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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
越久夜町シリーズ
33/47

呪縛

★呪縛(寡黙と童子式神)


-あれから寡黙の姿はみなくなった。あれから、と言ってもどのくらいの時間が経ったかは定かじゃない。魔に流れている時間と人のとは異なるから。

あっしは寡黙を探す気にはなれなかった。恐怖、緊張。アイツに対する気持ちもあれど、それ以上にあの形相を見たら……あっしはあっしが思うほどに弱く、臆病なのやもしれない。

童子式神はなんとなく庭の掃除をしていた。

「はあ……あんなにしつこく口出ししてきたくせに……」

しんと静まり返った庭に、さわさわと草木のざわめきだけが響き渡る。

「こっちの気もしらねで……」

溜息をつき、童子式神は箒を動かしているとフラフラと寡黙が草藪から出てくるのを見つける。げんなりした様子に舌を巻くも、気を取り直して問うた。

「どこに行っていたんスか?!」

寡黙に詰め寄る。寡黙はただそれを見ているだけでリアクションはしない。

「訳を話してくだせえ!」

「そう……そうじゃの。話さなければならぬな……。」

虚ろな目付きで寡黙は言う。

「いづれこんな時が来ると思っておった。…幾度となく突きつけられた悪夢の一つじゃ。」

やけっぱちに口角を上げた様相にただならぬものを感じ取り、引き気味になる。

「かもく……」

「………」

「-おめぇは、式神ではないのですね。」

寡黙は黙る。それを肯定と受けとった童子式神は、

「薄々、そんな気がしていました。そしてあっしの前でしか、存在を顕にしないのも。気づくのに時間がかかりましたけれど。」

主のセリフの回想。

《「俺がいる世界とお前がいる世界は異なる。この部屋が異界との交差点なのだ。お前にとっても、俺にとっても。そいつとお前にも、きっと交差点がある。」

「………?は、はあ…。」》

「吾輩は確かに式神ではない。式神のつもりの、まやかしじゃ。」

「まやかし」

「吾輩が、既に存在している実感がないのじゃから。まやかし、と言うのもあながち間違っていないのう。」

「いえ……寡黙は、寡黙です。」

「そなたらしいな、巫女であった子よ。」

「………!」弾かれたように目を見開いた童子式神に、寡黙は

「聞かなかった事にしてほしい。」

「なぜこんな…あっしへしがみついているのですか?」

「……こちらへ」草藪を指さし、妙見菩薩の社へ向かう。草木や空間がポッカリと穴を開け、祠の場所まで道を譲ってくれる。歪んだ空間に恐れもせずに向かっていく。童子式神は寡黙について行った。

