童子式神と記憶~ネーハ
★童子式神と記憶
1
--あれからずっと アイツの言葉が頭から離れない。
「あたしと勝負しようよ。どっちが先に"何者か"になれるか。」
オニの目的は式神から分霊ではない、上位的存在を作ること。
分からないのは、あっしが何者かになるのを望んでいること。
オニと「知り合い」 だった?覚えてない。
あっしは分霊だった。それは覚えている......ただ。
何者だったのかは、覚えていない。
まさか自分が…式神システムに呑まれるとは……。
式神システムは--
『式神システムは画期的でした。しかし代償は大きく、システムから脱することができなくなる式神たちが大勢いるのも事実でした。』
『自分が何者か、忘れてしまうのです。』
『式神たちはその現象を知らないわけではないのです。だけど忘れてしまう式神になってしまったら式神でしかなく、皆同じ存在になります。』
『変わってしまった"存在"を戻せはしません。』
-あっしは特別だと思っていた。自分だけは大丈夫だと。
例外なく式神であることを失念していた。分霊だったと過去に固執しすぎていていたのかもしれない。
「おめえは覚えてるんスか?」張り込みをしていた二人は塀にぶら下がっていた。
「何を?」答える寡黙。
「何って。式神になる前のことを」
「いきなりなんじゃ」
「覚えている………と言ったら?」
「えっ覚えているんすか?」
驚いた童子式神に寡黙は言った。
「覚えてないと言ったら?」
「バカにすんじゃねー!」茶化されていると分かり、怒りを顕にした。
「そちが分霊だった 頃を知っている と言ったら?吾輩を憎むかもな。いや、主のように全てを憎いと思うかもしれぬ」
「え、な、なん」
「覚えている、ということが幸せってワケじゃない」
詰め寄る寡黙に、彼女は戸惑う。
「えっ、え?」
「吾輩はそちと同じく都合のいい出来事しか覚えない主義での。今は主の命令に従い、ここを見張る。それに集中しろ」
「むう。」ムッとむつれる。
「おめえってここの分霊?精霊?だったんスか?」
「………。」寡黙は知らんぷりして答えない。「主に怒られたくなければ、任務に集中しろ…..。過去はどうにでもなる。現在はどうにもならない」
「はいはい。つまんねーヤツ。」
街灯が辺りを照らしている。
--アイツの言葉は頭から離れない。頭ん中は ごちゃごちゃだ。主さまに命じられるのは変わりないし
、あっしは式神だ。今はそういうことにしておこう。
《1 童子式神は自らが分霊であることは覚えていたが、何者なのかは忘れていた。巫女式神にそれを指摘され、何者になれなければ式神のまま(式神の延長線上の存在)だと気付かされる。巫女式神は己の使命?は変異体から学習すること。どちらが先に何者になれるか、競おうと約束される。》
《2 焦って何者なのかを思い出そうとする童子式神。 思い出せずもんもんとする。式神が自らの正体を忘れてしまうことは珍しくなく、式神システムから抜け出せなくなるのを式神たちは知っていた。なのだが忘れてしまう。自らに関心が薄い分霊たちや精霊はすぐに忘れてしまうのだ。ただまさか自分が忘れてしまうとは……。寡黙は覚えているのかと聞いてみる。寡黙は覚えているといったら?童子式神は冗談を言われているのだと思いすねる。すると寡黙はクスッと笑い、目をそらすな、主に怒られるぞ。※偽物の町で出番を待っている。》
★山伏式神と鬼
「あら。これ」
山伏式神は荒れ野にこんもりとした丘を見つける。
「こんなの見たことない。出歩いてみるものね。」
「墳墓…かしら?」
「そうさ」
