六節
ケルベロスが灰になって燃え尽きた後、黒いコートの人物はこっちを向いてから言った
「あっちーーー」
三人は「はぁ?」と言わんばかりの顔でその人物を見た
「やっぱり真夏にコートはヤバイな」
と言ってでっかいコートを脱ぐ
深いパーカーのようなコートだったので顔が見えなかったが、そのコートを脱ぐことで
その顔が明らかになった
「あっ!」
最初に口を開いたのは沙耶だった
黒いコートの男の顔はきれいというよりはカッコいいがあてはまるものだった
だが顔の端端に残る傷跡がいくつもの死線を越えてきたのを物語っていた
だが、沙耶の反応したとこはそれでは、ない・・・
その青年の顔を見てものすごい懐かしさがこみ上げてきたのだった・・・・
「そこを動くなぁぁぁぁぁ!」
突然に聞こえてくる学年主任の声その手にはすでに黄色の本を携えていた
その本には「ボルク」と赤い文字で書かれている
「筒井先生!」
「やめたほうがいいですよ」
「命を無駄にすることはないですよ」
周囲の生徒に促されるが、筒井という教師は無視して言う
「沙耶さん!瀬良さん!瑪瑙さん!その男から離れてください!」
清楚な顔立ちの学年主任の声が上がる
「沙耶さん・瑪瑙さん、いったん離れましょう。」
瀬良が言う
「グラン・テスカ」
言うと同時に瀬良と沙耶と千春の足元から木がニョルニョルっと生えてきて三人を学年主任の元に運ぶ
「何だ?一体?」
黒いコートの少年は?マークを頭に浮かべそうなまでにこの状況を把握しようと必死になっている
「あなたは一体何者なのですか!」
学年主任の叫ぶような質問の後に少年は
「何者かって聞かれたら・・・・何者だろうなぁ俺は・・」
少年は少し苦笑しながら言う
「何者かわからないって・・」
この場に居る者全員が「なんじゃそりゃ、」と感じただろう
「ではあなたの所属校名は何ですか?宝典の所持者ならばどこかの養成学校の人間でしょう?」
「所属校って聞かれても・・・・」
少年は首をかしげるだけでてんで話がわかってないようだ。
沙耶はずっとその少年を見つめていた、不意にその少年に問いかけた・・・
「あなたの・・名前は?」
「はい?」
少年はあっけにとられた
「だから・・お名前はなんでしょうか?」
「あ・名前ね」
少年は一息置くと答えた
「響 恭司だ」
「「えっ!」」
瀬良と千春が同時に言った
その瞬間沙耶の頭の中で懐かしさと思い出がはじけた
知らず知らず少女の瞳から大粒の涙が溢れ出し
そのまま反射で目の前の少年に向かって駆け出した!
早く一秒でもその少年に触れたい一心で
ガシッ!!
少女は恭司に抱きついて大声で泣いた
「き・・・きょ・・きょうちゃぁぁーん!!!」
「なっ・なな・・なんだっ!!」
恭司は思いっきり動揺していた
「きょうちゃぁぁぁーーん!」
少女は今までないくらいに泣いた
瀬良と千春が恭司の前に出ると、瀬良が言った
「時雨 沙耶という名前に覚えは?」
それを聞いたと同時に恭司の脳裏にある少女の姿が浮かぶ・・・
泣き虫で・・・弱くて・・・ほっとけない少女
だからいつも恭司はその少女を助けていた・・励ましていた
「じゃあ・・こいつが?」
それを聞いて千春が涙を浮かべながらうなずく
「はい」
恭司は自分の腕の中の少女を見やる
そして言った
「い〜つまで泣いてんだ、この泣き沙耶」
恭司が幼い頃沙耶をからかうために呼んでいた呼び名
「そっ・・・そんな事言わないでください」
沙耶が嗚咽を漏らしながら言う
「じゅっ・・十年も探したんですよぉ」
恭司は涙でクシャクシャになった沙耶の顔をコートで拭いてやって言った
「ごめん・・・ただいま・・・」
少し恥ずかしがりながら言った
沙耶は笑顔になって言った
「おかえりなさい・・・」
よければ何か一言お願いします・・・




