第3話
どれだけ待ってもあの人はもう駅に現れない。
家も、もう私の居場所もなく、別の人が住んでいる
彼女はこの世から消えてしまったのだ。
「電車に飛び込んだみたいでさ……」
言っても分からないよなぁ、なんて、最初にあった時より歳をとった駅員が、私に話しかけた。
残念ながら分かっている。
全て分かっている。
けれど、私はなんとか食いつないで、毎日駅に行った。
現実が受け入れられないから、なんて問題じゃない。
あの人はこの世から消えてなかったのだ。
毎日、同じ時間に駅に現れて、私を見つけてほっとした顔をする。
声も出さずに泣いて、じっと私を見ている。
私は、私の言葉で「もう泣かなくていいんだよ」となんとか伝えようとした。
けれど、あの人は私を撫でようともせず、近寄ろうともせず、いつも「ごめんね」と言い残して消えた。
もうあなたは、この世には戻れないのに。
伝えるすべがない。
誰もあの人を見えていない。
けれど、あの時間のほんのひと時だけ、彼女は駅に現れて、いつも不安そうに辺りを見渡していた。
私を探しているのか、恋人を探しているのか、それは分からない。
でも、たった一瞬でも、ほっとした顔を見れるなら、もうなにもいらない。
私は飼い犬ではなくなり、野犬になった。
たまに追いかけられたりしたが、駅員に助けられる時もあった。
駅員が「うちに来てみないか」と言った。
私も少しは心が揺らいだのだが、あとに続く言葉に砕かれる。
「もういないご主人を待たなくていいんだよ」
そう、彼女は私にしか見えないのだ。
恋人だって最後まで私はその姿を見なかった。
私ししか、あの安堵の表情を守れない。
駅員に連れて行かれそうになったが逃げ出した。
彼は無理には私を追わなかったが、どう許可を取ったのか、私にご飯を用意してくれるようになった。
それが目当てで通ってる野良犬がいると噂された。
なんだっていい。
今日もあの人は変わらぬ姿で現れるのだから。
「ごめんね」
同じ声だ。
でももう、なんの香りもしない。
それは存在してないということで、でも目の前にいて。
私もだいぶおかしな犬だとは思う。
そんなことを思いながら、時が許すまで通った。
そういえば前の犬とやらは彼女を迎えに来てあげないのだろうか。
前の犬、しっかりしろよ。
お前しかあちらの世界にいないはずなのに。
なんて思っていたある日のこと。




