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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
越久夜町シリーズ
20/47

越久夜間山

★越久夜間山


-拒絶された。俺はあの神に、ムラに、全てに拒絶された。

ひでえよ。身が引き裂かれるようだった。内蔵も皮膚も、魂も引き裂かれてズタズタにされたようだった。

俺は壊れちまったんだァ。そんときに、いやぁ、もっと前からか。わからねえなぁ。

二度も魂を惨殺されて、苦しかったぜ。

なあ、お前も拒絶するのか?-神世の巫女さん?

鋭い牙が覗く口が巫女の耳に囁く。不快そうに彼女は顔をクシャりと歪めた。

「皐月?」

巫女はハッと山伏式神の声に気づく。薄気味悪い笑みを貼り付け、首を傾げる。「なあに?」

「あ、あなたよね?」

「わたしは皐月。それだけだよ。」

た、たまに化け物みたいになるじゃない……、と山伏式神は小さくつぶやく。

「わたしね、壊れてるんだあ。だからかも。」

「壊れてる?」

「魂が、ぐちゃぐちゃになっちゃったの。皆に踏みにじられて、何度も輪廻に回ったからね。」

「そ、そう。……本当に探すの?山の女神を。」

二人は路地を歩きながら、話す。「山の女神は滅多なことがないと姿を表さないというわ。他は神域の起点に出向く時ぐらいかしら?」

「ああ、あそこね。数回しか行ったことないなぁ。」

-この子、食えそうにないわね。どうしようかしら?山の女神の境内に入れたらまた話は変わるわね。

「あの方に会いに行こう!喜んでくださるわ!」

いきなり走り出した巫女に山伏式神は戸惑う。「ま、待って!喜ぶって、何言ってっ!」

「はやくはやくー!」

こっちに手を振る巫女。

「待ってってばっ!」

山伏式神は走っていく少女を追って、パタパタと路地を走っていった。電信柱が傾き、路地のブロックが倒れている。崩壊している世界に山伏式神気づかない。


越久夜間山の裾野まで来た二人は会話をしていた。

「-あの方はね。名前もなくて生まれも悪かった、わたしに名前をくれた人なの。」

「なんて名前?」

「それが分からなくて。」しょんぼりする。

「名前なんてあまり必要ないわ。個体を判別するラベリングみたいなものよ。」

「ちがうもん!私をあの方の特別にしてくれたのっ!」

「なら、あなたはなんて言うの?」

「分からない……。」ムッとむくれる。「わたし、本当にわたしが思ってる自分なのかなあ。」

「そんなの、私もハッキリ断言できないわ。」

山伏式神は困り、アッと声をあげた。目の前にシルエットを表した山を指さす。

「ほら、ついたわよ。越久夜間山。」

「……うわあ、久しぶりだなあ。ワクワクする!」

ニコニコな巫女を横に呆れる山伏式神。

-魔が入れる訳ないじゃない。まあ、お望みどおりに連れて行ってあげるしかないわね。

「大鳥居まで行きましょ。」

ニコッと猫を被った笑みを浮かべ案内をかってでる。

「うん。」山伏式神の後をパタパタとついていく巫女。

-怒り狂って暴れたりしないといいけど……。

山伏式神は内心冷や汗を垂らすも、おくびにも出さずに歩いていった。

場面が変わり、二人は大鳥居の前まで来た。

「ここよ。夏祭りになると賑わうけど、今はひなびてて暗いわね。」

「ねえ、本当にあの方の場所なの?なんだか暗ったるく感じるよ。」

「え?山の女神と言ったらこの神社しかないのだけれど?」

「う〜ん。わたしが生きてきた時はもっと輝いてたのにな。」首を傾げる巫女。

「なら、帰りましょう?大体私たちは-」

「-!」言っているそばから弾かれしりもちを着く。山伏式神は鳥居のシールドをペチペチ叩いた。

「やっぱり」

-でもあの弾かれ方。相当、拒まれているわね。

山伏式神は巫女に寄り添い、涙を拭う巫女に

「大丈夫よ。私だって入れないんだから、それに越久夜町の最高神である山の女神よ?セキュリティがきちんとしていなかったら名が廃れるわよ。」

「……うん。ごめんなさい。」

「ごめんなさい?」

「わたしなんかが来ちゃってごめんなさい……嫌わないで……女神さま……」

涙を流す巫女に山伏式神は戸惑う。

「嫌うも何も、なんで謝るのよ。女神はあなたのこと、嫌うとか」

「いやなのっ!あの方には嫌われたくないっ!」

わんわん泣きじゃくり、手に負えない巫女に山伏式神は困り果てる。

「無理やり"契約"を結ばれたからには逃げられないし、食べられないし……こんなつもりじゃ」

心の中で後悔する山伏式神。

ーこの子。一体どっちが本当なのかしら?

泣いている巫女を見つめ、天津甕星を重ねる。

-気配的には人らしくはないのだけれど。禍々しい、なんだろう…魔物よりは強い、者よね。

-墳墓にいたのだから、やっぱりムラを支えた女性なの?

その女性って人?まさか化け物?!

「しきがみさん。わたしから離れないでね」

「えっ、ええ」

「独りは怖いの…もう、皆から除け者にされたくないの…」

寄りかかられびくつく。山伏式神はギョッとしたまま、

「わ、分かったわ…。」

-だって食われたくないもの!

フェードアウト。


巫女は墳墓の上でぼんやりしていた。満ち始めた月を背に、彼女の表情は沈んでいた。

-わたしは、今まで眠っていたのかな?

神々の声を聞いていた巫女と思い込んでいる、ただの魔なのかな?

ならなんで石のお墓まで作ってもらってるんだろう?わたしは、ムラに排除されたはず………。

オカシイ。自分って--

-偽物。

巫女は天津甕星の声に不快感を露わにする。

わたしは……なんて名前だったの?あのお方との大切な会話は?なんで覚えていないんだろう?

-何故大切な名を忘れてしまったかって?おめえが偽物だからだ。この目が知ってるおめえはもう少し賢そうな、成熟した女だったような気がするがね?

偽物?わたしが?ならどうして、わたしがわたしであると確信できるの?記憶があるの?おかしいよ。

天津甕星はふうむ、とニヤつく。

-記憶などいくらでも偽装できるぜ?例えば-この俺がまつろわぬ神であるという記憶も、全てな。確かな実証はねえのさ。誰も。

なら…わたしは、やっぱり死んでしまった?

-そうさぁ。オリジナルはもう死に絶えてる、俺もおめえも。跡形もなく朽ち果て-既にこの世に存在しない。

巫女は目を見開く。月と重なり、影だけになる。

………でもこの気持ちは本物。あの方に会いたいっ!

-合えばいい。拒絶され、罵られる覚悟があるのならな。

いやっ!耳を塞ぎ、そっと肩に手が置かれる。

「早く諦めまえちまえや。俺が食ってやるよ。」耳打ちされ、巫女は手を振り払おうとすると、天津甕星がいないのに気づく。

「はあはあ……いや、いやだ!」息を切らしながら墳墓の石を持ち上げ、投げつける。

「わたしは死んでいない!こんなものっ!こんなもの!」

山伏式神はそれを遠くから長め、あとづさる。

「壊れてる。」

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