稲荷の狐と山の女神の伝承
★稲荷の狐と山の女神の伝承
童子式神はどことなく町が騒がしいのを疎ましく思う。囃子の音がしているのに、ハッとした。
-「誰」のお祭りなんだ?
『★女神様のおわす越久夜町★ 越久夜間山には女神様がおります。女神様は春になると山より降りてきて豊穣をもたらします。越久夜町の人々は神様がもたらす自然の恵みに感謝して、夏になるとお祭りをしてきました。越久夜祭り』
ブロック塀に貼られた夏祭りのお知らせを見ながら、童子式神は道に提灯が設置されているのを知る。
-毎年こんな祭り、やっていたっけな。あっしが忘れているだけか?
何もかも忘れてしいたいほどの事があったんだろうか?
囃子の音を後ろに歩き始める。
「女神さまのお祭りかあ。越久夜間山にもあまり行ったことねえっス。」
テリトリーで掃除をしながら、独り言ちる。
「越久夜間山にはこの町をテリトリーにする最高神がおわすのじゃ。」
「ぎゃ!居たんすか??」
寡黙がいつの間にか隣にいるのを驚き、箒を落としそうになった。
「……。」
「さ、最高神だったんスね。その女神さまは」息を整えながらも言う。
「女神は何万年も昔、神世の地代、先代から最高神の座を譲られると、越久夜間山を神奈備としたのじゃ。そして町の虫や四足二足の獣を支配し、眷属とした。町の裸虫どもも眷属であり、彼らが女神を崇めるのは当然のこと。」
「はあ……なるほど。」あまり分かっていない。
「彼女は最高神として神々や獣たちからも信頼されていた。」
「いた、ってことは--」
シッと寡黙はジェスチャーをする。
「不敬な言動は控えろ。山の女神は祭りの日が近しいと、ことさら人々を監視している。」
「おめえが言ったんじゃねえすか。」
「口が滑っただけじゃ。」
「山の女神という神が神世の時代から祀られているのは、すごいことだと思います。」
「これまで、誰も山の女神に反逆してこなかったってことじゃねェスか。信頼されていたんですね。」
「信頼というよりは、放任…じゃった。」
「えっ」
「なんでもない。さあ、ゆらぎを掃き清め、テリトリーを偵察せよ。」
祭り前夜。提灯に明かりがともり、相変わらずどこか騒がしい。ヒグラシが鳴き、もの哀しげな雰囲気を醸し出していた。
童子式神は越久夜間山のシルエットを眺める。そこまで高くなく、ほかの山の方が急斜面でそびえ立っていた。
「おう。」
後ろから声を掛けられ、振り向いてみると冷静が立っていた。
「冷静、ですか?」
「そうだ。祭りがあるってんで、屋台が出てないか見に来たんだ。」
「はあ」
「焼きとうもろこしとか美味いよな。」フランクに話しかけてくる冷静にジト目になる。
「式神は焼きとうもろこしなんて食べません。」
「そう言いなさんな。あんたは屋台の下見じゃあないだろ?」
「まあ…主祭神のことを考えていました。」
「山の女神さまを?恋慕か?」
「まさか。あっしは山の女神なんて…会ったことがあるんでしょうか?」
違和感にまゆを潜め、考え出す。
「さあねぇ。」
意味深に相槌を打つ冷静に気づかずに、童子式神は再び越久夜間山を眺めた。
「あっしは町を知らなすぎるんス。式神としてはフツーかもしれないですが、寡黙を見ていると……」
「ああ、アイツは異質なんじゃないのかあ?」
さりげなく寡黙を知っているのを童子式神は当然のことと受け取ってしまう。
「そうですね。寡黙は変な感じがするヤツです。」
「そんなに町が知りたいのなら、君には特別授業をしてあげよう。まずは最高神の説明」
先生ヅラをした冷静が胸を張る。
「イイッス。最高神は知ってますから。」
「では」
「人の話を聞けっ!」
「越久夜町の最高神の話をしよう」
「はいはい……」
女神の説明。
-この星に居れば必ずヒエラルキーができる。獣や人類のみならず神までも。地球は意地悪い所があるからなぁ。神々のヒエラルキーの頂点-最高神は神のカシラ。お偉いまとめ役さ。
「ええ、知ってますよ。最高神はこの町全体の森羅万象を握れるって」
「そうかあ、じゃあこれは知っているか?」
-越久夜町が村だった頃、いや、もっと昔からこの小さな「世界」のルールを創造した神がいたらしい。その神は地球の化身。地球の意志をこの地に生まれまたは降り立った神へと伝える役目を担っていたそうだ。神々を集め、神による支配の下文明の箱庭を作った。人は神を敬い、神々は当然の如く最高神として従った。
「それは山の女神ですか?」
「いいや、今の最高神の先代だ。あんな偉そうにしてはいるが、山の女神は始祖ではないんだぜ?」
先代から座を譲られたのは"最近"生まれた地球の化身。今の最高神だった。そして先代は消えた。山の女神はこの町を、箱庭を何万年も守り続けるという呪縛を受けたんだろう。
