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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
山伏姿の式神シリーズ
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山伏姿の式神

 テーマ 山伏式神と式神たちの主に対する認識、シールドを巡る童子式神と主

 《回想 寡黙が、厄介な人ならざる者にあたったな、と呟く。

「えっ、あのエセ山伏が?」

「ふむ…。そやつは山伏ではないがの。人間どもが荒れ野を開拓しなかった原因じゃ。荒れ野に巣食う暴食魔神。この土地に住まう人ならざる者らはそう呼んでいた。」

「知らなかったっス…。」2人は見つめ合い、窓枠の影が廊下にさす。そこに2人の影はない。

 夜空に半月が浮かんでいる。窓から覗く月が近づいて(ズーム)いき、現在の半月にシフトする。》

 半月とさわさわとそよぐ草原を童子式神は歩いている。

「うぎゃっ?!」

 童子式神、罠にかかる。魔のイタズラか、それとも呪術師のか…怒っていると山伏姿の式神が現れた。

「本当にいた!」

「式神?!」

 山伏姿の式神が現れ、「あなたが他人のテリトリーを荒らしてる式神ね!」

「あっしらを知ってるとは、主さまの関係者っスか。」険しい顔をしてねめつける。牙が覗き、人ならざる者の眼光がきらめいた。

「ち、違うっ!噂になっているのよ、あなたのことが!」

「噂?」

「そうよ、魔どもが言ってるのを聞いたの!」

「…。」意味深な表情をする童子式神。

 主さまの計画は、既に人ならざる者には知れ渡っている。

 《回想 主が町にはられた「防御壁」を偵察して欲しいという。それは町を囲むように貼り巡られており、人間にはおろか魔にも可視できない。式神のお前が見て行って確かめて欲しい…と言われた、が荒れ野でつまずいてしまった

「防御壁を偵察して欲しい。」

「防御壁…?なんスかそれ」

「知らないのか?」

 それはこの町……越久夜町に張り巡らされているという。おろか魔にも可視できない。

「式神のお前が見て行って確かめて欲しいんだ。」

「魔でも見れないんじゃ…わたくしも」

「何を言う!お前が教えてくれたんだぞ。」

「あっしが…?」おぼえてねえ…。

 あっしはどうやら記憶があいまいのようだ。

「しかし主さま、何故荒れ野なのですか?越久夜町を囲ってあるのなら、どこでもよろしいのでは?」

「それが…夢で見たのだ。荒れ野の先に、大掛かりな祭壇があり…その先に壁のようなモノがある。女が大勢に囲まれて、壁に祈っていた。…馬鹿らしい夢だが、お前が言っていたものだとピンと来たんだ。」

