリと扉が閉まる。

アマツミカボシの背中を主は追いかける。子供姿のあるじは手を伸ばした。

「待ってくれよ!」

振りからずに、アマツミカボシはモヤの中に消えうせる。残された主は扉の前で立ち尽くした。※ナチュラルに場面が変わっている。

「お前も、オレを置いていくのか」

膝を着いて俯いてしまった。夢が晴れ初め、景色がぐちゃぐちゃになっていき無になる。

主は目を覚まし、汗を拭う。寝汗びっしょりの状態で傍らに童子式神がいた。

「悪い夢でも見ていたのですか。」

「……。さあ」

はぐらかすと体を起こした。「一つ言えることは…」

「夢の自分はいなくなった。跡形もなく。」

主は前髪をぐしゃぐしゃにしながら言う。

「は?」

童子式神は目を丸くしている。「そうだよな。式神のお前に話したって」


テリトリーから運び出した書物をベッドに置くと、主は手に取った。

「祖父の代にしまったのかもしれない。祖父は呪いに詳しかったから」

「はあ…難しい文字ばかりで分からねえっス。主さまは読めるのですか?」

「ああ、まあ……すこし。読めたって式神には関係ない内容だ。……じいちゃんは博識で不思議な人だった。オレに色々なことを教えてくれた。」

悲しい表情をする主に、童子式神は気まづくなる。

「お前に会えたのも、祖父のおかげかもな。」

「やめてください。寂しいことを」

「祖父の葬式の日に、お前に出逢えたんだ。」

掛け軸の前で少年が佇んでいる。手には古びた手記が握られており、童子式神は自らの手をみた。

「 …。」

「君が、お星の神さま?」

「わたくしは式神です。」童子式神は機械的な笑みを作る。

「式神…?かみさまではないの?だって、君はお星の神さまにそっくりだ。」

「主さま、なんなりと命令を。」

「主…さま?僕が…?」

きょとんとした瞳が童子式神を写し込む。

「友だちに、なってくれる?」

「ともだち?」

二人はさらにきょとんとする。

「……昔の記憶ばかり思い出してしまうな。まるで走馬灯みたいだ」

「やめてくだせえ。」

「さあ、本題に入ろう。」

ー星守家の、始祖の遺物が祠に祀られてあるという。それを持ち、霊脈の合流点である越久夜間山へ入る。正面からではなく裏から行かなければならぬ。そうすれば霊門が開き、山の神が住む神世にいける。

