ツインソウル
★ツインソウル←巫女と童子式神
19 神世の巫女が童子式神と接触。
魔筋を探索している巫女。朽ち果てた椅子と崩れたブロック塀、点滅する街灯。多脚の野良猫が苦しそにのたうっている。
秩序が崩壊している空間で、彼女は満足気に存在している。
パタパタと走る音がして、巫女は路地の奥から誰かがやってくるのに気づいた。キョロキョロと辺りを見回す童子式神だった。
「また……迷い込んじまった。こんなことありえねえのに。」と小さいフキダシ。
鯉がマンホールの上で死んでいるのを確認し、彼女はジッと童子式神を眺める。ニタリと化け物めいた笑みを浮かべた。
「へえ〜、わたしの残骸。そんな所に居たんだぁ。」
ギザ歯を見せながらもニタニタと笑う。
「あれじゃあ入れないやー。古びててすりきれちゃてる。それに、あの娘がいるもんね。」
巫女はルンルンと童子式神に近づいた。
「食べて一つにしてしまおう。」
黒い髪をぞわぞわとさせて、彼女は童子式神に接近した。
「こんにちわっ!」
「ぎゃっ?!」
「びっくりしないで?わたしだよ、ほら。」
童子式神は自分が見えているのに驚くと同時に彼女に既視感を覚える。記憶の中にいた、少女の姿に似ている。巫女を自らと思っていた童子式神は混乱する。
「えっ?……あの」
「あれ?アナタも壊れてるの?」
「は?壊れて……?お、おめえいきなりっ何者なんですか?あっしと、会ったことあるんスか?」
魔筋で平生としている少女に悪く気味悪さを覚える。
「うん、きっとあるんだと思うなぁ〜。私もあなたを、いえ、あなたであってあなたではない人を見たことある…気がするもん!」
「は??????」理解不能だと硬直する童子式神。
神世の巫女は首を傾げいう。「うーん、なんだろ。私たちあべこべだね。」
「あべこべ?」
ニコリとする巫女にペースを崩される童子式神。
「わたしは皐月っていうんだ。よろしくね?あなたは?」と彼女はいう。
「あっしは…強いていえば童子式神、でござい。」
「童子式神?変わった名前だね~。」
主と出会った記憶が蘇る。ショタ主と童子式神が出会う頃を思い出す。
-心做しか、主さまに似ている気がするっス。
幼げな神世の巫女の瞳と被る。彼女は小さい頃の主に似ていた。
-無邪気で、どこか狂っている…。
主さまに似ているけど気配は魔に近いッス、そんな人間存在しているのか?
「わたし、人じゃないらしいよ。人の形をしているのに、違うんだって。だから童子式神さんと同じだね。」
-あの鬼神と同じか。
「な、なんであっしが考えてるのが分かったんスか?」
「だって!わたしたち同じだもの!それにあの娘は単純だから、そんなのすーぐ分かるよっ!」
「あ、あの娘……?は、はは」
童子式神はますます訳が分からなくなる。
「人探しをしてるんだぁ。越久夜町にいると思うんだけど……もう私には何も聞こえないし、あっちも会いたくないのかも。どーじ式神さんは知ってる?」
「誰ですか?人間は分かりませんが、人ならざる者なら何名か知っておりますよ。」
「この町の最高神。」にっこりと無邪気に言う。「えっと……」
後退ろうとした童子式神に、彼女は
「怖がらなくていいよお。わたしはあなたをいじめたりしないから。だって、開口一番であなたは拒絶しなかった。やさしーねえ!」
「……。」警戒心まるだしで身を引き締める。
「へえ、そっかあ。嫌になっちゃった?ジブンは敵じゃないから、安心して!」
「なぜかっていうとね-あなたは私、私はあなたた。」
「どういうことっスか?」
「そのままだって。その髪飾り、とっても素敵。わたしにも昔同じ物があったんだけどね?取り上げられちゃったの!ワタシね、名前に月が入っているの。今は--皐月だけど、私が皐月である前も月が入っていたの!!」
「…そうなんですか………。」
ハイテンションで捲し立てる巫女に、頷くしかできない。
「じゃ、またね!人探し再開しなきゃ!」
「あ!あの、山の神を見つけておめーはどうするつもりなんですか?」
慌てて呼び止めると、巫女は天津甕星めいた笑みで
「そりゃあもう、食べてあげるんだぁ。」
「--」
童子式神は走り出した。
「あははは!またあの娘に嫌われちゃったぁ!」
20
山伏式神は震えていた。
-逃げる機会を伺ったほうがいいのかしら?さっきの様子、尋常じゃなかった。
童子式神と神世の巫女が話していたのを思い出し、腕をさする。
-逃げたとして、どうなっちゃうの?