「あの祠、一体なんなんでしょう?」

「………。」答えずに足を進める。やがて二人の先には崩れかけた祠が現れ、月の光に照らされていた。

寡黙は慣れた手つきで腐り果てたお供え物を片付け始める。

「そちはコレを存じているようじゃな。」

ウサギの神使を探していた童子式神に話しかける。

「ええ。偶然見つけました。妙見菩薩が祀られているとか…?」

「……吾輩は、この祠を何百年と管理してきた。それにともない恨みや様々な感情が沸き起こり、それは吾輩を神から異なる下級の者へ成り下がらせたのじゃ。」

「おめえは神だったのですね。」

「穢れは溜まり、神性は薄れてきているが曲がりなりにも倭文神という、神じゃ。」

「倭文神…。」

「倭文織りを司る神-と、この国では言われておる。糸をつむぎ、時空を修復する。吾輩は本来そのような役割を担う神であった。」

《「またもう一柱、倭文神が祀られているのですよ。」》

ウサギの神使が言っていた言葉を思い出す。

「おめえが、この祠に祀られている神……。」

妙見菩薩の社の前で寡黙はポツリという。

「……吾輩はこの地に縛られている。…何千年も、いや、永遠に-かもしれぬ。お飾りとして、真の役割を果たせずにのう。」

「…この社に祀られている他の神も関係あるんスか?もしかしたらあっしと関係あるんじゃ-」

「…もし、そなたが全てを知った時。そなたは怒り、吾輩へ憎悪を向けるだろう。」

「それはどういう」

「過去に囚われている方がお互い楽かもしれぬ。……などとも、思うようになった。このままではこの土地で消失する。それでも、良いのかもしれぬ。」

「おめえも前に進むのが怖いのですか?」

「前に進むというよりは、変わるのが怖いのじゃ。自らが予測していた事柄に翻弄される…吾輩には耐えられぬ。」

虚ろな目をしたまま、寡黙は祠を見つめる。

「…おぬしを支配していたつもりじゃった。これは罰なのであろうな。他人を思い通りにはできぬのに」

「そ、そこまで思い詰めなくても……」

「吾輩のしたことは許されぬこと。なのに、縛られてはいたくないのじゃ。ちぐはぐであろう?」

「ま、まあ、神でなく魔なら、人間ならばごく普通の状態なのでしょうが……」

「吾輩は人間ではない。感情などに振り回される者ではなかった。覆水盆に返らず、というのじゃろう。神性は戻ってはこぬ。」

「……ええ」

「そちが自らの課された命の対象でない…とすれば、そちを縛り付ける理由はなくなった。……何が望みじゃ?吾輩を煮るなり焼くなりなんでもするがよい。」

「思い出したい。」強い意志で童子式神は言う。

「あっしが何者だったのかを、知りたい。」

「そうか……」観念した様子で寡黙は静かに口を開いた。

「神と人を結ぶ者よ。自由になるのだ。」

「自由に--」

そっと指が額に触れ、寡黙の瞳の色が揺らぐ。そのまま指が額を貫通し脳をいじった(?)。ブチブチと糸をちぎる描写。

童子式神のスイッチが切れ、ぐったりと地面にへたりこむ。寡黙は手を離し、見下ろした。

「……馬鹿な。がんじがらめにしておいて、いまさら」

泣きそうな、織女の少女の顔で呟いた。


? プツリと意識が切れた童子式神は気がつくと暗闇にいた。あのしめ縄の連なる空間で立ち尽くしていた。

「あれ…」

薄く光るしめ縄が解けて融解しかけている。あれは今置かれている状況だと悟った。

-あのしめ縄が崩れてしまえば町は終わる。

-いいじゃないか、どうなったって。それがどうしたんだ?

童子式神はしめ縄に歩み寄ると、ちぎれている光の束に触れた。

その瞬間、脳裏に神世の巫女が過ぎる。巫女と主の面影が重なり、亀裂が入り中から天津甕星の残像。目眩がして童子式神は瞬いた。

瞬きをするや男性が暗闇を歩いている。

『お互い仲は最悪だったが考えている事は一緒だった。』

-ああ、あの鬼神のモノか。

無条件に納得した。

『神世の巫女』

『神々の声を聞く空っぽな者。』

場面が変わり、女神が目の前に現れぐらりと足元が崩れ、無数の手が奈落の底に引きずり込んでくる。嫌だ、と叫び、奈落へ落ちていく童子式神。

-思い出せ。

童子式神はほどける髪を靡かせながら、奈落に落ちていく。淡いのしめ縄が張り巡らされた暗がり(虚無)の先に光があった。

-わたしは、民と神々を繋ぐ役割を担った。最初は位の低いムラの娘だった。昔から不思議と神々や精霊の声が聞けたから、祭司さまはわたしを巫女に選んでくれた。

巫女は神官に連れられ、山の女神がいる山に連れていかれる。

-この娘は、やはりあっしなのか…?

童子式神は巫女の横顔を望む。

山の女神。わたしの太陽。

逆光になっている山の女神に恐る恐る視線を合わせる。

娘や。お前は月のようだね。 山の女神が言う。

-嬉しかった。

巫女の気持ちがなだれ込み、やがて暗転する。場面は変わり、娘は女性になっていた。

武器を構えた群衆に囲まれ、巫女は神器である銃剣を握り

「あなた達はもう、神々の加護、神託を受けることはできないでしょう。人々と神々の時代は終わったのです。」

銃剣を心臓に突き刺す。

痛みが走り、童子式神は喚く。胸から血がしたたり、涙がこぼれた。巫女はがくりと前のめりになり、怨念の籠った眼で群衆を睨みつけた。

-死だ。

死が絡みつき、童子式神を引きずり下ろす。異形の手が巫女を掴む。

消えたくない。三者(巫女、天津甕星、童子式神)の言葉が重なり、童子式神は目を見開いた。

輪廻の奈落へ落ちたら、終わる。何故かそう思う。絡み合って解けていく巫女と目があい、吸い込まれそうになった童子式神は上空にあるしめ縄の幣を掴んだ。

じゅう、と皮膚がやけ顔を歪める。垂が手の形になり、グイッと引っ張られる。

「………え」

寡黙がいる。

「戻ってきたのだな。」

「あ、ああ……リアルで…くらくらして、変な感じがします。」

頭をペチペチ叩きながら顔をしかめた。

「堰き止めていた記憶が蘇ったのだから、無理はない。」

寡黙はいつものように無表情を取り繕っていう。

「ホントにアレは記憶だったんでしょうか?」しめ縄を連想する童子式神。あれは山伏式神と共に太虚で目にした物だった。山伏姿の式神の回想を交える。

「……記憶とは曖昧で、こびり付いて、面倒なものじゃ……吾輩は疲れた…眠れるのなら眠りたいぐらいじゃの」

そういうとフラリとテリトリーに消えていく。

汗を拭きながら満身創痍の寡黙を見送る。

-あいつ、もうダメかもしれねえな。

ズキズキする頭を支えながらも、その場にあった倒れた灯篭の残骸に座り込む。深呼吸をして、足元を見た。

-寡黙は…あの倭文神は間もなく神から零落してしまうのだろう。

-神が零落するのを知っている。名や神格を失うのもあるけれど、それと他にケガレを浄化できず、溜まってしまい神から魔へ零落するという事例がある。

-そこいらの魔なら良いけれど、さらに恐ろしい何かに成り果てたら……。

あっしが巫女ならば、自らが勘違いしていたかの神はどうなったのだろう?

まさか恐ろしいケガレにまみれた者になってしまったのだろうか?

童子式神は身震いする。そうこうしている内に山際から朝日が差し込み、空がしらみ始めた。

「太陽………。」童子式神は眩さに目を瞬かせ、空を仰いだ。

巫女が祭壇の石に密かに刻んでいるのが甦る。あの文字は巫女が残したのだと。

『私の太陽。私がいたことを忘れないで。』

巫女は女神に生きるのを望んでいる。

-山の女神がケガレにまみれる前に、この町が終わる前に……。

「叶わぬ夢だとしても、あっしは式神から抜け出せるだろうか。」

巫女が太陽を背に笑っている。

-巫女は生きている間にこの思いを伝えられただろうか。

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