金烏の未知数
★金烏の未知数←巫女式神の可能性への企み
11
-巫覡よ。この時空は脆く、終わりを迎えようとしている。
天の犬が暗がりでいう。浮かび上がったその姿は獰猛な巨犬だった。
-どうしたい?
鬼は佇んで立ちはだかる天の犬を見やる。
-私は巫覡。異国からきた巫覡と呼ばれた。
「私は……」
口を開き、場面が暗転する。次のコマでは〈山伏式神と鬼〉で描いたやつを貼り付ける。
"私"は全くの他人でね。彼女と同様に民に尽くしたり、文化が発展していくのに喜びを感じた。間抜けなほど未来と人を信頼していたんだ。
ノイズ。巫女式神が冷たい瞳をして佇んでいる。
……。
ほんとうはみらいをしんじたい。たにんをしんじたい、ふたたびあのかみにあえたら。
まぬけでばかな、わたしよ。
未来が途絶えたあたしよ。未来を信じよう。他人を信じよう。会えるさー絶対に。
手を差し伸べてきた巫女式神に、鬼は。
私はもう、あの日の私じゃない。堕ちた魂は二度と昇れない。
月を見上げ、目を閉じる。
「私の偉大な星よ…あなたは今の私を笑いますか。」
「あたしの主!」
巫女式神の声に鬼は目を開ける。
巫女式神はボロボロになった木の塊を境内の裏で見つける(鬼が御神体をかじっているのをスピンオフのヒロミ達が見る)。穢れに塗れており、どんよりとしたオーラが漏れていた。
「うわっ。なんかの木彫りかな〜?」
無惨にバラバラにされた木像。木の棒を持ってきて、つんつんとつつき始めた。
「誰かが置いていったのか?呪われてら」
つついていると鬼が背後に立っていた。
「わざわざ隠しておいたのに見つけよって。」
「隠しておいた?」
「それを天の犬に食わせようとしていたのだ。」と言う。
「奴はなんでも平らげる。毒だろうが、月だろうが。この世にある物は全てな。悪食の犬だ。」
冷静が現れて、「お呼びか?」
「ああ、ソレを食べてくれ。」 こくりと頷き、冷静は食べ始める。巫女式神はそれを薄気味悪そうに眺めて、
「結局これはなんなんだい?」
「あれかい?象徴だ。依り代ともいうし、御神体ともいう。あれ無しでは神は降りて来れないのだよ。」
「じゃあ主、あんたどうするんだよ?!コイツ食べちまったぞ!」
慌てて冷静から取り上げようとする。
「ふふ。これは私のでは無くてね。私はこの地にキツく縛られているから早々に消えたりはしないさ。」
「そう。ならいいけど…もしかして元いた神の。」
「そうだ。」
なんてことも無いように鬼は言う。巫女式神は首を傾げた。
「それって良いことなのかな?」
「さあ?私はこれまでお前に善悪を教えたことがあるかい?」
鳥居に座り神社に向かって話す場面を使い回す。
「いいや、あたしには善し悪しは分からないけど末恐ろしいとは思う。」
「ほう、人ならざる者のお前がねえ。」
鬼は目を細め、興味深そうに言う。
「そう感じるのは私が人間であった名残なのかもしれないな。式神は主の意志を反射した存在だ。とくに私に作られたお前はね。」
「そうかなあ?自覚はないけど」
「神格を得たいか?」
うん、と巫女式神は答える。
「ほら、私はどこかでルールを破ろうとしている。あの主のように。童子式神も結局は主の目的と野望を反射してるだけなのさ。」
「なんか嫌だな、それ。童子式神にも意思はあると思うぜ。」
むつれる巫女式神に鬼は微笑む。
「式神には自我がないらしいね。主から感情の雛形をもらい、思考していると思っている。お前はどうだ?」
「ええ〜っ分かるはずないよっ!」
「ふふ。そうか、私も分からない。もしかしたら、お前の中に私の欠片があるのかもしれないな。」
「…そっか、童子さんにも主が会いたがっている人の欠片があるといいな。」
「………。」意表を付かれ、鬼は無表情になる。
「なあ、なんで巫女さんの姿にしたんだ?」
巫女式神の問いに、鬼は再び元に戻る。しばらくして
「私という神に仕える者だからだ。」
「それじゃあ、あたしゃ使わしめじゃないか。式神だろ?」※伏線。
「そうさ。お前は生まれてはならない式神だ。可能性がありすぎる。そんじょそこらの魔にも神威ある偉大な神になれさえする。」
「じゃあ今はそんじょそこらの式神、か!」
「ああ、そこら辺にいる式神と何ら変わりはないと思うよ。そうじゃないとお前は童子式神と出会えなかった。」
鬼は指を顎に添えると、ふむと納得する。
「童子式神の可能性か…。彼の可能性は意外にも、予測可能だったかもしれない。私は買いかぶりすぎたのかな。」
巫女式神はその言葉に反応する。
「童子式神はフツーだったのかい?」
「まあ……普通とは、歪なものだよ。もしかしたら童子式神は"普通"の式神かもしれない。それは彼を深く観察しないと、まだ断定できないがね。」
「主も見誤るんだな。」
「そりゃあそうさ!ヒトだからねえ!」ケラケラと笑う鬼に、巫女式神は目を丸くする(ただの表現)。
「童子式神があのお方になるのを私が望んでいるんだ。」
巫女式神はにかっと笑う。
「うん!じゃなくちゃ困る!競争するって約束したから!」
12
没 (天から使わされた神々には拠り所となる御神体(象徴)がある。それをもう一度童子式神に持たせたらどうなるだろう?)
-時空が壊れる?なぜだ?