天津甕星の姿がフラッシュバックして、さらに怖がる。
「ねえ?」
「ひっ!」声がかかり慌てて振り向く。「な、何かしら?」
巫女は山伏式神に
「この町はこんなに澱んでいるの?」かと聞く。
「あ、えっと」
「どうしたの?なにか怖いコトあった?」
「ええ、な…なんでもないわっ。でも最近はひどいわね。何か張り詰めていたものが解れてしまったみたい。」
「張り詰めていたもの…なんだか、諦めてしまったのかな?…私が覚えている「町」はこんな風ではなかった。」
大人へと一瞬、雰囲気が変わった巫女に驚くも元の幼い容姿に戻っているのを見て目を擦る。
「山の女神は何もかも諦めてしまったのかもしれないわね。」
「…そっか。」それだけ言うと、巫女は墳墓の石に座る。
「あなた、山の女神に会いたいんでしょう?」
「もう……分かんなくなっちゃった。会いたいけど、それが私の気持ちなのか違うのかすら……ねえ、しきがみさん。わたし、ムラで神々とお話していた巫女じゃないのかもしれない。」
体育座りでとつりと言う。
「えっ、そうなの?」
「うん。もしそうだったのなら、きっとその巫女が羨ましかったのかもね。」
「……?そう」訳が分からずとりあえずうなずく山伏式神。
「でも、今はしきがみさんがいるから-」
-目をそらすなよ、きちんと見ろ。お前は孤独だ。
「やめてよ…」
-おざなりに作られた墳墓。忘れられ、朽ち果てた死体をただの材料にするために掘り起こされ、呪物にされて、お前の価値はそれだけだったわけだ。
天津甕星がニヤニヤ笑っている。
「ムラのために、がんばって…祭司さまや神さまのために-」
-おいおい、神々はお前が蘇るまでなにかしてくれたか?放りっぱなしじゃねえか。ただの人間をアイツらが覚えてるわけねーだろ。
巫女は絶望に打ちひしがれる。巫女の存在は越久夜町には残っておらず、神々も忘れているとは。
「わたしって、なんだったんだろ?」
なんで、山の女神が好きだったんだろ?憎い、とても憎い。
絶望顔で泣きそうになる。ピシピシと巫女の心にヒビが入っていく。
哀れな巫女の娘。最後まで何もない空っぽな存在だった。
神々を受け入れる空虚な存在。哀れな。
俺は人間の哀れなど、理解できないがなあ。
その殻、もらってやろう。
山伏式神は俯いたままの巫女を、ジッと見つめていたが何かを言おうとする。
「あの方は」
すくっと立ち上がり、目を細める。
「女神さまは」
胸から剣が召喚され、中に浮かび上がる。光輝く剣へ手を伸ばし
「女神は私にとって恋焦がれる存在-だった。強くて、優しくて……大好きだった。」
でも、今は大嫌い。
手の内に錆びた銃剣が収まり、山伏式神は息を飲む。
「すごいわ!それ、神々の象徴じゃない!」
「分かるの?」
「わたしのなの」悪魔的な笑いをうかべる巫女に山伏式神は固唾を飲む。
「さあ、これを探していた子に渡そう?」
「渡す?!どうして?」
「あの子なら面白いことをしてくれるよ。ね?」
ニコリと病んだ目つきで笑う。




