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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
越久夜町シリーズ
22/47

継ぎ接ぎ

★継ぎ接ぎ


境内の裏にある、地蔵の前で鬼は佇んでいた。丑三つ時の生ぬるい風がざわざわと木々をざわめかせ、月光の木漏れ日が地面にゆらめく。

修験道の板碑を眺めていた冷静が「彼の女神さまにはつかないのか?分岐だぞ。」

「私は…あくまでも中立を貫く」と焦りが交じった気色で鬼はいう。

「まあ、大きな流れには逆らえないがね。」

ニタニタといやらしい笑みを浮かべて、冷静は他人事のように言う。

「町を穢したこの私が最高神に仕えるというのか?エベルム」ギロッと怒り、やばいオーラを放つ。

「さあ?それを言っちゃおしまいだろ。」

ケロッとした様相の冷静。

「面白い。もし、私が女神と対立したらどうなる?それだけは教えて欲しいね。駄犬が。」

怒りで牙をむきだしてはいるが、静けさを粧う。

冷静は肩を竦めた。

「ゲームオーバー。」ゲーム風の演出。

「はは、なるほど。」鬼はさらに怒りを含ませながらも、口角を上げた。

(怒ってる。)と冷静にフキダシ。

「生きるか死ぬか、の分岐点に立っているというわけか。」

「どちらがいい?」

「死にたくはない。もう二度と。」

苦痛に顔をゆがめ、恐怖に怯える。

「なら流れに乗っていけよ?こぼれ落ちるな。…スペシャルヒントをくれてやろう。…山の女神とやらは多少は運命を操り、あるいは手繰り寄せる力をお持ちのようだぜ。最高神の特権か、固有の能力かは知らないけどな。」

冷静は人差し指を立てる。

「改変されてる。」黒背景にセリフのみのコマ。

鬼はわずかに固まる。「-せこいお方だ。私の道を曲げるなど」

歩き出した鬼についていく冷静。風が吹き、音をたてた。

「ツギハギで歪な線なんだ、この町は。ちぎって貼り付けて、無理やり繋げて、施工して、女神は思考を停止した。やりっぱなしさ。それじゃあ崩壊するのも当たり前だな。」

冷静は狛犬の台座に座り、あぐらをかいた。

「最高神の、権利の乱用か。」

影のある笑みを張りつけたまま鬼は、

「ならば尚更、彼の神威ある偉大な星のような神を、再び-町に崇拝の偶像を作る。安寧秩序にしなければ。」ということが明かされる。

「盾突くのか?アンタはコンティニューできんぞ?」

「…眷属を神に仕立て上げる。最高神に仕立て上げるんだ。そのためにアレを生み出した。」

危うい目つきの鬼。巫女式神を神にしたてあげようする鬼の思惑。

「荒唐無稽だな。」呆れる冷静。

「そうか?理想的だろ?」

「ふふ、理想か。叶わぬ夢が敗れる様を記録するのが俺の生きがいだ。」

「私の理想が叶わぬというのか?」

「この時空では誰の理想も叶わない。そうでなきけりゃあ存続されねえ。」

冷静は少し影のある様子で言ったが、それもつかぬ間この状況を楽しむようなニタニタガオになった。

「鬼さんよ、この天の犬を呼び出したなりに楽しませてくれよ?」

「野犬が。」

罵られるも、冷静は何の気なしにモヤへなって消えゆく。


鬼の過去。

私ははるか遠い国からやってきた。今ならば飛行機とやらでひとっ飛びだが……。私にはとても長旅に思えた。自分が人間であった頃の記憶は定かではない、ただ異国に様々な知識を教えた。私には異国の神が姿形や声音が「見えた」。自然と神々の神意を民に伝え、認め敬われられるようになった。

私は直ぐにあの輝きに惹かれた。

私は眩いばかりに神威あるその神を崇め、盲信した。畏怖…盲信…それだけがひどく突き刺さって抜けない、今もそうだ。

かの神を信仰すればムラは安寧は守られると。

-もう、居ないのに?

「………チッ」舌打ちして神鏡の前に佇む。

鬼の禍々しさが鏡を澱ませる。

-眷属が星の神のようになると思っている?なぜ?どうして?

バキッと鏡が割れ、下に落ちる。鬼はそれを眺めると、踵を返した。

「己が彷徨える民であるのは今も変わらないのか…」

-あの星がないと海を渡れぬように、あのお方がいないと私はただ彷徨うばかり。なんと愚かな。

本殿から出ると、風が吹いてくる。

死だ。死の気配がする。

鬼は体をさする。死は嫌いだ、何度繰り返そうも慣れはしないだろう。(※巫女の輪廻の感覚を代弁する?)

越久夜町は死臭が充満している。

台座に座ると月を眺める。 あの娘は死を覆すのだろうか?

死も、何もかも覆すだろうか?

-期待ばかりして何もしないの?あなたは、それでいいの?

巫女の残影が鬼に問う。

「分からない。期待することが、私そのものだった。」

残影は消え失せ、鬼は月から目をそらす。逸らした先に天の犬がいる。

-この世界は、もうすぐ消えるのさ。幾多に及ぶパラレルワールドでも、お前のいる世界は消える。どうしたい?

「死にたくない……。この世界を存続させる。」

-んじゃあ、やってみな。そんな大役、あんたにはできるかな?

