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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
越久夜町シリーズ
19/47

越久夜町の神話

 ★越久夜町の神話


 13

 場面は変わり、廃屋の外にいる二人。有屋鳥子の姿はなく、二人は寂れた廃材に腰掛けていた。

「護法童子って以外に普通なんだな。もっと恐ろしい姿してると思ってた。」

 巫女式神が足をぶらぶらさせながら言う。

「悪疫を退散するために、護法童子は色々な形をとるからね。まあ、有屋さまがこの姿に定めたんだ。君だって鬼神が決めたんだろ?」

「まあ」

 ネーハがポツリという。

「…越久夜町の、山の女神は知っているかい?」

「ああ、一応。町の最高神だろ?知らないとやべーよ。非"町"民だ。」

「それだけじゃあないんだ。女神はとても頼りになる、強い神さまなんだよ。」

 言い聞かせるようにネーハは言う。

  太古の越久夜町にはどんな者より一際輝く偉大な女神がいた。その神は森羅万象を生み出し、町の神々や人ならざる者、虫や四足二足の獣を支配し、眷属とした。女神は越久夜間山を神奈備とした。最高神として神々や獣たちからも信頼されていた。

「越久夜間山にいるんだっけ?でっかい神社だよな~」

 ああ、そうだ。夏祭りやお正月には町の人々は必ず訪れる場所らしいね。

 信頼されている最高神にただ一柱、従わない神がいた。外界から遣わされた者だった。

 夕闇にことさら輝く明星の神とも天の動かぬ七つ星の神とも言われた。

 いわゆる、山の女神側から見たら悪神だ。神々は悪神といえど除け者にはしなかった、できなかったんだ。あまりにも強い力を持つその神に、対処ができない。宙からやってきた眩いばかりの神は、やがてその神威で人々を惑わしだした。

「ああ、あたしの主が崇拝していたって神さまか!」

 巫女式神は胸を張る。それに対し、ネーハは複雑な気分になった。

「君にとっては気分を害する話かもしれないね。」

 神々は恐怖した。かの神はあまりにも眩しすぎた。

 山の女神と悪神。必然的に双方はぶつかり合い、生命は戦き、草木は枯れ大地は穢れ、従わぬ神は破れた。神々と獣たちは偉大な女神にひれ伏した。

 女神は穢れた大地を清め、再び町を再生させた。

 これは越久夜町の神話だ。知っていたかい?

「あたしの主はその神の言葉を伝える大事な役割をしていたから、途中までは知っているよ。-それでその話と捜し物はどんな関係が?」巫女式神はネーハに問うた。

「敗れた悪神の象徴を探すんだ。」

「何のために?」

 ネーハは答えず神妙な顔もちでいたが、やがて口を開く。「君が住んでいる町のためだ。」

「越久夜町のため?」

「このままでは再び町の均衡が崩れてしまう。この景色も君もルールが崩壊し産まれるカオスによって、存在できなくなる。」

「ほうっておいても壊れるのに?」

「……どっちの味方なんだ?」

「あたしはどちらにもつかないよ。あたしはまだ何者でもないからね。」

「は?」

 ネーハは眉をひそめ、巫女式神はニカッと笑った。「こっちの話だよん。」

「…はあ。いずれこちら側につくことになる。道を外れないように気をつけるんだな。」

「もしかしてお姉さん、山の神の味方?」二人の間に隙間があるのを演出する。

「ああ、そうさ。」堪忍したようにネーハは肯定する。「山の女神の味方についている者に使役されている。」

「異国の巫覡の眷属がどのようなものか、確かめに来たのもあるんだ。」

「象徴、見つかるといいな。」

 巫女式神は白々しい様相で突き放す。

「……。そうだな。」

「おい。」どこかへ行こうとしたネーハに、巫女式神は声をかける。振り向き怪訝な顔をするネーハに。

「ソレを見つけたら、あんたはどうするつもりだい?」

「私は--使役者の望み通りに越久夜町の"歪み"を正す。」

 ハッキリとした口調で顔を見せぬよう言い放った。

「それって、お前さんのしたいことじゃないんじゃあないかい?」

 僅かに振り向き、ネーハは淡々と言う。

「呪縛のない君と我々は違うんだ。使役者の命令は絶対であり、使役魔である者共ではどうしようもないのだよ。」

「そーか。ひどい質問をしちまったや。謝るよ。」

 申し訳ないと手で謝るジェスチャーをする巫女式神に

「君は人間的だ。その特性を活かせるといいな……。」

 ネーハはモヤになり消える。「人間、か。」

 巫女式神はそれを見送ると、カラスになり空へ飛んで行った。

 

 14

 寡黙の足がアスファルトを踏む。夜空に浮かんだ月が月明かりで鈴を照らすも、寡黙には影がない。

 仏頂面で視線の先には鳥居。神域が貼られ、その先には行けなくなっていた。

 寡黙は足を進める。

 雲の多い夜空のシーン。鳥居に貼られた神域の一部を書き換え、寡黙は境内に入り込む。

「倭文神……いや、今は名もなき式神か。何の用かな?」

 社殿の扉から黒い雲が湧き出し、やがてモクモクと鬼の形を作る。参道の真ん中に立ちはだかり、ニヤついているが敵意を含んだ表情で、寡黙を見つめた。

「…そちに用がある。」

「ほう。蚊帳の外にいる私にかね。」

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