 夢…人間が見るという…「夢、ですか…」

「そうだ。一応見てきてくれないか」

 》

 これは予定外だ。一旦引き返して、また違う方向から防御壁を探りに行かなければ。

 童子式神は「すまねえ。邪魔したっす」

「あっ!ちょっと…。…」

 物言いたげに手を伸ばすが、童子式神は去っていく。


 場面は変わりテリトリー(庭)で童子式神は箒を履いていた。

 これまで荒れ野に式神がいたという話は聞いたことがない。

 未確認の式神がいるはずがいないのだ。町にいる式神の個数は把握されている。何に?とてつもない、外側にいる何かに。

 あっしは人智を超えた者に遊ばれている。この星か、ルールを握る神か。式神という存在を作った何者か。

 いつかあっしだって──。

「おう!いい朝だぜ!」

「はあ…来たな!ストーカー!」

「おいっストーカーじゃないって。あんたが暇そうにしてるからさ」

「暇ってもう3時ですよ……。あっしにはテリトリーの掃除っていう任務があるんス。」

「雑務じゃなくて?」

「あ?」

「まあ、いいじゃないか。で、なんで浮かない顔してたんだい?悩み事?」

「いや…実は荒れ野に…ハッ」慌てて口を塞ぎ、「なんでもねーよ。」

 巫女式神に山伏姿の式神が荒れ野にいることをうっかり話す。

「荒れ野に…?」

「あ、いや…言い間違えたんスよっ」ニコニコと誤魔化す童子式神に巫女式神はそれをニヤニヤと、

「気になるねえ。荒れ野に何があるんだろぉ?」

 と乗り気に。

「聞き間違えたんスね…」、と誤魔化すも巫女式神は

「素直になれよ~!カツ丼頼んでやるからさ!」

「カツ丼…?なんスかそれ?」

「知らないのかい?んで、荒れ野で何があったんだ?教えてくれ、頼む!」手を合わせ懇願する巫女式神に渋々折れて、話し始めた。

「しつけー奴っス。…荒れ野に式神がいたんです。山伏の格好をした子供の式神です。主となった人間の気配は全くしませんでした。」

「主の気配まで分かるのか?」

「は?何言ってんスか?我々式神は主の気配がわかるんです、無駄な争いを起こさないように…他には…魂を間違って奪われないように。」

「あ、そうだったな!忘れてた、へへ。」白々しく頬をかき笑う巫女式神。ジト目で疑うも巫女式神は話を進める。

「だったらさ、見に行こうぜ!その方が早いだろ!」

 二人は荒れ野に向かうことになる。

 荒れ野はあっしらが住む町、越久夜町のハズレにあり、昔から人の手は入っていない原生地帯だ。まさに人の世界から外れた人ならざる者の領地。好き好んで人は足を運ばない。※地図参照。

 川を越え、荒れ野に辿り着く。

 草むらを歩きながら2人は山伏姿の式神を探す。

「いないなぁ。」

「そんなにテリトリーは広くないみたいですね。」

「二手に別れるかい?あたしは上空、童子さんは歩き回って探してくれよ。」

「はあ…分かりました。」

 二手に別れよう、と巫女式神が提案する。草原を歩き回っていると必ずテリトリーを荒らされたと出てくるはずだと。

「しっかし歩きにくいッス。ベチャベチャしてて……」

 ぴょん、とカエルが跳ねていくのを横目に童子式神は泥濘にハマりつつ進む。

 もし夢とやらが本物なら──主さまが揶揄した町の神域は荒れ野の先にある。人が近寄らない場所を選んだのだろう。それとも神域があるから人は近づかないのか?