形の崩れている鬼が天の犬に問うた。天の犬は獣人姿で足を組む。
-改変による無茶が祟ってね。何度も言うが、俯瞰視すれば一目瞭然だ。
-どうすれば良い?なぜ私にそれを?
場面が変わり、鬼はなにかを考えている。
「なあ、主-」
「アイツは生憎お取り込み中だ。暇なら町を散策でもしてきたらどうだ?」
背後から冷静に声をかけられ、わずかにビクリとする。「いきなり声かけるのはやめてくれよ」と小さいフキダシ。
「ええ〜?なーんも目新しいモンないじゃないか〜。」
乗り気じゃない巫女式神に冷静は意味ありげな笑みを浮かべる。
「きっと忘れられない出会いがあるぞ?」
「それは助言?」
「多分なぁ。」スカした態度の冷静にうんざりするも、
「嫌な予感しかしないぜ。」
「これも社会勉強さ。さ、行ってきな。」
渋々巫女式神は町を烏姿で徘徊する。するとネーハが巫女式神に接近する。
「うわっデカっ!」
金翅鳥形態のネーハに驚くも冷静の言葉を思い出し、余裕を装った。
「あんた護法童子?そういう種族がいるのは話では聞いたけど、実際にいるとはね。」
「君も希少な存在だろう?神使でもなく式神でもない者。」
「見方によるよ。」
ネーハが自身は敵ではないという。怪しく思いながらも話にのってやると。
「私とある象徴を探さないか?」
「象徴?依代のこと?」
「ああ、越久夜町のためなんだ。急いでいてね、それで君にあって欲しいヒトがいる。」
「ほお。あたしに会いたい人なんているんだねえ。」
面白がる巫女式神に構わず、ネーハは詰め寄る。 「私についてきてくれ。」
「ん〜いいぜ。」二つ返事(?)でバサバサと飛んでいくネーハについて行く。
場面は変わり、二人は町外れの廃屋に向かう。
「初めて見る場所だ。」
「私の使役者が隠しているから、普段は見つけられないよ。」
巫女式神は周りを見回しながらドアを開けてもらい、入る。
「あんたの主は魔法使いなの?」
「そんなものさ。そろそろ使役者が来るから待っていてくれないかい?」
廃屋の一室に通され、ソファに座らせられる。元は事務所だったのか、簡素な部屋にデスクやらがあるだけだった。
巫女式神は興味津々に部屋を見回していると、部屋に誰かが入ってくる。
「来ましたか。」ネーハが立ち上がり、歩み寄る。
「あなたが怨霊の眷属。」
有屋鳥子が立ちはだかり、固まる。巫女式神はこの者が人間出ないと確信し、ざわりと毛を逆立てた。
「敵ではないわ。私は有屋、ネーハの使役者よ。」
「…護法童子の」
「ええ。あなたに用があるの。それと、お願いが。」
ネーハは錫杖を手に着きそう。二人に見つめられ(逆光)汗がたれるが、虚勢をはる。
「私たちは悪神が何かを企てる前に阻止したいのよ。それには先ほどネーハが言っていたように、象徴が必要。あなたにも手伝って欲しい。」
「悪神って、童子式神?」
「ええ、あれは残骸でしょうけれど。危険因子には変わりないわ。」
「童子さんは危険じゃないやい。」
「あの式神の存在自体は危険じゃないわね。ただ主をたぶらかして越久夜町を破壊させている。」
「ああ…否定はできないけれどね。」
苦笑をしながら座り直す。
「越久夜町は何千年も山の女神によって平和を保ってきたの。その平和を崩してはいけない、加えて女神が最高神でなくてはならない。私はそれを第一に考えている。すでにバランスが崩れ始めているのはもちろん、ゆらぎがひどいのは知っているでしょ。」
「ああ、モクモクしてる。」
「ゆらぎがひどくなりバランスが不安定になると決まって有象無象が出現する。おのおのの想像の暗黒面が奇妙な生物を創造するの。負の感情が、穢れを押し付けられたヤツらが、肥大化していく-これは越久夜町にとって良くない兆候。悪神の残骸が町のバランスを崩すのならば容赦はしないわ。」
「童子さんに手を出すな、とは言わせないってことか。」
「ええ。」有屋鳥子は平然と言ってのける。
「アリヤさんとはあんまり話が合わなそうだ。」
巫女式神は歪んだ笑みを浮かべる。
「……。あなたに合わせたい方がいるの。」
「…勧誘じゃないよな?」
「まさか。合わせたいというのは-かの最高神、山の女神よ。」
「へえ、そりゃあ大層なこった。あたしを最高神に合わせて何をしたいのかねえ?」
「山の女神はあなたと話したがってる。最高神に適合する、可能性があるあなたに。」
「なるほど。困ったもんだ。」
巫女式神はうーむ、と考え込む。「考えさせてくれよ。色々と舞い込んできて、考えがまとまらない。」
待ったをかけ、さらに困り果てる仕草をする。
「いいわよ。けれど時間はあまりないわ。早めに決めてちょうだい。」
「うん。」
「じゃあ、ネーハ。あとは頼む。……私は女神に会いに行ってくるから。」
いそいそと退出する有屋鳥子に、ネーハは敬礼する。
「そういうことだ。」
去っていくのを確認すると、ネーハは少し気を緩めた。
「あのクソ犬……」冷静のちゃっかりした姿が浮かび、巫女式神はソファに座り込んだ。
「とんでもないビッグなスカウトだと思うけれどね?巫女式神、君はどうする?」
「……無視はできなさそうだな。」
「大丈夫。我々がついている。」
ネーハの笑みに薄ら寒さを感じ、微妙な顔をした。




