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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
越久夜町シリーズ
17/47

神世の巫女

 ◆山伏式神と護法童子


 ?

 -人の魂は、地球の一部。壮大な可能性と力を秘めている。そうは思わないか?

 天津甕星が主に囁く。夢の中の自分だ、と主は椅子に腰掛け俯いた。

 いや、自分はアレなのだろうか?もっと、違う-

 劇場の垂れ幕が上がる。

 むかしむかし人々が今のような文明を持つ、もっと昔、越久夜町には神々の声を聞き、民に神託を届ける巫女がいた。巫女はその力から民から大切に守られ、女神や他の神々もまた巫女を頼りにしていたのだった。

 彼女のことを人々は口を揃えて言った……女神に選ばれし娘、と。

 巫女と山の女神が手を取り合い、顔をちかづける。2人がキスをしそうになった所で主は目を覚ました。

「また…あいつ、だ…。」

 ベッドから足をおろし、水瓶へ手を伸ばしたが、キラリと光ったものがあった。割れた鏡だった。


 -ならば干渉を拒み、魔や人だけで「運命」を左右する楽園を作ろう。

 ……そんなもの、私ではない-

 人も魔も同じ位置についていたはずの、言わば原始の頃のような楽園へ。原始を満たしていた虚無こそが真実だと。

 ………。

 言わば原始の頃のような楽園へ。原始を満たしていた虚無こそが真実-そう、人類が神へ守られ、言葉を交わしていたあの時代へ。

 ………私が巻き戻してしまえば良い。

 パチリと何者かが目を覚ます。割れた鏡に手を伸ばした主が、ハッと自ら写った破片からわずかに退いた。

 巫女の姿が一瞬映し出され、おぞましくニヤリと笑う。※天津甕星の依り代で自害したため、天津甕星の力や魂が混じっている。反対に童子式神は巫女の魂が混じっているため、髪飾りに月があしらわれている。

 主は恐怖を覚え汗を垂らした。※月明かりに照らされ、伸びた影が巫女のシルエットになっている。

 鬼がフッと目を開き、影?モヤ?から人の姿になる。

 台座に座っていた冷静が鬼へ目配せをした。


 ?山伏式神の過去。魔神は多分その場をたゆたうゆらぎから、あるい大切なあの石から産まれた。

 人ならざる者が生まれるのは、その場に素質があるから。ケガレや淀み-あるいは神性。

 あの石は魔神を生み出すほどの何かがあった。

「私」は生まれ落ちた場を離れず、活動してきた気がする。自我はなかったかもしれないけれど、いつからか-人や生命を食ううちにそれらしき「意識」が生まれた。

 僧侶に石に封じられてから、善良な神として祀り上げられた。

 -主は誰だったかは忘れてしまった。人間なんて皆同じようにしか見えなくて、煩わしかった。主となった人間は私をこの姿に決めた。無力な子供の姿で人間に仕えたわ。修験道に関わっていたのかしら?