 神域はシールドとも呼ばれる…"普通"のシールドなら、我々魔にも…。

「また?!」

 案の定山伏式神が現れ、

「テリトリーは渡さないわっ!これは宣戦布告よ!」

 恐怖にひきつりながらも構える山伏式神に、童子式神は異変に気づく。

 何故直前まで気づかない?!「ニオい」が違う…!コイツは式神ではあるが式神ではない!ハッと気づいた時には辺りは暗闇に包まれてしまった。

「違うんスっ!」

「あなた、二度もなんの用?!」

「あっしは…ただ、おめーが何者か見に来ただけで!」

「は?だから式神よ!?」

 カラスが舞い込み、巫女式神が立ちはだかる。

「おっとあたし抜きでおっぱじめようたあ、いい度胸じゃないかい!」

「あ、あなたどうやって!」

「簡単さ!あんたのユルいテリトリーを壊すことぐらい!」

 牙を向き、化け物のような様相になった山伏式神。

「あんたら、絶対食ってやる!」

 山伏式神は牙を晒し、闇をうぞりとうねらせた。水のような霧のような、異質な闇がカエルの舌のごとく童子式神に巻き付く。

「うぎょああ!」ギャグ顔のままから娶られる。

「このっ!」巫女式神がふっと息を吐くと、それが炎になり闇を焼き払う。

「そんななよっちい攻撃聞くものですか!」

「あの闇、油分含んでないのか?!」

「これをなんだと思ってンスか?!タールじゃねーんスよ!」ギリギリと締め付けられ、苦しむ童子式神。

「んのれええ!」髪飾りが輝き、月がひとつになる。

 大きくなった髪飾りがブンッと大元の触手を断ち切った。

 消散する闇に山伏式神は一瞬驚いた。

「なによ!式神のくせにっ!」

 山伏式神がさらに闇を使い、触手を迫らせてきた。

「こっちのもんよ!」

 童子式神は髪飾りをブーメランにして、まとわりつく暗闇を断ち切る。「燃やせ!巫女式神っ!」

「えっ?!あ、ああっ!」

 巫女式神はカラス形態になると、体から炎を出現させ山伏式神に突っ込んだ。

「ぎゃああああ!」

 炎に包まれる山伏式神を2人はゼーハーしながらみまもる。

「い、いまさ……巫女式神って…」

「え、あ、ああ」

「嬉しかった。あたしゃ巫女式神だ。」


「負けたわ。煮るなり焼くなりなんなりしてちょうだい。」

「おお?いきなりしおらしくなったぜ? 」

「…おめー。主はどうしたンすか?」

「食べた。」

「え?食べたって?あんた契約満了してない感じじゃないかい?」

「我慢出来なかったのよ!悪い?」※契約満了未満で魂を食べると、式神システムから除外されてしまう。式神のような者のままそんざいすることになる。

 2人は剣幕に気圧されて、押し黙る。山伏式神はため息をついて、座り込んだ。

「だいいち我慢なんて、人ならざる者はしなくていいじゃない。そういうのは人間だけにして欲しいわ。」

「はあ、なんというか…人ならざる者らしい奴っス。」 

「それに主も誰だったかは忘れてしまったし…。」

「お、語り出したぜ。」小さいフキダシ。

「忘れるなんてヒデェ奴だ。」

「ふんっ。人間なんて皆同じようにしか見えないじゃないの。それに命令ばっかりするくせに壊れやすいんだもん。あー煩わしかった。私、式神向いてないし。」

「おいおい……よく式神やってられたな。」

「確かに人間って覚えにくいっス。でも、魂の善し悪しで…。」 ハッとして口を噤む童子式神。

「あら。」 ニヤリと笑い、頬杖をついたまま。

「そうよ、魂さえくれりゃいいのよ。」

「おっかないねえ。しかし式神とは、人間に操られた哀れで摩訶不思議な存在さ。それに自我があるのかないのかは本人すら分からない。あんたらは誰の感情で笑い、泣き、誰のエネルギーで動いているのかい?」

 巫女式神の言葉に2人は硬い表情になる。

「なによっ!あなただって式神でしょ?!」

「ふふん。式神のくせに偉そうだなって思っただけだよ。」

「はあ…ともかく、あっしは"防御壁"を見に来ただけなんス。今はここを領地にするつもりはねー。」

「防御壁?ああ…町を囲うシールドのこと?確かにあるけど、何のために?」

 童子式神は黙る。主の目的は誰にも知られてはならぬ。砂上の楼閣、まさにそうなのじゃ。寡黙の言葉が脳裏を過り、「主さまの気まぐれです。」

「そう。」

 山伏式神の頬を軟らかい夜明けが照らし、童子式神はハッとする。

「やべぇ、夜が明けるっス。早くテリトリーに帰らないと…」

「あら、もうおやすみの時間?」

 いきなりシッシッと追い払う仕草をする。

「早くおうちに戻りなさい。リセットされたくなきゃ帰ることね。」

「また来てもよろしいですか?」

「…難しいことは次に会ってからにしてちょうだい。今日はもうおしまい。この広い荒れ野で会えるかは分からないけれどね。」

 興味をなくした様子で、スーッと石に消えていく。

「消えた…」

「やな奴っス…。」

 夜が明け初め、山から光が盛れだした。童子式神は慌てて引き返す。

「モタモタしてる暇ぁないリセットされるっス!」

「リセット?」

「ああ?テリトリー外で夜が開けちまうと、式神の中の、今日の痕跡が消えちまうんです!」

「え!?飛ぶぞ!」

「あ、わ!」 ぐい、と引っ張られる


 カーテンが締め切られ暗い部屋で童子式神は頭を下げる。

「なるほど、アクシデントで今回は見つけられなかった…と。」

「はい。」

「式神も道に迷うとはな。」鼻で笑うが童子式神は平生である。

「ええ。」

「所詮夢は夢なのかもしれない…、どうする。式神?」

「探索を続けましょう。人間は時折不思議な力を発揮します。主さまの夢も、そうなのかもしれません。」

「不思議な力、か。人間如きがそんな芸当できるはずがないさ。」

 主は童子式神が何かを隠しているのを察するが、頷いただけで追求はしなかった。

「防御壁だけ確認できればいい。あとは好きにしろ。」

「ありがとうございます。」

「俺はお前を信じている。だがお前は人間に使われている身であることを忘れるな。」

 釘を刺され、双方眼力で勝負する。しばし沈黙が訪れ

「当たり前ではないですか。」

『そうよ、魂さえくれりゃいいのよ。』

『おっかないねえ。しかし式神とは、人間に操られた哀れで摩訶不思議な存在さ。それに自我があるのかないのかは本人すら分からない。あんたらは誰の感情で笑い、泣き、誰のエネルギーで動いているのかい?』

 脳裏に会話が蘇る。

 そうなのだ。あっしは主から感情とエネルすすギーを貰う、傀儡で──でも、

「…お前、最近変わったな。」

 眉をひそめ俯いている童子式神に主は片眉を上げた。

「えっ?そうですか?」

 小首を傾げ、きょとんとする式神を前に、主は自嘲気味に笑みを浮かべる。

 その仕草を理解出来ず、ますます不思議がる童子式神だった。

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