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そんじょそこらの使わしめ (原案)  作者: 犬冠 雲映子
稲荷の狐シリーズ
15/47

世話係と主

 ★世話係と主


 6 逢魔が時の、宵闇に沈む稲荷神社の境内にキツネの二匹のシルエット。「狛犬がやられるとは…。だからあれほど言ったのに。これだから若いモンは。」

 もう1匹が 「どうする、あんた。明日は我が身かねぇ。」

「失われた神の神域を占領し、結界を壊したところで我々はすぐ修復できる。あの者は神々をなめすぎている。ただ今回ばかりは堪忍袋の緒が切れた。」

「そうだねえ。仲間をやられちゃあねえ。」

 稲荷の狐らは台座の上でギラギラと目を燃やし、狐火を纏う。

「小癪な若造と式神めが、あたしらが調伏してやろうぞ。」

 狐火が燃ゆる夜闇。鳥居からフェードアウトしていく。


 ?

 半分の月が空に浮かび、わずかな雲間から覗いている。風の強い夜に窓がガタガタと鳴っていた。

「世話係が来る…。」

 主が陰鬱とした表情で椅子に腰掛けている。雨が降りそうな空模様の薄暗い夜に、二人は部屋にいた。

「世話係が…こんな夜に?主さまに、何か用があるのでしょうか?」

「説教だ。」神妙な、それでいてどろんとした目付きをしながら静かに言う。

「は?」驚いた顔をする童子式神を一瞥し、主は席を立った。

「世話係-有屋は、昔から、こちらがどんなに苦しんでいるかを知りながら放置してきた。世話係はなんて、名ばかりで。そのくせオレがやらかす度に叱ってくる。嫌いだった。」