 …どうでもよい。人間なんて。

 主の魂を食べて、人の自我が目覚めたの。

 自我。文字通り、意識が宿り思考がはっきりした。自らの姿を眺め、自分の願いはなんだったのか、を「思い出す」。分からないまま記憶にある石へ引き寄せられた。

 山伏式神は石に触れ、記憶を取り戻し自らが魔神であったのを思い出す。

「あの鬼神……また荒れ野に来ていないでしょうね?いやだわ。テリトリーの外をウロウロされたら。」

 なんとなく墳墓にきては、鬼をさがす山伏式神。

「この墳墓にも、かなりのケガレが宿ってる気がする。いつか人ならざる者が発生するかもしれないもの。見張っておかなきゃ」

 -テリトリー争いになる前に食べてやるんだ。

「!」

 ガサゴソとネーハが墳墓の影でなにかをしているのを見つける。

「誰!」

「…おや、誰もいないと思っていた。」

 ネーハは顔についた土を拭うと立ち上がる。

「ちょっと、こ、ここ!お墓よ?!曲がりなりにも失礼じゃない!!」

 慌てて何をしているのかと聞くと、

「君はコレが墓だと知っているのかい?驚いた。縄文時代の物を存じているとは。」

「じょ、じょうもん?そんなのは知らないわよ。お、お墓だって教えてもらったの!」

「なら、とある神の御神体がこの墓に眠っているのは知っている?」

「神?ううん。なんで人間の墓に?まさか!神の墓?」

「いいや、人間の墓だよ。…まあ、僕は御神体を探しているんだ。」

「そ、その神は村を支えていたという女性かしら?」

 興味深く墳墓をみやる。

「いいや、神や人を脅かしていた悪神だ。その神の御神体がここに埋まっている。それを手に入れれば。」

「悪神なんていたのね。」

「ああ、神世の時代にね。」ホコリを払うと再び地面を掘り返すネーハ。

 -神世って……神々が人間を管理していた時代じゃない…コイツ何歳よ?

 ジッと疑っていた山伏式神は

「あなた式神ではないけど、似たような者ね。」

「君も式神であって式神ではないな?」

「うふふ、おみとおしのようね。魔神と呼ばれていた強い者だったんだから。」

「君が荒れ野の暴食魔神か。倭文神から聞いた。」

「-出ていきなさい、護法童子。」

「なんだ、知っているんじゃないか。魔物の分際で。」

 暗闇に包まれた護法童子は不敵に笑う。

「魔物ではないわ。神よ。」

「式神に堕ちた者は神ではない、ただの魔物だ。早く手をどけたらどうだ?消滅するぞ。」

 首を掴んでいた手がひび割れていくのを、山伏式神は見下ろす。

「護法童子も同じような者でしょ。人間に使役された身でほざくんじゃないわよ。」

 触手が襲いかかり、ネーハは手から錫杖を召喚する。杖で触手をどつくと、そこから闇がぱらぱらと砕けていく。

「もう!どいつもこいつもなめやがって!」

 山伏式神が怒り、空間を触手まみれにする。

「埋もれて息絶えなさいっ!」

 ネーハは頭上にパルックを召喚し、山伏式神になげた。ビュンと空気を裂くも、闇でガードされる。

「このっ!」

 ネーハは錫杖でカチ割った。

 ヒビが入った闇の壁を見て山伏式神は焦る。

「くそっ!」即座にゲートを作るや瞬間移動し、その場から去った。

「逃げたか!」

 闇が崩れていき、山伏式神の姿はない。ネーハはムッとすると座り込んだ。

「式神もどきにあれほどの力があるとはな。」

 墳墓の石を拾い眺めるも、変哲もないので地面に置く。

「しかたあるまい。探すか……」

 探す描写。コマを使いながら書く。

 御神体は見つからず、ネーハは落胆して去っていく。

 薄く発光する墳墓。欠けた月がじっとりと草原を照らしていた。


 ◆神世の巫女


 《その1》

 ? わたしは、だれ?

 わたしは-………しがないムラの娘。名前はなかった。

 でも、あの方に付けてもらった大切な名前。………どうして思い出せないんだろう?

 裸足が草原を踏みしめる。よれよれと歩きながら、巫女は荒れ野を進む。

 暗い、苦しい。恨めしい。あの神は"わたし"を拒絶した-。

 -わたしのではない禍々しい気持ちが、溢れだしてくる。それもそうだ。

 もう、わたしの魂は壊れてしまったんだ。

 ボロボロの服をまとい、大きな月の下佇む。巫女は眩しそうにそれを眺めた。


 15 誰かがテリトリーへ入った気配を察知する。鬼が来ていないかを確かめる山伏式神。

 墳墓の上で天津甕星の影がある。あまりのオーラにゾワリと総毛立つ。

 -ひっ。逃げようと闇を出現させ、再び墳墓を見ると天津甕星は消え巫女がいた。(見間違えたかしら?)

