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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
越久夜町シリーズ
29/47

星守家

★星守家


主はベッドの上で目を開けて寝転がっていた。

「……有屋?来ていたのか?」

廊下を歩いていく足音に、体を起こし扉を開ける。いつもの廊下ではなく濃霧が立ち込め、異様な空気を醸し出している。

その光景に目を見張ると、霧にわずかな影を見つける。

「誰だ!」

返事はなく、影は二階へと向かっていく。主も慌てて後をつけようと、歩き出しよろけた。「くそ…」

壁に手をつきながら、必死に歩き出す。

主は自宅の階段を上る。登っていくうちに霧がたちこめ、景色が変わった。

階段の先に神域の起点がある祭壇が広がり、主は息を飲んだ。

霧に触れながら、祭壇に足を進める。

-夢で見たとおりだ。

濃霧の中、一人ぽつんと佇んでいると天津甕星のシルエットが浮かび上がった。

「なあ、また教えてくれるんだろ?」

影へ歩み寄るとフッと胡散する。天津甕星の気配はなく、主は冷や汗を垂らした。

「まさか、居なくなったのか?」

しんと静まり返った辺りに、「応えてくれよっ!」

背後から誰かが近寄ってくる。錫杖の音が響き、主は耳を塞いだ。

ハッと目を覚まし、夢だというのを悟る。体を起こし自らの手が震えているのに気づき、眉をひそめた。

「軟弱だ…。」

手を握りしめ、ため息をついた。


童子式神は体温計を机に置く。

「体調はいかがですか。昨日はよく眠れなかったそうですが……不眠なら、お医者さんに薬をさらに-」

「大丈夫だ。たまたま夢見が悪かったんだ」

「はあ。また熱を出されてしまうと、わたくしのエネルギーにも連動しますからね。」

「お前が魂をすすっているせいだろ。」

主は懐中電灯をベッドの下から取り出し、カチカチとつける。その様子に異変を察知した童子式神が顔を上げた。

「何をするのですか?」

「今から蔵を見に行く。有屋もこないだろうし。」

「…?はい。」

「お前はテリトリーで昼寝でもしていればいいさ。」

「式神は寝ません。何をするんです?」

「…勝手に着いてくりゃいいだろ。これだから式神ってのは」ため息を着くと、扉を開ける。童子式神はそれについていった。

「主さま。上着はどうなさいますか。夜風にあたると風邪をひきますよ。」

「うるさい。黙れ、これは命令だ。」

「はい。」

場面は変わり、敷地内にある蔵に向かう二人。

-主さまの家は越久夜町では大きい。昔、名主という者だったらしく-庭も広い。人ならざる者には関係ねえけど、土地持ちってヤツだ。

古びた蔵が庭の一角に建っている。

「祖父の代から放りっぱなしだから、錆びてるかもしれねえな。」

蔵の施錠を力づくで解くと、ひんやりとした空気が漂ってくる。

主は懐中電灯を手に奥に進み、埃をたてる。童子式神があとについて行き、収集された荷物を見渡す。

「星守家の当主が残してきた物だ。」

蔵に進みながら、主は言う。

「お前を召喚するための法文もあった。星守家の先祖ははるか昔からまじないや神事に携わってきたという。あっても不思議じゃない。」

「わたくしを召喚するためだけの?」きょとんとする童子式神。

「そうだ。我が家に伝わる荒御魂を式神として使役する、特別なものだ。」

「え、ちょっと待ってくださいっ。」

「……祖父なら何か知っていただろうがね。オレはよく知らねえ。」

ホコリにまみれた階段を上がると、主は棚に仕舞われた巻物や草子などに手をつける。

「そんな簡単に神域の起点へ向かう手立てがあるのでしょうか?」

「さあ。お前を召喚する法文があるんだから、あるんじゃないか?」

片っ端から本やらを手にする。そんな主を眺めながら、童子式神は床に座り込んだ。

「暇してるなら手伝ったらどうだ?」

「わたくしは人間の文字に疎いので、役に立ちません。」

「なら絵巻でも良いから探せ。」

「はい。」

立ち上がり、近くの棚にあった草子を手に取った。

場面が変わり、童子式神は巻物をしまいながら問うた。

「主さまのご先祖さまは、まじないや神事に携わるなんて何をしていたんです?」

「越久夜間村を本家の天道家と共に仕切っていたそうだ。たまに神主として行事をしていたらしい。始祖もそうだった。」

「星守家の始祖というのは、シャーマンだったのですか?」

「そのような人物だったと聞いている。本家の政治的な立ち位置とはまた違う、神事を行っていたと。」

「…主さまが夢で見たという、神域の起点で祈っていた女性は」

「始祖かもしれんな。」

壺をしまっている主は汗をふく。「はあ…疲れた。明日は寝込むに違いない。」

-不気味よ。 山伏式神の言葉がよぎる。

主さまは本当に予知夢などというのを、持ちえているんだろうか?