「生まれてすぐに町を任せられるとは。少し気の毒ですね。」
「まあなぁ、それくらい先代は焦ったんだろうな。」
「というと、最高神はいずれ交代するのですね。」
「ああ。今、女神の気配は薄まってきてる。多分次の代が決まらない限りは、越久夜町は更地になるかこの時空から消える。」
「やべーじゃねえか。」
「そうさ。越久夜町は消失の危機に直面している訳だ。」
「おめえはどこでそれを知ったのですか?鬼神から?下位の人ならざる者らが知ったら大混乱になるッス。」
焦る童子式神を他所に、他人事の冷静は言う。
「いいや、だいたいのあらましは時空にレコードされているのさ。地層を見るのと同じでな。俺みたいな"部外者"しか見れないのが残念だ。」
「は、はあ…よく分かんねえけどよ…」
「あんたはどうする?」
-ある者はかつての偶像を再び町に作ろうとし、ある者は後継者を探し、ある者は保守しようとし--
「あっしは、自分の願いを叶えるだけです。」
「あんたはどうする?」
-ある者はかつての偶像を再び町に作ろうとし、ある者は後継者を探し、ある者は保守しようとし--
「あっしは、自分の願いを叶えるだけです。」
「あんたらしいな。無知で無謀で。まあ、せいぜい消滅前夜まで楽しもうぜ。」
そう言うと、来た道を引き返して言った。
「あいつもかなりオカシなヤツッス……」
8 【回想:
夜中に、童子式神と主は作戦会議をする。主が書いた雑な地図を見ながら
「いいか?あの神社がある場所は霊脈の上だ。霊力が豊富にある。地主神の時のあの鬼のように、自らの領地にできれば…そこにいる分霊になり変われば… 信仰心や霊力を得られる。」
「あの者は神性を持ちえていたから、できたのです。」
「ならば俺も持ちえれば良いのだ。数多の人の魂をこの身に宿せば…」
「人間に、そんなことが。」焦る童子式神に主は笑う。
「式神にできて何故人間にできない?魂呼びを行い、或いは奪えば-」
「"鬼"になる気ですか。」
「なんとでも言えばいいさ。」
焦燥する童子式神は言い返せずに黙りこくる。
-人間とは貪欲な生き物だ、と童子式神は呆れる。
「まさか、山の神の神社ではないですよね?」
主は首を横に振り、山にあるもう一つの丸に指を置く。
「人の話を聞いていたか?山の神の近くにある稲荷神社だ。あの神社はあまり管理がされていない。ケガレが溜まり、神使の霊力も弱まっているんじゃないのか?」
「越久夜町の人々は、神に対して無関心なんでしょうか。」呆れる童子式神。
「現代社会で信心深い人のほうが稀だろう?近代化、少子化や過疎化もある。もう手遅れなんだよ。」
「はあ…」
「稲荷の狐は手強いデスヨ。狐は執念深いと我々の世界でも知れ渡っていますから。」
「ああ…分かっている。町全体の"支配"が弱まっている今なら、打ち負かせるかもしれない。」
-人は不思議なものを信じなくなっているから。
】
「どっから人が湧いてくるざんしょ」
「困ったなあ…」
今夜は年に1度の夏祭りだった。
「主さま 今日お祭りがあるって知らなかったな こりゃ」
あっしらにはむしろ好都合だ 今日みたいな日は
人に紛れて人界を自由に行き来できる 神域だってきっとバレやしない
「わ!」
「すいやせん…」
「大丈夫?坊や」
「坊や…」
「え…ええ 平気っス」
「そう かわいい服ね 似合ってるわ」
「じゃ じゃあ!お母さんが待ってるから!」
焦ったっス。
-あっしの姿が見えるなんて…
山の女神がジッとこちらを見ているのに気がついていない。
稲荷神社はこの社の後ろにある小山の麓にある。回り道している暇はないが、しょうがないだろう。
『稲荷神社』と腐り果てた案内を確認すると、ウサギ形態になり草藪に飛び込んだ。
《町では山にいる女神に対してのお祭りがやっていた。あまりの人混みに主がお祭りを知らなかったのを恨めしがりながら稲荷の神社へ向かう。山の女神が豊穣をもたらしてくれる。童子式神は山に女神などいたかと記憶をめぐらせる。この町は女神から生まれた。そういう伝承がある。お祭りではしゃぐ子供に混じり、稲荷神社に向かう。
あら、可愛い服ね。
いきなり女性(女王)に声をかけられる。》
けもの道の匂いを嗅ぎ、狐の居場所を探る童子式神。ウサギ形態で耳を研ぎ澄ましながらもピクリとシッポを立てる。
-狐のニオいだ。人ならざる者のニオイもする。これは稲荷神社の神使かもしれない。
スンスンとにおいを辿っていると、暗闇にケーンという狐の遠吠えが響いた。そして祭囃子も聞こえてくる。
-どういうことだ?稲荷神社までは人は来ていないはず。まさか術に巻かれた?
