30.魔女は嘘をつかない
「はいはい、みんな、そのくらいにしましょ」
そんな私の様子を見かねたのか、マリアさんはまた両手を打ってその場の視線を集めた。
「彬ちゃん、ごめんなさいね。この子たちに悪気はないのよ。ただ、嘘がつけないだけで……」
「はぁ……」
ああ、つまりマリアさんもこの三人と同じように思ってるってことですね。
私は止めを刺された気分で俯く。私が美容に疎いことも何の努力もしてこなかったことも確かなことだ。仕方が無いのかも知れないけれど、それでもやっぱりこんなにはっきりと言われてしまうとちょっとヘコむ。
椅子に座ったまま鬱々とした雰囲気を醸していた私。そのあまり良くない雰囲気を察知したのか、マリアさんは宥めるような声をかけてきた。
「でも、この子たちからこんなに褒め言葉が出るのも珍しいのよ? それにアタシにも、あなたはとても良質なダイヤの原石に見えるわ」
「……お世辞はよしてください。そんなことあり得ないのは、自分でも解ってるんですから……」
私は気遣われているのだと解る情けなさや恥ずかしさに頬を赤くして、心配そうに覗き込んできてくれたマリアさんから視線を外す。ああ私、今、更に輪を掛けて可愛くないな。
そんな可愛くない私を前に、マリアさんは少し困ったように考える仕草をした。
ああ、気分を害してしまったかもしれない。マリアさんや桜さんたちにも、連れてきてくれた鞍馬さんにも申し訳ないな。
そう思っていると、マリアさんはカツカツとヒールの音を響かせてテーブルの縁を回って私の目の前にやってくる。それでも私は情けなさにマリアさんを見ることが出来ないでいた。
だけど。
「!?」
マリアさんはぐいと私の両頬をその手で挟んで強引に自分の方を向かせた。びっくりして見開く私の瞳と、真っ直ぐに私を射貫くマリアさんの瞳がかち合う。
怒られるかしら、と思った。こんなうじうじとしたいじけた人間は、マリアさんみたいなカラッとした人は嫌いだろう。
でも、私の予想に反して、彼はとびきりの笑顔で言ったのだ。
「あら、心外ね。アタシは美容の魔女。そして彼女たちはその弟子よ? こと美容に関してアタシたちは絶対に嘘は言わないわ」
それは眠っている時にぱっとカーテンが開けられて目が覚める時のような感覚だった。私はぱちぱちと目を瞬かせて、マリアさんの目を見ている。
「アタシたちを信じて、任せてくれるかしら?」
そう言って、マリアさんは私の顔を固定していた手を放して、頬に張り付いてしまった髪を手ぐしで整えてくれた。
私の心は複雑な気持ちが入り交じり、混乱状態だ。でも、私は自分の心をずっと締め上げていた惨めな心持ちが払拭されていることに気付く。
つくづく、マリアさんは不思議な人だ。
「その……絵のモデルは私じゃないといけないんですか?」
私は目の前のマリアさんと、窓際でことの顛末を見ていた鞍馬さんに視線を送って訊ねる。
「そうだな」
答えてくれたのは鞍馬さんだった。鞍馬さんは部屋の出窓の枠に腰掛け、腕組みをしながら大きく頷く。
「つまり、私の今の窮状を打開するには私が鞍馬さんの絵のモデルにならないといけないというんですね」
「……そうだな」
再度の私の問いかけにも、彼は少し間を置いて頷く。
その答えを聞いた私は、心を落ち着かせるために胸に手を置いて大きく深呼吸をした。
私が変わらなければいけないらしいことと、鞍馬さんが私を絵のモデルにしようとしていることの関係性は何となく解る。絵のモデルが私と決まっているならば、大半の人が多少でも見た目がマシな方がいいと言うだろう。だけど、私は未だに私が鞍馬さんの絵のモデルになることと、いまも私の死角から湿った視線を投げかけてきている気配の主を撃退することの関連性が見当たらないのだった。
だけど、私は決めた。鞍馬さんを、マリアさんを信じることを。
だって私にはもうこの気配と視線の主に対して打つ手は何も無いのだ。ならば賭けでもいい、この人たちを信じてみよう。
ぎゅっと手指を握りしめ、その場に揃ってくれた人たちを一人一人見つめる。
そうしてから、私は立ち上がり深く頭を下げた。
「わかりました、よろしくお願いします……」