-星守家の始祖の生まれ変わり、などという怪奇なことがありえるとでも?輪廻など実際に見てもないのに、信じられるか…?

-はあ、今は止めよう。頭がこんがらがってきた。

童子式神は何気なく巻物を手にすると、そっと広げてみた。それを見た主が

「懐かしい物を出してきたな。」

「これですか?」

「お前と出会った時に飾ってあった掛け軸だ。これは星守家が信仰していた神の姿を現した物でね。童子姿の神が描かれているだろう?」

持ち上げると、パラりと広がっていく。

※ぼやけた感じで童子姿の神像の掛け軸を描く。

「あっしに似ているという……」

童子式神は掛け軸を見上げる。

「似てるだろ?」

「この神は?」

「星の神だと言われてはいる。確か……神仏習合で妙見菩薩、だったけな。」顎に手を当て思い出そうとする。「!」

「主さま、わたくしはその妙見菩薩なるモノを存じています。」

「あちらでは…有名な神なのか?」

「いいえ。星守家の庭に、小さな祠がありました。弱体化した神使がいて、妙見菩薩が祀られていると言っていました。」

「……庭に?それは知らなかった。」

心外そうにする主に

「その祠にはかつてムラを守っていた人間が神格化され、妙見菩薩として祀られているというのです。またもう一柱、倭文神が祀られているのだとも。」

「何故今まで黙っていたんだ?」

不機嫌になる主に童子式神は慌てて言う。

「わたくしもつい最近知ったからです。」

主はずいっと顔を近づいて、いいつける。

「今すぐ案内してくれ。」

場面がまた変わり、二人は庭にある妙見菩薩の祠を見つける。懐中電灯で照らされた祠は崩壊寸前であった。

「これが始祖を祀る…」主は眼光を鋭くしながらも、祠に触れようとする。

「主さま、後ろに壺みてーなものが埋まってますぜ。」

祠の裏に土に埋もれ固く蓋をされた壺のようなものが埋まっていた。童子式神は漬物石を持ち上げようとするも重くて持ち上げられない。

主は石の周りを手で掘ると、近くにあった石で無理やり壷を割ってしまった。

「……わ!」石を持ち上げ、近くに置くと中から『厳重管理』という古い箱を見つける。中はなんだか分からない木箱や書物が積まれていた。

咄嗟に手に取り、数冊パラパラと捲る。主は焦りともつかぬ表情を浮かべた。

「…呪術にまつわる内容ばかりだ。何故こんなものが」書物を懐中電灯で照らしつつ読む。

「じいちゃんが隠したのか?」

童子式神はその様子を見ていながら、チラリと祠をみやる。

-あの神使、どうしちまったんだろう。

姿を見せない神使を考えていると「これは神域の起点について、書いているやもしれない。」

「本当ですか?」

「山の神に会いにいく方法が書かれている。」

ー星守家の、始祖の遺物が祠に祀られてあるという。それを持ち、霊脈の合流点である越久夜間山へ入る。正面からではなく裏から行かなければならぬ。そうすれば霊門が開き、山の神が住む神世にいける。

「すげえじゃないですか、ミラクルです。」

「ああ、必然的な意志を感ずる。さあ、あの祠を開けるぞ。」

「えっ」驚いている矢先に主は祠に手をかけるも、パチリと弾かれた。「なんだってんだ!」

「マジナイが施されているようですね…。」

「それは分かっている。星守家の子孫であるこのオレがどうして開けられない?!ちくしょう!」

「あ、主さま…。」癇癪を起こした主を前に童子式神は佇む。

「あなた、そこでなにをしているの。」

「-!」建物から有屋鳥子の声がして、主はビクリと怯える。

「くそっ……!その書物やらはテリトリーに隠しておけ。あとでオレに渡すんだ。」

「星守家のご子息?もう一度言うわ、そこでなにをしているの?叱らないから、素直に言いなさい。」

「散歩だ!」

「本当に?あなた、今日は体調がすぐれないと言っていたじゃない。」

目配せされる。

「は、はい!」どしりと重たい木箱を預けられ、慌ててテリトリーへ潜入する。暗がりに包まれたテリトリーは静かでシンとしている。

「はあはあ……」

童子式神は木箱を引きずりながら、なんとか闇に引きずり込んだ。「あー…目まぐるしかったッス。」

「本当に、神域の起点に行けるんでしょうか…?」

呆れながらも袖で汗を拭い、テリトリーに佇む。※コマ割りでフェードアウト。

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