祭囃子の音が四方に響くが、童子式神はにおいを辿り開けた場所に着く。
寂れ朽ちかけた赤鳥居と小さな祠があった。
「これが、山の女神を守護する……?」
規模の小さな様子に愕然とする。
ーあの神社はあまり管理がされていない。ケガレが溜まり、神使の霊力も弱まっているんじゃないのか?
主の言葉を思い出し、童子式神は固唾を呑む。
-神使に勝てるかなんて式神如きが考えることじゃない。でも、これまで何度か弱体化した神使を相手にしてきた…やってみるしかねえ。
ウサギ形態のまま鳥居を潜ろうとするも、弾かれる。
「!」
稲荷神社はガチガチに結界?が貼られ入れなくなっていた。
呪術師が行う反呪法だと驚愕する。
「こりゃあ神域のモンじゃねえ!反呪法?!」
-何故、神使らがこのような"反則"技を?!(※埋鎮の皿を辰美が埋めたため、邪気封じの効力が発揮された)。
-先手を打たれた!
「来たな 小賢しい式め」
「独りでやってきたのかい?」
悟られたと思いながら警戒するも、キツネの神使が二匹現れ、狐火が周囲に現れる。
-神使が神域の外に?!
「主も連れてきなあ。説教してやるよ。」とおばあさんの狐が言う。
「あたしたちゃ狛犬のようにはいかぬぞ。」狐火を纏わせ、二匹は童子式神を睨めつける。
「狛犬…?!何言ってるんすか!」
あっしらのせいになってる!
「待てっス!あっしらではなく鬼神が起きて神使を-」キツネたちは童子式神が狛犬を退治したと思い込んでいた。
「言い逃れか?鬼神などこの町には居らぬ!!貴様-越久夜間山に来たということは、さては山の神の御神体を狙いに来たか?」
「残念だね。越久夜間山には御神体はないよ。あるのは我らの神、稲荷神のみ!奪うなら奪ってみりゃいいさ!」
「我らが女神を守る!」
-コイツらは鬼を知らない?
あの鬼!童子式神は鬼が町の神使にすら知られていないのを目の当たりにする。
炎が兎形態の童子式神に向かってくる。咄嗟にジャンプして避けると
「式ごときがわしらに勝てると思うな。わしらは神使だ。」
狐火が連なり襲ってくるのを必死によけるも、炎に束縛される。
「ぐああ!」炎に焼かれ悲鳴をあげる。
「さあ。主の名をいいな。今ならそれだけで勘弁してやるから。」
「絶対に言うものか。」狐に断言する童子式神。
「そうかい。」
「うりゃ!」
髪飾りを召喚し、巨大化させブーメランのように舞わせる。
「おのれ!させるか!」神使が少し焦る。
炎の拘束をとき、術を無効化させた瞬間惜しくも罠が発動(マイナスの空気がプラスになり魔は身動きがとれなくなる)されてしまう。
「ギャッ!」地面に伏して、童子式神は苦しむ。逃げ場をなくした童子式神へ二匹が迫ってくる。
「最高神のお膝元でこのような狼藉。女神はお怒りになり、お前たちはただでおかないだろうね。」
と言われる。
-くそっ!神使に勝てるはずないんだ!
ボウッと狐火が舞い始め、童子式神は目をつぶった。
9
「これ以上神域を冒涜するなよ。」
「式神はいくら潰しても湧いて出てくるからねえ。消すよりは良いと思わないかい?」
「そうだな。主となっている人間がこれ期に反省すると良いが……」
「アハハ!生易しいねえアンタ!」
声だけが聞こえ、ドサリと地面に放られた。
「二度と越久夜間山に来るんじゃないよ。」
と念を押され、ボロボロのままそこら辺に遺棄される。
「お前を潰すのは、次は最高神だ。」
「覚悟しておきな。」
遠のく意識の中、誰かが近づいてくる。誰だかは分からないが、女だというのはわかる。ふいに名を呼ばれた気がして目を開けると、髪飾りに手を触れられる。
やばい!依り代を………!