「これは劇ではない。私たちは紛れもなく生きているのだ。」

「………。」現実に戻ると、鬼は月を仰ぐ。

偉大な星よ、私は戻ってきた。暗い無の空間から。-感じたんだ。

あのお方の目覚めを。

いつ会えるだろう-

「神威ある偉大な星……。」

「異国の巫覡。久しぶりね。」

境内に入ってきた山の女神に、鬼は余裕を取り繕う。

無表情で生気のない山の女神。鬼が不遜な態度をとっても、気にせず立っている。

-分岐点。 天の犬の残影が囁く。

「別に-今は巫覡ではないよ。山の神よ、お久しぶりです。」

恭しい動作でこうべを垂れる鬼に山の女神は無表情を突き通す。

「あなたさまが直に訪れるとなると、時は近いのでしょうな。」

「…神威ある偉大な星が目覚めた、と?」

無表情な顔が僅かに曇る。

「あるいは神世の神々の声を聞いたという-女性が目を覚ました、とかね。」

「……。巫覡の者。あなたに話があってわざわざこの場に来たの。」

「ほう。何でしょうか?」

スカした態度の鬼に、女神は未だに気にもせずに続ける。

「あなた、神と魔が混在した…鬼神になったようね。人間であった際…一度目にしたぐらいだったけど、おはよう。目覚めはどうかしら?」

「ええ、とても冴えてましてね。あなたさまこそ見ない内にずいぶんと老けましたね。女性に言うのは失礼だとは思うが、神が歳をとるなんてねえ。私は反対に若返ってしまったけれど」

「それはあなたが神として祀り上げられたからよ。」

「ふむ。」

「神であるのは否定しないのね。」

「で?本題はなんです?」

「-お前を次期最高神として、私は認知する。」素を垣間見せる。

「…。」

「あなたには最高神になれる素質がある。」

「私が?笑かしてくれるじゃないか。」鬼は笑いをこらえて、方を揺らす。山の女神は無感情にそれを眺めている。

「第一異国の巫覡が最高神になった所で、あなたさまのように真っ当な世界を設定するとは限らないでしょうに。思い出してください。あの悪神の巫覡だったのですよ?」

「ええ」否定はしない山の女神。

「越久夜町のためなのよ。」

「いやはや、この町は…ゆらぎもひどい。まるで腐敗した沼にいるようだ。」大袈裟に言ってのける鬼。

「私に最高神の座を継承せんとするほどに、力が弱っておられるのでしょう。」

「……黙りなさい。羊なる者。」

「巫女に現を抜かすから-」

胸に槍がささり、鬼は目を見開く。「それ以上ふざけた態度をとるのなら、お前を滅するわよ。」

槍に貫かれた鬼は薄ら笑いをうかべる。

「へええ?おもしろいなあ、女神様がそんな風にお怒りになるとは。あの巫女が好きだったんだなぁ。」

何も言わずに山の女神はカツカツと近づいてくる。

そして

「私はそんじょそこらの魔をマイナスからプラスへ転化させるなど容易だ。お前の魂をいじるぐらい-」

指で握りつぶす仕草をすると鬼は後ずさり、怯える。

「……く……」痛みに歯を食いしばる鬼。

「苦しむなら今すぐあなたから魔性を取り除いてあげるわ。」

「ふっ、ちっぽけな鬼神のアイデンティティを壊す気かい…?」苦しみながら無理やり槍を抜こうと力を込める。

「…アイデンティティも何も、鬼神になったのはあなた自身が望んだものでは無いでしょ。」

「言っていればいいさ。…私が最高神になるつもりはない、従神共々お引き取り願う。」

「嫌だわ、と言ったらどうする?」女神が無表情で言う。

「こうする。」黒い雲(穢れ)を出し、女神の周りに充満する。女神はそれを触れようとして、手が黒ずみ出した。

「………。あら」

-噂通り弱っているな…。苦笑にも似た笑みを浮かべ、雲を何かしようとしたその時、女神が強い眼光で言う。

「最高神の権限を行使する。妾の隷属となれ。」

槍が光を発し、鬼の瞳に椿の紋章が浮かぶ。「っ!この-!」

ガクリと膝を着くと頭を抱える。ドロドロと口や目から血を垂らし、鬼は笑ってみせる。

「眷属化とは随分野蛮な……はは!腐った女帝め!」

「あなたが分岐を伺っているのは、俯瞰する眼を持つ私が一番知っているわ。あなたの周りを子犬がくっつき回っているのも。」

「隷属したとしても、私はお前に逆らい続けるからな!」

「最高神になれば呪縛は解かれるのだから、大人しく従いなさい。」

鬼を見下ろす。

「クソアマがっ!」

「地球の傀儡風情が恥を知りなさい。」

「お前もそうだろう。地球の監視員。」這いつくばりながら睨みつける。

「……また来るわ。拒否権はないのだから、じっくり考えるといい。」

カツカツと足音が遠ざかっていくのを尻目に、這いつくばりながら台座に近づく。「ハァハァ…」

「いてえな…」

胸をさすり、台にもたれ掛かる。

「あの女、狂ってやがる…!」

汗がダラダラと皮膚をつたい、鬼は極限の中自我を保とうとする。すると台座の上にいつの間にか冷静が腰掛け、ニヤニヤと笑っている。

「おめでとう。死を回避したじゃないか?」

「……。」ねめ付けられておっかながる冷静。

「死ぬのは嫌だ、と散々ほざいて居たくせになぁ。」

「黙れ…こんなの、望んでいない…!」

「ハハ、子犬ちゃんだってよ〜。言ってくれるじゃあないか。あのおばさんは」

「私を助けろ!喉を掻っ切ってくれ!」

「助ける?何故だ?分岐は無事破滅から再生に起きかわった。これこそ望ましい結末に近づいている。」

「お前は、時空を存続させることしか頭にないのか…」

呟いて体を脱力させる。静かな境内に風が吹き、狛犬のいない台座に冷静が座って、ニヤニヤと笑っていた。

「当たり前だろ?そのためにこんな辺境にやって来たんだ。」

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