人と魔の狭間
★人と魔の狭間(主と童子式神)
《「神使に勝つのは人間ができる所業じゃなかった、今まで幸運だった。ましてやお前に任せ切りだった。俺は魔法使いでもなくなった。何者でもなくなったんだ。」
「主さま…。」童子式神は慰めの言葉をかけようとするが。主は無表情のまま告げる。
「何者でもなくなった上に…人じゃなくなってきている。」
「人から外れようとしたのですか。」
2人は睨み合うように見つめ合う(描写しなくてもよし)。》
「人間が人魂を食べるなど…わたくしはどうしてよいのやら。」溜息をつき、少し俯く童子式神。
「どうもこうも」主は平生のまま言う。
「幾多の主にお仕えしてきましたが、あなたさまのような行動をしたのは初めてです。人間が魂を食べたらどうなるかお分かりですか。」童子式神は凄んだ真顔で言った。主は気にしていない素振りで、
「さあな。」
「主さま!」
「なら、つまらなかったろう。お前には人などどれも同じに見えるのだろうからな。魔に近づいた人の魂はどんな臭いがする?」
「そんなの…。」
言い淀んで童子式神は目を伏せる。
「お前も人らしくなったものだ。そんな顔をするのは、俺の魂から養分をもらっているからだろう?死神。」
「あっしは死神ではございません、式神です。」
主は寝室のカーテンの隙間から除く、月を見やる。
「鬼になろうが何になろうが、オレは知ったこっちゃない。むしろ好都合だ。」
「そうですか…。」
二人はしばし黙る。※室内を書くか、家具を書く。
「主さま…。どうか、人の道をはずれても人である事を蔑ろにしないでください。わたくしが分霊から蹴落とされたように、人から転落しては…。」
「転落じゃない、昇華だ。」
主は歯を見せつけて笑う。「……。」絶望した(?)顔つきで童子式神はそれを眺める。
-なんだこれは?…人ならざる者の魂を、あっしは食えるのか?
主さまの魂は何か異質なものを宿している。起爆剤を与えれば-確かにあっしはそう思った。けど、けどまさか
「たましいを」言う前に主が話す。※吹き出しを重ねる。
「魂を食べろと、夢のオレが言ったのだ。」
天津甕星の影。
「神域の起点の際も、あの扉の際も主さまは言い当てられました。その夢とやらは」
「予知夢なのか、それともオレがもつ能力なのかわからない。しかし夢のオレが囁くのだ。」
山伏式神の言葉を思い出す童子式神。
「まさか主さまの言う理想もそうなのですか?」
「さあ…初めから決まっていたのやも。夢にでてくる自分が望んでいたのかもしれない。」
「そお…ですか?」訳が分からず首を傾げる。「わたくしは主さまが分かりません。」
「結界やテリトリーを壊すよりも、魔のように魂を食い、人の肉体にありながら幽世に近づく。それが近道だったのだろう。」
「人が人魂を食べるなど…本来は有り得ないことです。」
主の手が人の胸を突く。魔のようなキバと顔。その幻想がよぎる。
「人をなめるなよ。執念をもてばなんだってできる」
童子式神は絶望顔で主の笑みを仰いだ。
夢に出てくる見知らぬ少女。或いはその少女になっている夢。本来そうだった様な、確信を持てる感覚。
物心ついた時から少女は夢に出てきた。素性の分からない娘は神々に祝福され、その笑みは無邪気に輝き、娘自体輝いている様だった。
自分も生まれ落ちた環境に祝福されれば良かった
とある式神どもの主である人間は思う。
しかし夢の中の少女はずっと幸せそうではない。あんなに清らかだった景色は沈み、幾つか歳をとり大人になった娘は憎しみに悶え、ある名を呼ぶ。
呪詛の様なその名を、"その人"へ会ってみたいと考えるようになった。
-山の神よ。
手を伸ばし、山の女神に触れようとする。しかし山の女神は急に現実味を帯び、主を叱る。
「何しているの?無駄なことをしないで。」
子供時代の主はぬいぐるみを手に佇む。山の女神は部屋を出ていき、一人残された。
…空っぽだ。
座り込み泣き出す主。フェードアウトしていく。
《中編》
15 主の顛末。静かな夜の日に、主は部屋で読書をしていた。童子式神はぼんやりとそれを見ている。