指でなぞられ、次の瞬間-髪飾りが弾け飛びブラックアウトする。
暗闇の中で自分の体が崩れ落ちていくのをみて焦る。自らは誰だ?
もう誰でもない。神威ある偉大なる星でも巫女でもない-
童子式神は2回目だと悟る。
ー式神にならなければ行けなかったあの時と一緒だ、と。
崩れるからだで走りながら、自分は誰だと自問自答する。
-ああ!誰か!あっしの名を呼んでくれ!
巫女式神が暗闇の奥から現れ、こちらに手を伸ばしてきた。二人の手が触れ合うか、合わないかの折に
童子式神!
巫女式神の声で目が覚め、童子式神は再発生したと悟る。
テリトリーの、しめ縄まみれの空間に安堵すると自らの手を見つめ、グーパーさせた。
依り代を砕かれたのは痛手だ。一度で式神の依り代-本体を見破るなんて只者じゃない。
「再発生に時間がかかったな。」
寡黙が現れ、童子式神を身体検査する。
「ええ…依り代をやられるなんて……。何者なんでしょう。」
「………。」答えずに、「異常はない。」
「あ、ありがとうございます。あんな小さは社の神使に負けるとは、ちょっと情けないです。」
しょぼくれる童子式神に
「あの稲荷神社は全盛期かなりの規模を有していたのじゃぞ。ポテンシャルが他の社と違う。現代になるまで何度か建て直されて、ああなってしまったがのう。」
「それを先に言ってくだせえ。」
「言っても、主は止まらないじゃろう?負けたのはしょうがない。通常の霊験をもつ使わしめに勝てるわけがないのじゃから。」
「ま、まあ…」納得いかない様子。
「もう主が目指す理想への道は破綻してしまっておる。」
「そ、そんなわけないです!」と童子式神は反論するも寡黙は取り合わない。
「ならば作戦を練り直せるか?……中断を検討しなければならぬな。主とゆっくり話せ。」
「ま、待ってください!」
寡黙はスタスタとしめ縄をくぐっていく。それを追えずに、やがてガクリと俯く。
10 主がベットで外を眺めている。二人は重苦しい。
-稲荷に負け、領地を奪われたのだ。
童子式神は世話をしながら、やがて口を開く。
「山の中で不思議な人間か、人ならざる者か…そんな者が現れて、本体を壊されてしまいました。越久夜間山は恐ろしい場所です。主さまは……」
「ああ、山の神か。………。越久夜間山には山の女神がいるというからな。」
「主さまの言う山の神が、本当に存在しているとは。彼らは越久夜間山に女神の御神体はないと言っていました。勝手に…キツネどもは多分、山の神を崇敬しているのでしょう。」
「神社に御神体はない、か。そうか……。…いずれも山の神と対峙することになるだろう。俺は見つかったのだから。」、と主は言う。
「見つかった、ですか。」
「前に言ったように、どこかでこちらを見ている。山の神よ、会えるのを楽しみにしているぞ。」
童子式神は眉を顰める。
「神域の起点に連れて行っておくれ。」
「……それは」
「山の神と対峙するには相応しい場だろうに。」
「山の神と対峙……?」
「ああ、神域の起点とやらには山の神の御神体があると。」
「どこでそのようなことを?」童子式神は怯えながらも問うた。
「夢の中の俺が、言ったのだ。」
「は……?」-夢だと?
不意に蘇った記憶の天津甕星が浮かぶ。
「もしやオレは特別なのかもしれん。普通でない何かを持ちえているのか…恵まれたのか、定かではないが。」
「はあ……。」半信半疑の童子式神。
「運命の神がいるのなら、皮肉にもオレは見初められたのかもな。」
「運命の神、ですか。」
-主さまが、神を認めた。
主は「……。負けたのは自分のせいだ」と詫びる。
「神使に勝つのは人間ができる所業じゃなかった、今まで幸運だった。ましてやお前に任せ切りだった。俺は魔法使いでもなくなった。何者でもなくなったんだ。」
「主さま…。」童子式神は慰めの言葉をかけようとするが。主は無表情のまま告げる。
「何者でもなくなった上に…人じゃなくなってきている。」
「人から外れようとしたのですか。」
2人は睨み合うように見つめ合う(描写しなくてもよし)。