「祠を開けなければ」

「ええ」

「遺物がどんなものかは分からないが、祠の大きさからして越久夜間山まで運べるものだろう」

「ええ……」

「思い立ったが吉日だ。行くぞ。」ベッドから足をおろし、よろけながらも歩き出した。

「主さま?!」


二人は草木の生い茂るけものみちを歩く。秋の虫とフクロウの鳴き声が聞こえるのみ、のどかな夜だった。

主は汗を拭う。

「熱が出てきやがった。」

「戻りますか?」慌てる童子式神。

「まさか、ここで引き返すなんて愚の骨頂だろ?」

「は、はあ」

「神域の起点であるあの祭壇にケガレをぶつけるのは、お前にも話しただろう。起点は最高神の核となるテリトリーだ。女神の本体は起点そのものなんだ。」

「…それは?」

「人間というのは、妄想しながら考えている。絵空事が真実になる時だってあるんだよ。」

「はあ…」

主は草をかき分けながら、言う。

「オレが穢れを巻き散らせば、女神は弱って町は無防備になる。」

「その隙に、越久夜町を」

「そうさ。」

「……あっしが掃き清めていたゆらぎを。」

「なんだ?怖気付いたか?」いたずらっぽい様子で主はニタリと笑ってみせた。

「ち、ちがいますっ!」

「あちらが思い描いているシナリオ通りに進むだけさ。なにも躊躇するこたない。」

眼前に壊れかけた祠が現れる。二人はそれをジッと見やった。

「最終決戦だ。」

試しに軽く触れ、弾かれる指に主はなにか考えている。スーッと指を這わすと、思い立ったように彼は言った。

「星守夜一が命じる。我が名において、結界を呪解する。」

パシっと祠をおおっているシールドが弾ける。余波に童子式神は目をつむる。

「空いた。」

「意外に簡単でしたね。」

「やっぱりじいちゃんが結界を張ったんだ。………。」感慨深いと手を眺める。「孫の手で祠を開ける。」

「主さま、気をつけてください。開けた際に悪いマジナイが発動するやもしれません。」

「わかってる。」

書物を手に、祠を開ける。祠には頭蓋骨がポツンと収められていた。

「これは…始祖の遺物か。」

「星の神の依代が…人の頭?」と、童子式神は驚愕する。

「始祖か、偽物かは分からないが、人の頭蓋骨であってるんじゃないか?猿ではなさそうだ。」

手に取っ手眺める。

「法文にはおおざっぱになるが頭蓋骨に星神を縛り付けたと書いてあった。もしかしたら、これが式神の依り代なのか?」

「あっしの依代でもあるんですかっ?!」

「法文によればな。」主はしゃがみ込んで木箱に入れ、蓋をした。

「この町で頭蓋骨を依代にするのは稀じゃない。山犬とか、そういうのがあったらしい。じいさんが言っていた。」

「へえ、そうなのですか。」

木箱を抱え、主は歩き出した。

「本当に山の神に逢いに行くのですか?」

「ああ、不出来な計画でも会いに行く価値はあるだろ?それと、この術が本物なのかも確かめたい。」

「最高神に会いに行くのは、とても危険かと……」

眉を下げて、童子式神は言う。

「式神が思慮というのを覚えだしたか。笑えるな」

「主さま!」

「魂から全てを抜き取られ、廃人になり死ぬまでには願いを叶えたいものだ。」

「ムウっ」むくれる童子式神にフッとわらいをもらす。

「オレをテリトリーに入れてくれ。やりたいことがある。」

「はい。」

童子式神はテリトリーを召喚すると、暗闇に入っていく。小さな入口に身をかがめて入っていく主。

テリトリーの椅子だらけの空間に、四方を注連縄で囲んだ物があった。

揺らぎを固めたブラックホールのような勾玉がその中に浮かんでいる。

「こ、こんなの知りませんでした。」

主は「お前がやったのではないのか?まあいい」と勾玉を手に取った。

口にポイッと放り込む様に童子式神は驚愕する。

「主さまっ?!!!!!」

ゆらぎを体に宿し、主は少し呻いて苦しんだが耐え抜いた。

「!」

童子式神の体にエネルギーがブワッと満ちる。

-マイナスのエネルギーが……!

「何も無くなった人間の恐ろしさを知るがいいさ。」

「え、ええ……」


越久夜間山の裏道にくると、頭蓋骨が僅かに柔い光を発する。すると道の入口に太古の形式の鳥居がブンと浮かび上がり、ゲートが開いた。フワリと埃臭いような、淀んだ空気がゲートから漂ってくる。

二人はそのただならぬ空気に息を飲んだ。

-最高神はマイナスの気を持つ神だったのか?

「これは考えつかなかったな。」

苦笑する主。

「潜るのですか……?」

「ああ、行こう。」ゲートを潜り、主は苔むした階段を登り始めた。

「嫌な予感しかしねーッス……」

-山の女神が邪気にまみれた神だったら、あっしらは打つ手が無くなる。けど、記憶では……。

ごくり、と緊張に唾を飲み、童子式神はついて行った。

※階段を永遠と登る描写。

「はあはあ……たどり着かねえ!」

「少し休もう。」息を切らした主が階段に腰を下ろした。

二人はしばし黙り、やがて主が口を開いた。

「山の神と思われる神が、夢に出てきたことがある。」

「えっ」童子式神は素直に驚いた。

-寡黙、いや、倭文神が見せてくれた神世の巫女の記憶が……主さまにもある?

「オレは始祖の魂を持っているのかもしれない。」

「あ…その」どういう状態なんだ?あっしも、そうじゃないのか?