背後から声がして、山伏式神は誰かがやってきたのに気づく。
「あなたは」
背後にいたのは鬼神だった。
「血遅い式神よ。」山伏式神と鬼神が出会う。
「ひっ!オニっ!」驚いて縮み上がる。
「そんなにビビることないだろう?」
鬼神は薄ら笑いをうかべたまま言った。
「無理言わないでっ!魔からしたらド級の捕食者よ 人だって、なんでも食べちゃうって…」
「なんだいそれは。私はそんな存在なのかい…?フフ…、お前みたいな不味そうな奴食うものか。」
ニヤニヤ顔の鬼神に山伏式神は反論した。
「な、なによ...!……自分が何なのか分かっていないの?」
「馬鹿だな。私はオニではあるが、お前の指す餓鬼や悪鬼とは違う。」
「あ、あなた神さまなんじゃなかった?!」
ぎゃんぎゃん吠える山伏式神に、子犬を連想する鬼神。
「ここは私のテリトリーなの!!」
「早々怒るな。私だって墓参り位許されたって良い んだろう。」
「えっ」
「彼女の命日だからね。」
「彼女って恋仲…とか?」目をキラキラさせる山伏式神。
「まさか!仲は悪かったさ」
「仲悪くても 墓参りするのね…..。理解できないわ」
-彼女と私は願っていることは同じでも環境が違かった。
なによりムラを支えるのに必死だったし、私も民に尽くしたつもりさ。
それでも現実ってのは上手くいかないものだ。
私たちは結局…。私は人の道から外れて彼女は人々からこうして忘れられた。
「あなた人だったの!?」
「そんなに稀な事じゃあない。人も人ならざる者へ簡単に変じるのさ。」
「人間どもが…?信じられない。あなたも…道を踏み外すなんて…。少し興味が沸いたわ。」
「物好きだねえ?なら…話してあげよう。」
"私"という人間は数千年前まではるか遠い国からやってきた所謂渡来人だった。異国に様々な技術や知識を教える役割を担った。…"私"は全くの他人でね。彼女と同様に民に尽くしたり、文化が発展していくのに喜びを感じた。間抜けなほど未来と人を信頼していたんだ。
人間ってそういう所があるのよね。煩わしい。
彼女もそうだった。民と神を盲信していた。"私"とそっくりだ。
「そう。けど民に裏切られたのでしょう?」
ああ 裏切られたさ。今までが幻だったかのようだった。体の中にどす黒い邪悪な者が宿るぐらいに。
私は怒り、怨念と憎悪の化身。…自身を形作る感情が尽きるまで暴れ回ったよ。
それでも心体に宿り放出される、醜い塊はなくならなかった。裏切った民を苦しめ、共に耕した自然をケガし……自らが築いたものを台無しにした。
やがてどす黒い者は私になり、人ならざる者となり、鎮められた。神に祀りあげられたんだ。
よくある話さ。(場面が現実に戻る。)
2人は無言のまま墳墓を眺める。
「もう一人の…「彼女」はどうなったの?」
「もしかしたら私と同じく未練たらしくバケモノに変じているかもな…。くくく…。」
「アレがそうコロッと輪廻に還るようには思えんからね。」
「そ、そう。」化け物じみた笑みにビクビクする山伏式神。鬼は一度真顔になり、
「現世の墓参りとやらをやってみたくてね。」
「……。神様ってこんな感じなのかしら。」
「さあ、私も神様を長くやってないから分からんね。ただ、故人を弔う気持ちはある。奴らにはないが、私にはある。」
「神でも人でもない、あなたは確かに"鬼"だわ。」
鬼は伏し目がちに「だろう。」と肯定した。
「アイツはどう思うか分からないけれどね。」
巫女のコマに繋がる。
※縄文時代末期(3200年前?:気候は寒い)から弥生時代の間。神世の巫女は古代の巫女の格好。鬼は周の戦国時代の服装(深衣)か?
