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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
越久夜町シリーズ
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ネーハと決意

★ネーハと決意


? ネーハは山の神の神社でぼんやりと月を眺めていた。膨らみ始めた月に照らされて、独り佇む。

有屋さまからきいた「昔ばなし」が本当なら、巫女は無念だろうと思う。山の女神は巫女を好いていた、きっと巫女もそうだった。

-人と神が思いを通じ合わせるなど。端から無理なのだ。

彼ら(人間)は我々と構造も寿命も違う。通じるのは"言葉"のみ。そんな異種に思いを寄せるなど、無駄な時間でしかないじゃないか。

『時間の無駄だ。神々は異種に加護を与えた。それは、神々へ寄せる聖なる思いとは裏腹に、意地悪く汚いものかもしれない。貴様はそれを丸呑みするの?』

暗い部分のネーハが、彼に囁く。蝿を払うように手で妄言をかき消し、ネーハは溜息をつき、参拝者用のベンチに座る。

「上手くいかんもんだなぁ。」

カツカツと階段を登る音がしてハッと頭をあげると、有屋鳥子がやってきた。慌ててベンチから下りると服装を正す。

「お待たせしたわね。人界の仕事が忙しくて」

「いえ。」

「状況は進展したかしら?」

「それが…申し訳ございません。まだ対象となる人間から悪神を祓っていません。」

頭を下げ、眉を下げる。有屋鳥子は彼の反省に、気にもせず髪を整えた。

「そう。…彼は悪神の残骸を召喚出来ても、隔ての法を知らなかった。魔法使いとしては致命的なミスを冒してしまったわね。なかなか離れはしないと思うわ。」

「普通はそうですよね。…有屋様はしておられませんが」

-魔群魔性の者から素性を隠さなければ、人間は魅入られケガレ、食われてしまう。

「あなたは護法童子でしょう。それに素性を知られた所で私も人ならざる者なのだし、意味なんてないのと同じでしょう?」

「はあ…」

呆れともつかない表情だったが、ネーハは気を取り直す。

「それで、対象の人間ですが……夢から侵入しようとしても、弾かれてしまいます。心を固く閉ざしているのか、あの式神の仕業なのかは判断しかねますが。」

「そう。」

有屋は月の下でそっけなく答える。

「………。有屋さま?」

「ネーハ、私は誰に怒りをぶつければ良いのか分からないわ。星守のご子息か、無気力な町の人々か、女神の時を奪ったあの女か、悪神か。皆、女神を傷つけるの。」

「はい」

「私は女神を守りたい。ネーハ、手伝ってくれるわよね?」

危うい目つきの有屋は、ネーハに縋る。

「はい」

-使役者の願いを叶えなければ、この身はまた苦しみに苛まれる。それこそ忌み嫌われた式神のように。

ネーハは流れる汗を拭い、決意を新たにする。

必ずや有屋さまのために、象徴を見つけてみせる。

「わたくしは有屋さまの味方です。」

「ありがとう。-それにしても巫女の目立った動きはないわね。ネーハ、あなたに接触してきた?」

「いえ、あれから再び墳墓に行きましたが姿はありませんでした。」

ネーハは裾をつかみながら言う。

「彼女は異なる世界にいるのかもしれないわね。人界でもなく、我々がいる異界でもない。どこかに。」

「え、ええ…。」

有屋はふいっと踵を返す。「近頃更に女神の調子が悪いの。付き添って、私が守らなきゃ。」

「はい。」


社殿に似た不思議空間で有屋鳥子が山の女神と話している。神の領域で2人は暗い顔持ち。

淀みの酷い池に鯉が腹を見せて浮かんでいる。暗い雰囲気の空間は夕焼けにそまっていた。

-まさか、あたしの主みたいにマイナスの気を持つ神なのか?

巫女式神が言った言葉をネーハは思い出す。

-山の女神はどちらかと言えば聖なる神ではなくなっている。穢れに飲まれれば…この町はカオスに………。

鯉の腹をつつき、ネーハはそれを眺めていると、背後から気配がした。咄嗟に振り返ると寡黙がいる。

「そんなに鯉が気になるか?護法童子」

"箱庭"でネーハと寡黙が対面する。「シトリガミ、お前は…。」

「よくもまあ、この場に来れたものだな?」

軽蔑を含んだ表情で言う。

「吾輩は女神と共にある。」

濁った双眸で寡黙は言った。

「嘘をつくな。あの時の言葉は忘れるものか。悪神を肯定し、ましてや女神の命令を裏切った。」

「……。ふむ。」寡黙は目を伏せる。

「吾輩は女神のはしため。それだけはゆらがない、そしてあの神を封じるためにこの町に必要とされている。それだけじゃ。」

「なるほど。あの悪神をかばったのは自利のためか。なんと浅はかな。」

立ち上がり、寡黙に詰め寄った。

「-本当にアレはそなたの言う悪神であろうか。」

遠い目をした寡黙にネーハは心外な顔をする。

「は?あれは間違いなく悪神だろう?」

「そうかえ。吾輩にはよう分からんのじゃ。」

「なんだ?独白か?女神を裏切ったのは変わりようのない事実だ。君は罰を受ける。」

「罰、か……既に受けておるわ……ふふ、そちの視点は僅かにズレておる。」

僅かに笑った寡黙にネーハは嫌悪する。

「ふざけているのか?」

「……吾輩はそろそろ戻る。有屋という者がいる間は女神に異変は怒らないだろう。」

「……。」歩き出した寡黙に何も言えずに、ネーハはそれを見送る。

-様子がおかしかったな…。何かあったのか?

疑心の目をしながら、フッとネーハは有屋鳥子がこちらの方に歩いてくるのを見やる。

女神がこちらを見ているのに気づき、ドキリとした。総毛立ち体を硬直させる。

「ネーハ、どうしたの?」

「い、いえ。女神はなんと?」

ふとネーハが視線を戻すと、女神は既にいなかった。

有屋鳥子は無表情のまま、遠くを眺める。

「なんとしてでも危険因子を潰さなければならないわ。女神の力は日に日に弱まっているのだから。」

「はい。」

-この町は確実に滅びかけている。

巫女式神の言葉を思い出す。※そのコマを使う。

「それは悪神と巫女ですか?」

「ええ…。」腕を組んで、風に吹かれる有屋鳥子。

「-そんなこと、この私にできるのかしら。」

小さく呟く。「えっ」

ネーハが目を見開いて有屋鳥子を見つめると、なんてことなかったように振る舞う。

「町の神々も、悪神を倒せと言っている。悪神こそが女神を苦しめる根源だと。」

「……有屋さまの他に、悪神を倒そうとしている神は?」

「皆自分から手を下したくないのよ。悪神が怖い、って。」

「はあ……無責任な……い、いえ、今のはなかったことに」

「……いいわよ。この町には血気盛んな神はいなくなってしまったわね。皆、長く居ると身の保身に走る。それは普通のことよ。」

-思っている以上に腐敗しているのだな…。

ネーハは顎に手を当て、うむと内心呟く。

「私を頼ってくれる、女神を決して失ってはいけない。」有屋鳥子は表情を見せずに言う。

「最高神は女神しかありえない。」

「有屋様、それは貴方の意見ではないのですか?」

ネーハは眉をひそめ問う。

「いいえ、これは町の総意よ。」

厳しい顔つきでネーハを睨みつけ、ツカツカと歩いていった。

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