「オレの夢に現れた女神は光に満ち溢れていた、美しい神だ。きっと世界をその光で照らしつくすような…こんな存在でも生きていいと思えるほどに。」

「この気では…主さまのいう女神とは異なるのかもしれないですね。」

童子式神はうつむき加減に言った。

「越久夜町はもう終いになるのやもな。」

「主さまは、町を再生するのでしょう?」

「ハハ…」力なく笑うと、それ以上何も言わなくなってしまった。


階段の最上階の所に人影があった。やんわりとした光がその人々を照らし、後光のようになっている。二人の影がこちらを見下ろしており、目を凝らした。

「シナリオ通り、オレは終わりということか」

山の女神が階段の上で待ち構えていた。腕を組み、こちらを見下ろしている。童子式神は脂汗を垂らし、「あれが山の神……」と呟く。

山の女神。わたしの太陽。

逆光になっている山の女神に恐る恐る視線を合わせる。

娘や。お前は月のようだね。 山の女神が言う。

-嬉しかった。

-あれが山の女神。記憶とは全くの別人だ。

あんなに疲れきって……私の太陽よ。これ以上苦しまないで。

童子式神の中の神世の巫女が嘆き悲しむ。

ハッと巫女の気持ちに驚き、胸にそっと手を当てる。

ー町を終わらせなければこの苦しみは終わらない。※童子式神の運命が確定する。

「終わりならば、望み通り受け入れてやろう」

「主さま?!」

「オレは終わりじゃない。また、いや、これからも理想を叶える。それにはお前が必要なんだ。」

「…は、はあ。」

「山の女神がお待ちだ。さあ、行くぞ。」

階段を登り始める主。その姿に天津甕星が被る。

童子式神は目を瞬かせたが、天津甕星の姿はなくなっていた。

するとネーハがシュタッと階段に着地する。

「護法童子っ!」

「最高神は貴様らをこの場に受け入れた。-こちらだ。ついてくるがよい。」

ネーハが案内役を買って、階段を上っていく。

「笑かすぜ。」

主はズカズカと歩いていき、童子式神は慌ててついていく。

「君たちには余地がある。悔い改めよ。」

童子式神は首を傾げる。「悔い改める?なぜです?」

「あっしらは何も悪い行いなどしていません。」

ネーハはそれを鼻で笑った。

「ふん。言っていればいいさ。悪神の残りカスが。」

「ムッ…」切れそうな顔になる。

場面が進み、階段の先にきた童子式神たちを山の女神と有屋鳥子が待ち受けていた。

感情の抜け落ちた人形のような、生気のない顏をしている山の女神に童子式神は恐怖を覚える。

主は女神を見て笑った。「ああ!なんだ!!バカバカしい!」

女神と対峙する主。

「ようやくたどり着いたようね。その根性お見逸れいるわ。」

「嬉しいよ、最高神。お前に会えて。」

「あら、初対面ではないはずよ。」

「だろうな。本家のオバサン。」

有屋が尽かさず「建速(たけちか)!失礼でしょう?!!!」と叱る。

「良いのよ。建速は来るべくしてこの場に招かれたの。」

「は、はい…。」納得いかないが、渋々引き下がる。

「ネーハ。説明してちょうだい。」

ネーハは目を丸くして総毛立ち、竦んだ。「は、はい!!」

「越久夜町の神々が貴様らを審議した。結界の破壊……他に町のバランスを崩した行い、それについて神々は罰を下すに至ったのだ。」

「勝手に何をしてくれてるんすか?」と、童子式神は憤る。

「黙れ」

錫杖をカンと地面に叩きつけると、童子式神は縛り付けられ動けなくなってしまう。

ネーハは警戒した顔つきで有屋鳥子の隣に着く。

「神々の下した罰の内容を話す。まず越久夜町のために何度もいや、何千、無限と輪廻を巡り時を捧げ、バランスを正す。次は女神の信仰を広め、再び町に威光を行き渡らせること。輪廻を巡り、悪の道に返り咲こうならば魂を滅し、二度と生き返れぬようにする。式神は祠に封じ、金輪際日の目を見ぬようにせしめる。--これはとても刑罰だ。感謝するのだ。」