「そうですね。小さい頃から、主さまはあんなに苦しんでいたのに。」

「今度もそうだ。それで…今夜でオレは終わる。」

 カーテンを閉め、部屋は暗転する。


 ?主さまには世話係がいる。女中は今までたくさんいたけれど、いつしかそれらも姿を消した。ひどい仕打ちをする人間らだった。でも主さまが呪い殺したから、いなくなった。

 あの世話係は例外だった。主さまに付きまとう闇のように、彼を叱責し、心を散らかして帰る。主さまはいつも怯え泣いていた。

 世話係は人間じゃないのかもしれない。あの女から嫌な「臭い」がする。

 有屋鳥子が主と話し合う。そばでネーハが待機しており、三人で応接間にいる。

 主はネーハを一瞥する。ネーハは表情を崩さずに前を向いていた。

「私のメイドよ。」

「…ふ、笑えるな。こんな幼いメイドがいるものか。使い魔か?え?」

「あら、あなたにもいるんじゃないかしら?幼いメイドさんが?」

 二人は睨み合い、険悪なムードが漂う。

「あなたが魔法使いであることは…薄々勘づいていたわ。豪族星守家のご子息。」

「……改まって呼ぶな。世話係の分際で。」

 不快そうに眉を顰めると足を組んだ。

「…。ならば、魔法使いのお偉いさんとして-あなたの魔法使い免許を剥奪する。」

「………。」ことさら怖い顔で睨めつける。

「その顔をやめなさい。何度言ったら分かるの。豪族の子息として相応しくない振る舞いはよして。」

「…。」主は席をたち、部屋から出ようとする。「諦めない、もうあんたの言いなりじゃない。」

「…子供みたいに、注意を引くためだけに悪事を働くのは止めなさい。」

「……。」ドアを閉める主。

「はあ……」髪を整えてため息を着く。「本当に困った子ね。」

「あの女め。」悪態を着いて主が部屋から出てくる。

 主が去っていくのを横目に眺めていると、

「なんだ?冷やかしか?」

「い、いえ……」

 八つ当たりされ童子式神は一歩下がる。主はいかり肩で部屋に戻っていく。

「こえー。こりゃあしばらく大変だなあ。」

 困り果てていると有屋鳥子が歩いてくる。慌てて黒電話が置かれている棚に隠れる。

 有屋鳥子は目もくれずに歩いていくと、後を追うようにネーハが歩いてきた。

 通り過ぎたと思ったら、ネーハは

「また会ったな。」

 ジロリと童子式神を睥睨する。「式神特有の腥さが隠しきれていない。鼻がひん曲がるわ。」

 棚から身を出して、

「なにを!おめえこそ!」

 二人は廊下で威嚇しあう。

「護法童子。あれがおめぇの使役者か。」

「なんだ?隙を狙って奇襲でもするつもりか?」※ちょっとした伏線。

「まさか」

「あの人間から貴様を祓ってやる。」

 ネーハが目をギラつかせて宣告する。童子式神も睨みつけ、二人は道を譲らない。

「祓えるのなら祓ってみればいい。あっしは主さまの式神だ。主さまの魂はあっしのものだ。」

「魂に固執するとはなんと浅はかな生き物。そうして負け犬らしく虚勢を張っていろ。」

「お前こそ、牙を抜かれた腑抜けのくせに。」

「あ?」

「神の加護などというマヤカシに騙された間抜けな魔物が。そうやって正義ヅラして、使役者にへつらっていろよ!」童子式神の挑発にネーハはビキッと血管をうかした。

 カン、と錫杖を地面に叩きつけると童子式神はガクリと膝を着く。

「魔の分際で、私に楯突くとはな。」

 ネーハは何も言わずに廊下を歩いていく。

「くっ」

 -主さま……。魂をこんな奴に奪われてたまるか。

「なんとマヌケな。ハハハッ」

 ネーハの後ろ姿を眺めながら、膝をつきながらも歯を食いしばった。

「くそったれ!」


 破れたカーテンと散らばった花瓶、荒れ果てた部屋が月明かりに照られている。

「鳥子め……!」

 主は魔法使いの免許(?)を剥奪された。ベッドの上で苦悩する主。ギリギリと歯を食いしばり、拳を握りしめる。

「主さま…あまり無理すると…。ハーブティーでもお持ちしましょうか? 」

「あいつは邪魔しかしてこなかった!今回もそうだ!くそ…!くそっ!」

「あ、主さま……」

 あっしは人間関係までに、主さまの全てに干渉できない。式神は主の命令を聞き、叶えるだけの存在なのだから。

 全てを管理してしまえば、人間の魂は無味無臭に成り下がる。

「しかし主さま、あっしはまだおります。魔法使いなるものはまだ効力があるのではないでしょうか?」

 人間たちはこの星の力を使い、魔法使いという名称の存在になった。地球に流れているエネルギーを、人らは我がモノにしようと試行錯誤したのだろう。あっしは彼らの歴史などよく分からない…人間は皆同じにしか見えぬのだ。

「ああ…だがもう魔法使いとしての、権限は…ああ、お前になんか話したところで何も……」

 額を押え息苦しそうにする主に、童子式神は戸惑う。

「俺は先が短い…はやく、理想を叶えなければ。鳥子に計画が知られようが、なりふり構っていられないのだ。」

「その鳥子という者は何者なのですか?」

 その問いに主は固まる。有り得ないと驚愕した表情で童子式神をみやる。

「は、はは…お前がそんな風に…いよいよ、俺はあの世送りにされるのか…!」

「……?」理解出来ず眉をひそめる童子式神。

「あの世とはどんな所だ?教えてくれ、死神!」

「あっしは式神であって」

「はあ…お前に問い詰めた所で何もならん。分かっている、だが気持ちが収まらねえ!クソが!」

 ベッドを殴る主に童子式神は焦りを覚える。場面が変わり、

「主さまは錯乱しております。このままではあっしらへのエネルギー供給も時間の問題かと」

 ミーティングをする寡黙と童子式神。荒れ果てた部屋を片付けながら。

「…もう無理かもしれぬな。外部に漏れてしまったのなら、主の野望は潰えたにも等しい。誰も知らぬからこそ実行出来た荒行じゃった。」

「…そんな…諦めるんスか?!」

「諦めるも何も、そちの野望ではないのだぞ?ただ吾輩らは主の願いを叶えるだけ。」

「あ、あっし…の願いは……」たどたどしく反論。

「なんじゃ?そち、式神になった理由を思い出したのか?」わざとらしい顔をする寡黙。

「い、いや…おめぇーだって願いがあって式神になったのでしょう?」

「ふぅむ。危険な兆候じゃ。」

「えっ?」

「…吾輩らは主の願いを叶える、唯一の存在じゃ。じゃがのう、式神は主に過干渉しはしない、魂に執着すれど、後は蠱毒魘魅を冒した無惨な結末へと転落していくのを待っているだけじゃ。助言も救済もせぬ。」

「え、ええ。」童子式神は歪に微笑む。式神システムを話した回想が過ぎる。

「そちがそのようなタブーを冒せば、この町にも何らかの余波が出るかもしれぬのう。」

 --もう、出ているのでしょうね。寡黙…。

 心の中で呟くと割れた手鏡を拾う。童子式神は映らない。

「また鏡を買ってもらわなければならないですね。」

 眺めると割れたガラスが月明かりを反射して煌めいた。

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