★ネーハ
3 いきなり背後に気配を感じとっさに振り向くと胸ぐらを捕まれる。「お前が主の精神を汚染している式神か」護法童子ネーハが登場。童子式神は主に式神システムを教えた行為を悪いとは思っていない。寡黙は童子式神がこれまで再び分霊になると言う願いにしか意識を向けず、他は無頓着なことへ警鐘を鳴らす。
4 主の目的を明かす。《主さまは人でありながら人を憎んでいた。たまにそういう人間がいるが、主さまもそのような人間だった。また主さまは理不尽な運命の定めを「神」を憎んでいた。人によくある理不尽な恨みを世界へ向けていた。人は神に身勝手な願望を抱きやすい生き物主さまもそうだ。特殊なことじゃない。でも主さまの魂は何か異質なものを宿している起爆剤を与えれば…(※)。話を戻そう。運命の悪戯なんてものはないあっしはそう思っている。
主さまは人へ干渉する神の存在を確信した。ならば干渉を拒み、魔や人だけで「運命」を左右する楽園を作ろう。人も魔も同じ位置についていたはずの、言わば原始の頃のような楽園へ。原始を満たしていた虚無こそが真実だと。いつだか誰かが式神システムを決めたように、自分がルールを定めれば。
あっしは主さまの精神を汚染している?いや、主さまは元から歪んでいたのだ。あっしと主さまは歪んだ者同士惹きあった。あっしと主さまの
利害が一致しただけのこと。》主は有家鳥子によって処分を言い渡される。主は精神的に不安定で童子式神に依存している。※式神システムを教え、魂を食べてしまうことでさっちんが産まれるきっかけになってしまう。
5 ネーハが寡黙と対峙する。ネーハは主(人間)に悪いモノが憑いているので祓うために派遣されたという。悪いモノというのは童子式神で、こいつを消すか、主と契約破棄させろと迫ってくる。吾輩らは2匹で主さまに仕える式神であり、どちらかが欠けては存在価値がないといい、契約破棄はさせないと寡黙。寡黙は童子式神にしたいようにしろ(※吾輩の使命はそちを砕くこと、なので使命がなくなるのは許せない)とネーハを突っぱねる。反発したネーハ「主となっている人間が苦しんでいるというのにか?お前の使命とやらはそんなものなのか?(※ネーハは寡黙がスパイだということを知っている)」をしめ縄ブロックで退散させる寡黙。見直す童子式神。ネーハはこの先どうなってもしらないぞ、と警告する。吾輩らは主の赴くまま、滅びようとも、それを承諾するまでじゃ。これは違う打つ手が必要だと、退散していく。
6
「恐れ入りながら有屋様の命令を叶える事は出来ませんでした。彼らは消滅も契約破棄も認めぬと…」
「どうせこちらの要求を飲まないと分かっていたわ。ネーハ、あなた」
「そのネーハと呼ぶのをやめてくれませんか。」
「何言ってるの。あなたネーハでしょ。」
「ええ…」
「それにしても心外だわ。アレが悪神を肯定するなど、ましてや女神の命令を裏切るなんて起こってはならない事態よ。」
「…どうしますか。あの式神の方も始末しますか?」
「いいえ。こちらも心外な方法で童子式神を滅せればいい。それがアレへの罰。いいかしら?」
「はい。」
「滅する方法は臨機応変に練りましょう。式神であるからには、本体を攻撃すればいいのだろうけれど…アレが許しはしない。そうね…本体、分霊だった頃の象徴で何かしたらどうかしら。」
「…それは。象徴は分霊にとってなにより大切な物ですが…。」
「ええ、だからこそよ。私は悪神が跋扈していた時代を生きていない。最近封じられていた怨霊が目覚めたって噂を聞いたわ。ソイツなら-何かしら動くに決まっている。情報を盗みなさい、ネーハ。」
「はい。」
「お利口さんだわ。」
「…はい。」
《ネーハ、有家に結果を報告。有家がネーハと呼ぶ。有家はどうせ童子式神はこちらの要求を飲まないと分かっていた。ただ寡黙が童子式神にしたいようにしろと言ったのは心外だった。ましてや女神の命令を裏切るなんて起こってはならない事態よ。ならこちらも心外な方法で童子式神を滅せればいい。それが寡黙への罰だ。
滅する方法は臨機応変に練りましょう。式神であるからには、本体を攻撃すればいいのだろうけれど…アレが許しはしない。そうね…本体、分霊だった頃の象徴で何かしたらどうかしら。ネーハは分霊の象徴はなにより大切な物だと、恐れと焦りを浮かべる。私は悪神が跋扈していた時代を生きていない。最近封じられていた怨霊が目覚めたって噂を聞いたわ。ソイツなら-何かしら動くに決まっている。生き証人から情報を盗めばいい、と有屋鳥子はいう。冷や汗を流しながらも承諾するネーハ。》




