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妖魔夜行絵巻  作者: 小野セージ
しょうけら
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40.空想の翼

 先ほど言った通りこの集落は歴史だけは古くて、集落の人々はそれを誇りに思って暮らしている。だからこそ、血筋や集落の存続にうるさく口出しをしてくる人も多かった。

 祖父はまさにその典型、保守的で考え方が古い人だった。自分が正しいと思ったことは譲らず、頑固で意固地(いこじ)。母さまを集落の存続のための道具にしたように、私も祖父にかかれば将来跡継ぎとなる男の子を産ませるための道具でしかなかった。

 私は集落で唯一の子供であったから、婿を取るなら母さまの時みたいに集落の外から男を連れてこなければならない。そのためにも、私は祖父が思うとても古くさい「理想の女」であることを求められた。

 私には娯楽になるようなものは何一つ与えられなかった。テレビは決められた時間にニュースを見るためだけのものだった。七つになる頃にはもう一部の家事手伝いなどの花嫁修業が始まっていたし、学校で悪い成績を取れば酷く怒られもした。

 それらの教育は全て将来優秀な男を婿に取るためでしかなかった。

 ただ、当時の私はそれがごく当たり前のことだと思っていた。何しろ集落で子供は私一人だけ。学校は私一人のために集落内に分校が開かれたので、境遇を比べられる友達もいなかった。

 それでも私は祖父の思った通りの「理想の女」にはなれなかった。私はことごとく祖父の期待を裏切るように育ったのだ。というのも、私は何をしていてもいつの間にか空想に(ふけ)る癖のある子供だったからだ。

 勉強をしていても、家事の手伝いをしていても、田畑の手伝いをしていても、ご飯を食べていても、なんならただ歩いている時でも、いつの間にかぼんやりと空想の翼を広げてしまう。手が止まるだけならいいけれど、時折私は空想に耽るあまり信じられないくらいの失敗をしてしまうことがあった。結果、学校のテストは散々、家事の手伝いで指を切り落としかけ、田んぼでは溺れかけ、ご飯はろくろく喉を通らず、勝手知ったる集落内の道で迷子になる、そんな有り様だった。

 それに、その想像力と友達がいない環境のせいもあったのだろう。私はずっと「空想上の友達(イマジナリーフレンド)」を相手にして遊んでいたのだ。

 私がまだ二つか三つくらいの時、大学に進学するために上京してしまってから初めて集落に一時帰省したという田端の兼嗣おじさま。人形作家になっていたおじさまは従妹の娘である私のために手作りの木彫りの人形をくれたのだ。人形は簡素なものだったけれど、私はそれをとても気に入っていて、いつも握りしめて遊んでいた。

 物心ついて学校に通うようになっても、私はそれが手放せなかった。その人形に空想上の友達を投影して一緒に野山を駆けまわる想像をして遊んでいたのだった。

 空想上の友達を作ることは、幼い子供にはまれにあることなのだけれど、そんな私を祖父や集落の人たちは気味悪がって腫れ物のように扱った。いつの間にか花嫁修業も熱心な教育もなくなっていって、代わりに私は自由に想像に(ひた)る時間を手に入れたのだ。

 だけど、それでも当時の私は世の中に教科書以外の本があるなんて知りもしなかったし、自分の想像を文章にして本を出す仕事があることも知らなかった。

 それを教えてくれたのは全部「あの夏のお姉さん」だ。

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