主はいきなり本を閉じると、ポツリという。
「外の空気を吸う。」
主はヨレつきながら廊下に出る。「無理して動くとお体に悪いですよっ」
ジロリと睥睨すると、壁に手をつきながら歩き出した。階段を上がりながら二階のベランダに向かう。
「主さま-」
「これから、物事は動くのだろうか。」
「えっ」
「…神使どもが勘違いしているとおりに、山の女神の御神体を手に入れる。」
ポツリと口にして
「この町の神々と女神は必ずこちらに会いに来る。その時が勝負だ。ルールをリセットする。」
「どのようにですか?」
「山の神にルールを変えさせる。」
「は?」あまりの言葉に固まる。童子式神は思考停止し、主はそれを眺める。
「それには……人質に価するモノが必要だ。例えるならば、神域の起点にある重要な物。」
主が手すりをなぞりながらいう。「神域の起点にある-女神の御神体ですか?」
「そうだ。山の神の御神体と引き換えに、リセットを要求する。」
「…可能でしょうか。」童子式神は冷や汗を垂らし、足元を見やる。※コマ分割。
「可能なら既に誰かがやっているさ。」歩き出した主に慌ててついていく。
《魔や人だけで「運命」を左右する楽園を作ろう。人も魔も同じ位置についていたはずの、言わば原始の頃のような楽園へ。
原始を満たしていた虚無こそが真実だと。いつだか誰かが式神システムを決めたように、自分がルールを定めれば。》
「加えて神域の起点にゆらぎやケガレをぶち込む。あの場が町の母体なら、聖なる場にケガレ-バグとなる因子をぶちこんでやろう。」
「それでは越久夜町はぐちゃぐちゃになり破綻します。」
「越久夜町は壊れて当然だ。破壊と創生。それがなければ町は再生しないのだから。」
「…。」
「ゆらぎを集めさせたのはこのためだ。」
椅子に座り、ベランダで星を眺める。童子式神は月に目を細めた。
外の空気を浴びる二人。空ではぎゃあぎゃあと夜鳥が飛んでいく。
《「お前が使われなくなった神域や、テリトリーでこれまで掃き清めてきた"ゆらぎ"も役に立つ。」
「えっ。あれがですか?!主さまは何を?」》のシーンを加工してコマに収める。
「遺棄された神域を手中に収め、利用したのも無駄じゃなかった。陣取りゲーム、という意味もあったがゆらぎを効率的に集められた。」
主は風に吹かれながら言う。
「"能無し"なりによくやっただろ。」
「………」
場面が変わり、
ベランダのガラス戸を閉めると、主は逆光で振り向く。
童子式神はそれを見遣り、虚ろな顔をする。二人は見つめ合い、しばし暗闇に沈んだ。
「主さま。睡眠薬は飲まれましたか」
「あんなもの、聴きやしない。」
「しかし…」
「なら、眠れるまで話に付き合ってくれ。」
「…分かりました。」
「さっきの続きだが…反応がないのをみるに神域を占領し、結界を壊したところで神々はすぐ修復するだろう。」
カーテンから覗く月を眺めながら、ぼんやりという。
「稲荷の神使にはやられた。領地を奪われたがテリトリーを破った意味はあったんじゃないか?神使どもの思考を固定させることができた。我々が山の女神の本体を狙っているという…あちら側が描き出したシナリオに、乗っかれたのも。」
「はい。」
「それに結界を壊した所であまり越久夜町へのダメージは少ないと判明した。幾重にも結界やらが貼られては放棄されている。魔の視点を得てそれが分かる。テリトリー、防御壁、ゆらぎ。まるで目をつぶっていたかのように、景色が違う。」
信仰を得られず消滅してしまった神の跡地。
「この町は穴あきだらけだ。」
目をつぶり、主は寝返りを打つ。それを童子式神は見守る。
「神域の起点に向かおう。」
「はい……」
静かになった部屋に童子式神は佇む。景色がフェードアウトしていく。
? 《後編》
廊下に場面が移り、月明かりの下。
「式神システムは素晴らしくもなんともねえ…式神は美しくもねえ…くそったれ、何が…」
壁を殴る童子式神。
あっしはどうしちまったんだ。こんなこといままで…。
いや、いままでは何も無かったんだ。感情も心も。
当たり前じゃないか。式神は何にもねえ。
人間みてえだ。人間になっちまったのか?