「嫌と言ったら?」主は言う。

「これは強制よ。あなたに発言権はないの。」有屋鳥子がピシャリとはねのけた。

「相変わらずだな。」軽蔑を含んだ笑みを浮かべる主に

「それを私に渡しなさい。」

頭蓋骨を指さして、山の女神は言う。

「なるほど、それがお望みなのか。」頭蓋骨へ視線を向ける。

「大切な物なの。あなたの一族が隠しておきたかったほどね。」

「そーか。」ニヤッと不穏な笑みで頭蓋骨を引き寄せる。

「なら、シナリオ通りに行くとする。」

「建速っ!!」

「これが欲しいのなら、取引きをしようじゃないか?」

「………。」

「越久夜町のルールを変えろ。」

山の女神は虚ろな目で主を写す。

「ルールを変えた所で何が良くなるというの?希望あふれる未来があるとでも?それとも新しい別天地ができるとでも?無駄よ。この時空は何をしてもダメだった。」

「…まさか、何度もルールを変えたというのか?」

汗を垂らし、嫌そうに顔をしかめる。

「ええ、何遍も。あなたたち人間が何度も消えてしまうような、惨い改変もしたわ。でも、ダメだった。」

「ウソだ!!嘘言うな!!」

「私は嘘をつく元気さえなくしているの。」

「………!!」主は突然頭蓋骨を落とし、ポケットから取り出したナイフで腹を刺した。抜くと走り出してナイフを女神の心臓に突き刺した。

ナイフから穢れが広がり、苦しげに顔をクシャりと歪めた。

「いやああ!先輩っ!!」かな切り声を上げて駆け寄ろうとするも、ジェスチャーで止められる。

「あなたに、何も、してやられなかった。育児放棄されたあなたへ、変わって、」

そっと触れるとがんじがらめにねじ曲げられてきた因果のほつれを正されてしまう。主の命の灯火が薄れ、動けなくなってしまった。童子式神は慌てて庇う。

「あなたは…たしか、私のルールを壊した神ね。」後光が差し、眼光だけが浮かび上がる。敵わない力を感じ、童子式神はかたずを飲む。

「女神…。主さまに何をした!」

「何を、って元に戻してあげただけよ。彼は本当なら前の年に輪廻へ還る予定だった。あなたがねじ曲げたのよ、この人の運命を。」

「…あっしは何もしてねえ!」

「何も知ろうとしないからよ。」

「あ、あっしは、主さまを懸命に理解しようとしましたっ!」

「いいえ、何もあなたは、知ろうとしていない。言われた物事さえも、何も。式神になったのも来る終わりを知るのを放棄したから」

「ぐっ……!」血を傷口から流し、苦しむ主。

「罰を素直に受けて、輪廻でやり直しなさい。」

穢れに侵食された手てもう一度、主に触れようとする。

「主さまの魂はあっしが食う!邪魔をするな!」

ガブリと女神の手に噛みつき、抵抗する童子式神に

「……この野郎。どこまでも反抗しやがって。」

口調が素になり、童子式神を叩きつけハイヒールで踏みつけた。

「ぐっ…」

「そんなにあたしのことが気に入らねぇのか。」

「が、は…!」

「女神!それ以上は!」テレポートした寡黙が止めに入り、ハイヒールがとまる。童子式神は息も絶え絶えに起き上がる。

「…。頭に血が上ってしまったわね。」

我に返り、女神は平生に戻る。「あ………!」

膝をつき吐瀉する。「先輩!」

-ああ、あっし……。

『私の太陽。』

巫女の思いが童子式神を操り、手を伸ばさせる。

「は、るき」

意識が途切れて、まぶたが閉じる。


? 彼は本当なら前の年に輪廻へ還る予定だった。あなたがねじ曲げたのよ、この人の運命を。

あの出会った場面に戻る。

「主さま、なんなりと命令を。」

「主…さま?僕が…?」

きょとんとした瞳が童子式神を写し込む。

「友だちに、なってくれる?」

「ともだち?」

二人はさらにきょとんとする。

-主さまは純粋で、ひとりぼっちでどこか狂っていた。

『僕、君と遊びたいんだ!鬼ごっこしよう!』

バタバタと廊下を走っていく少年。『君が鬼だよっ!』

手を振って、部屋に入っていく。『主さま。式神は鬼ごっこなるものはしません。』

場面が変わり、

-主さまはやがて夜になると主は熱を出してしまうようになりました。原因は、あっしがいるから。

『免疫っていうのが弱くなっちゃったらしいんだ。ねえ、君はどこかにいかないよね?お母さんとお父さんみたいに、ほうっておかないよね?』

涙を流しながら、主は必死に言う。

『式神は主さまから離れません。』人工知能のように、無感情にいう童子式神。

『だったらよかった!朝になるまでお話しよう!』

『熱が酷くなりますよ。』

パッと顔が明るくなり、童子式神の手を握る。

再び場面が進み、

『主さま、安静にしていてください。体に障ります。』

脱走を図る主の後についていく。道路を裸足で歩きながら、主は白い息を吐いた。

『もう短いって、医者が言ってるのを聞いたんだ。あの女、オレがくたばるまで待ってやがる。』

医者と話す山の女神が思い起こされる。それを遠くで覗く主。

少年は少し成長し、小学生の高学年ほどになっていた。

『どこへ行くのですか?』

『国道だ。この町からでるんだ。』

『町から出る?どうしてですか?女中に怒られてしまいますよ。』

『アイツらは仕事が増えるからってはたいてくるから嫌い。あの女も』

『はあ』

『お前、オレから離れないんだろ。』

『ええ、式神は主から離れません。』

『ならこき使ってやるからな。』

-式神は妬み嫉みを糧に生存する。主の魂が穢れて行けば行くほど、それは確実になる。

有屋鳥子にビンタされ、引っ張られる主を遠巻きにみる。

『いたい!』

『あなたはどうして私を困らせるの?!本家に怒られるのは私なのよっ!』

『はなせよっ!!』

女中たちがそれを見てニヤニヤ笑っている。有屋鳥子はそれを知ってか、部屋に押し込んだ。

『あなたは体がとても弱いの。外に出たりしたら、どうなるか分からない。この前だって窓を開けて…高熱が出たばかりじゃない。』

肩を掴み、言い聞かせる。

『小さい頃はそうじゃなかった。』

『ええ、何かに弱らせられているようだわ。何か、悪い者に…』

ビクリと主は童子式神をチラ見する。

『怖がらせてしまったわね、謝るわ。ほら、安静にしていて。絶対に私を困らせないで』

ベッドに追いやると足早に部屋から出ていってしまう。ヒソヒソと廊下から話し声がして、主は耳を塞いだ。

『またアイツら!悪口言ってるんだ………』

『主さま、なんなりとご命令ください。わたくしが願いを叶えます。』

絶望していた主はごくりと唾を飲んだ。

『なんでも、ひどいことでも?』

『はい。』

『…なら…』

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