 巫女と出会う。墳墓に座り込んで泣いている所を山伏式神が見つける。

「どうして泣いているわけ?まさかあのおっかない鬼にいじめられたの?」

 山伏式神は巫女に問うた。

「…おに?…あなただれ?」

「ただの式神よ。」

「しきがみ?」

「知らないの?」

「…うん。」巫女は頷くと、山伏式神を見つめる。「どこからきたのかしら?こんな姿の魔いたっけ。」

「…わかんないけど、この場に引き寄せられたの。」と。

 山伏式神は「同じね」、という。

「同じ?」

「私もこの荒れ野に引き寄せられた。」

「あなたも…私のように? 」

「ええ、ただし!私は何者だったのか知っているのよ。すごいことなの、分かる?」

「…そう。」

「もしかすると新しく産まれた魔なのかもしれないわね。ゆらぎから産まれた、新入りさん。」

「魔……?私は魔っていうの?」

「まさか、私たちは魔というカテゴリに属しているだけよ。でも珍しいわ。人間と同じ姿をしている魔なんて、あまりいないもの。物好きね。」

「……?わたし、人間じゃなくなったんだ。」

「元は人間だった感じ?最近そんな風な魔ばかり出会うわねえ。」怪訝に眉を顰める山伏式神に、巫女は「他にもいるんだ?」

「いるわよ。おっかないのが。」

「へえ。」小さいフキダシ。

 巫女は墳墓の丘から降り、周りを見渡した。「ここは?」

「越久夜町という町のはじっこにある荒れ野。」

「……。静かなところね。」※巫女は神の声を聴く能力をなくしてしまった。


 場面が変わる。

「あなたがいた場所。なんだかムラを支えた人間?のお墓らしいわ。まさか一緒に埋められた生贄とかじゃないわよね…?」

「ソレ、多分わたしのことなんじゃないかな。」

「やっぱり生贄?」勘違いする山伏式神にクスリと笑う。

「ふふっ。違うよぉ~。」

「ならムラを支えた方?そんな風には見えないわね…。」

「うふふ、おかしい。あたし、そんなに頼りないかなぁ?」くすくすと笑う巫女に山伏式神は汗を流す。

「あなたとはお友達になれそう。よろしくね。しきがみさん。」

「え、ええ。」

「えっとぉ、しきがみさんがわたしの名前決めてくれないかな?どうやらもう壊れてしまったみたいなものだし。」

「な、名前?!えっ、わたしが?そうねえ……月、皐月とかどうかしら?」

 月の下、巫女は柔らかく微笑む。「見つけてくれてありがとう。」

「……。」拍子抜けする山伏式神。二人は荒れ野に佇み、さわさわと風が吹いていく。


  《その2》

 14 巫女は山伏式神に案内され、自らが神さまであった過去を説明される。

「え~?本当に神さまなの?あなたみたいな神、見たことも聞いたこともないよ。」

「し、失礼ね!人間ごときに神の何がわかるの?!」怒鳴る山伏式神に巫女はにこにこして

「だって神さまの声が聞こえたんだもん。ムラの神々のお声はだいたい把握していたし…」

「あなたが生きていた時代より後から産まれたんだからっ!いなくて当然よっ!」

 板碑を見やる。「…ん」

「この石、わたしのお墓からとられたんじゃないかな?」

「えっ?なんでそんなの分かるわけ?」

「ふふ。勘。」キッパリと言い放つ。ずっこけそうになる山伏式神。

「あながち間違ってないかもよ。まとっている気配が似ているから。」

「気配?石なんてどれも一緒じゃない?」

「わたしが輪廻を巡る前に残していった気持ち…憎悪、怒りが石に染み込んでいるから。」おぞましい気色で巫女は言う。※天津甕星めいた顔つきにする。

「そ、そお…」びくつく山伏式神。

「あなた石から産まれたのでしょう?なら、わたしたち似たもの同士ね!」

 しゃがみこみ、手を握る。「そ、そう…?」

「--」照れくさそうにむつれる山伏式神は過去に思いを馳せる。※過去のシーンを参考に。

 -ずっと独りぼっちだったから。友だちとか、似たもの同士とか…面映ゆいわね。

「あ、あの、あなたが寂しいなら、たまに話し相手になってやっても良いわよ!」

「うん!じゃあお話をしましょう。」

 場面が変わり、二人は石の近くで語り合っていた。

「しきがみさん、って人じゃないのにヒトの形をしているの?」