テリトリーの暗闇が徐々に廊下の奥から侵食してくる。寡黙が歩いてきたからだ。
寡黙が近づきこちらを観察しているのを横目に、テリトリーを廊下を走り出す。ループする景色と足に絡みついた布に躓き、盛大にコケる。
「いて…」
布がしゅるしゅると近寄ってくるのを前に、童子式神は再び走り出した。テリトリーの闇を振り払い、気がつけば庭におり、月が見下ろしている。
月の眩さに目をしばたたかせ、手をかざす。
童子式神が抱く野望。主に抱いている思いを明かす。
-あっしの願いは主の魂を食べ、分霊に戻ること。
いくら魂を食べても-?
首を振ると、手を戻す。月はでかでかと見下ろしている。
「越久夜町のルールを握り、再び分霊時代の栄華を取り戻したい。」
「自らを苦しめたルールを破壊したい。」
呟いて自嘲する。「これじゃあまるで主さまの願いじゃないか……」
俯いて佇む。それを寡黙が影で見ている。
「どっちがどっちだか分からねえや。」苦笑すると、童子式神はとぼとぼとテリトリーに戻る。
「何を乱心しておる。式神らしくないぞ。」
寡黙が現れ、窘める。
「…式神、らしくですか…。」
不格好な笑いをうかべ、童子式神は黄昏れる。
「この際主さまがどのようになるのか、見てみようと思います。」
《 主が人間味を失っていくのを心外に思いながらも、主の行く末を最後まで見届けようと思っている。》
「……契約を断つ、という選択肢は捨てるのか?」
「ええ。毒を食らわば皿まで、というやつです。もう引き返せませんから、行き着く所まで行くのでしょう。」
「他人事じゃのう。」
「ええ。」なげやりに言うと、ぼんやりとしめ縄を眺める。
「……そなたの自由じゃ。好きにするといい。」
「寡黙、お前は-」
隣にいたはずの寡黙が跡形もなく消えているのに呆気に取られる。「アイツ…」
テリトリーを眺めながら
-蜘蛛の巣みてえな場所だ。絡め取られて、身動きできねえ。あのしめ縄は何を封じたいんだろうか。
テリトリーの景色。しめ縄をたくさん書く。
暗闇から明転し、二人の過去の会話シーンを参考にする。
「式神というのは美しい。」
「あっしですか?何故?」
「魔の中で洗練された存在だ。そんな美しい物を他の奴らに或いは魔に壊され、奪われてはならない。お前が埃を被り、汚らしいと思うこのマジックアイテムを俺は美しいと感じる-」
主さまはおかしな人間だった。式神を美しいと豪語し、人間は醜いと卑下した。
そう仕向けたのは、あっしだったのかもしれない。
『着替えは私が持ってくるわ。あとは、たまに本でも…。…。具合良くなると良いわね。じゃあ、私は行くから。何かあったら絶対お医者さんに電話して。良いわね。』
山の女神が嘘くさい笑みを浮かべて、病室を去っていく。
主はベッドに腰掛けたまま、しばらく俯いていた。
『本家のおばさんは嘘つきだ。すぐ治るわけないのに。』
『主さま?』
『なあ、君はどこから来たんだ?』中学生になった主は寝室の窓辺から外を眺めながら、そう言った。
『何故です?それは命令にあたりますか?』
『…ああ、命令だよ。…死後の世界から来たのか?式神なんて言うけど実の所は死神だろ。こうなったのも、きっとお前のせいなんだ!』
顔を手で覆い泣き始める。
『主さまの魂は、まだ輝きを失ってはおりません。』
『魂…?』
『消える間際の魂をあっしは知っております。』
あっしらは主の魂を対価に全ての思惑を叶える。妬み、嫉み、殺意、悪意…。それが式神だ。
叶えていけばいくほど、魂は穢れていく。そして旨みを増していく。
そう仕向けたのは、あっしだ。
「主さま、薬の時間です。」
「式神よ、俺の魂はまだ輝いているか?」
このプライド高い醜悪な魂を舌で転がせばどんな味がするのだろう?
誰にもやるものか。食べるからには味を成熟させ、美味くしなければ…。
ー魔に近づいた人の魂はどんな臭いがする?
「悔しいだろうだろう。呼び出した時からお前を一泡吹かせたいと思っていた。」
「…恨まれていたのですね。」