「式神になったからよ。」

「しきがみになるとヒトになるんだね。」

 興味深そうにうなずく巫女に山伏式神は

「絶対ヒトになるってことはないわよ。動物になるかもしれないし、または虫かもしれないし。ま、どれでも同じだと思うけどね。」

「ふ〜ん。」

「別に、式神になった理由も今はどうでもいいわ。再び神威を取り戻した所で、人間どもは衰退しているもの。私が滅ばなければいいのだもの。」

「変なの。」

「あなただって、私と同じ。」

 二人は見つめ合う(?)と無言の間ができる。巫女は髪をいじりながら遊んでいた。

「そうねっ!ご飯食べに行きましょ!」

「ごはん?」

 立ち上がった山伏式神に、巫女は不思議がった。


 16


 開けた森の影がザワザワとざわめく。月明かりに照らされて、地面に血が散らばっていた。

 女子高生の制服をチラリと写す。血溜まりを眺める二人。

「魔はね、ご飯を食べなきゃいけないのよ?神さまみたいに無欲な者ではないの。」

「あんまり美味しくなかったな〜」

 血にまみれた地面を蹴る巫女。

「あれはまだ美味くならない、熟れてないヤツだったから。それに肉付きも悪かったし。」

 ぐちゃぐちゃと死体を弄る山伏式神。死体は映らないように気をつける。

「魂は美味しかったよ。」

「当然よっ!一番旨味がある場所なんだから。あたしは"大人"だから我慢したけど、普通は奪い合いになるくらい貴重なモノ。譲るなんて有り得ないわ。」

「がんばるね!」ニコニコする巫女に山伏式神はため息を着く。

「別にがんばらなくていいわよ、テリトリー争いとかめんどくさいし。」

「あはっ!しきがみさんおもしろーい。」

「はあ……」ため息を着くと、「この服もらっちゃいなさいよ。その…ずた袋みたいな服よりはいいと思うわ。」

 ベストを指さす山伏式神。

「これはね、ボロボロになっちゃったけどいい服なんだよ?」

 ニコニコする巫女の口は血にまみれていた。


「じゃ〜ん!着てみたよ!」

 血にまみれた制服をきるや、巫女はくるくる回った。

「汚れてるから川で洗わないとねっ!」

「勝手にしてちょうだい。」

 疲れた顔をしている山伏式神を気にせずに、巫女は猫じゃらしをブチッとちぎるとクルクルし始める。

「ねえ、しきがみさん。」

「なに?」

「魔はなんで人を食べるの?」

「はっ?!当たり前でしょ?!人だって、生き物を食うんだから。地球の決めたルールもしらないの?まさか…宇宙から来ました、なんて言わないわよね?」

「えー、地球人だよ。」

「なら馬鹿なこと言わないで。」

「はーい。」

 暇になり座り込むと猫じゃらしを放り、踞る。

 -地球のルール。

 ……原始を満たしていた虚無こそが真実-そう、人類が神へ守られ、言葉を交わしていたあの時代へ。

 それって"わたし"の気持ちだっけ?

「あの頃みたいに…また皆とお話をしたいなあ……」

 黄昏ながら巫女は顔を膝にうずめる。

「皐月…。」山伏式神は隣で困惑する。

「わたしが巻き戻して、何もかもなかったことにできないかなあ…」

「……。」

「女神さま……会いたいよ……」

「わたしをわたしのままで終わらして……お願い……」

 蹲ったままポツリポツリという。

「終わらせるって……」

 巫女が肩を揺らす、ニタニタと笑いだし豹変した様子に山伏式神は仰け反る。

「女神さまあ、早く会いたいなあ。」

「!」

「ああ、早く食べてあげたいよぉ。」鋭い牙をのぞかせて、巫女は徐々に天津甕星に変化していく。

「な、な…!」必死に後ずさる山伏式神をものともせず、天津甕星はニタリとわらう。

「久しぶりに娑婆の空気が吸えるなあ、あーまじい」

  天津甕星はにやにやしながらも鋭い目で山伏式神を見下ろす。「ひ、ひいっ!」さらにあとず去ろうとする山伏式神を触手が絡み取り、束縛する。ざわざわと髪がざわめき、天津甕星は山伏式神を睨めつける。

  「-俺のはしためになれ。下等生物。」

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