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妖魔夜行絵巻  作者: 小野セージ
しょうけら
34/64

29.アゲてオトして、三人娘

「うちで修行しながらアタシのスタイリングも担当してくれてる子たちよ。ロングパーマの子が(さくら)、ハーフアップボブの子が(かえで)、ショートカットの子が椿(つばき)ね」

「「「お見知りおきを」」」

 一糸乱れぬ所作(しょさ)で頭を下げてくれる彼女たちに、私はばっちり気圧(けお)されてしまう。それを気取(けど)られたのだろうか、初めて彼女たちの中の一人……えーと、ロングパーマの人だから、桜さんだろうか……が単独行動に出る。桜さんはくすっと小さく微笑んでテーブルの周りをつかつかと回って私の背後に来ると、そこにいた鞍馬さんを押しのけるような勢いで私に近づき、大胆かつ丁寧な手つきで私の髪に触れた。

「ひっ!?」

「まあ、さらさらの御髪(おぐし)。細くて、しなやかで、まるで絹糸みたいですわ」

 桜さんはそう言いながら私の後頭部の髪を撫で付けてそう褒めてくれる。今まで髪質を褒められたことなんて一度もなかった私は、かあっと頬を染めて首を(すく)め、貝になったように押し黙ってしまう。

 だけど桜さんの評はそれでは終わらなかった。

「でも、残念ですわね。シャンプーで洗いざらして三つ編みにしただけ。リンスもトリートメントもされていないのはなんだか髪が可哀想ですわ。それに長い間髪を切られていないせいか、毛先も痛んで乱れています」

 次は嵐のように駄目出しされて、私はますます唇を引き結んで恐縮するしかない。

 そうしていると、次は自分の番だとでも言うようにハーフアップボブの楓さんが私の元にやってくると、今度は私の頬を撫でるように手で触れた。

「ひえっ!?」

「うん、肌理(きめ)も張りも透明感も素晴らしいね。色白だから、まるでマシュマロを触っているようだ」

 楓さんのねっとりとした手つきで頬を触られて、私はまた軽く声をあげてしまう。

 だけどそれでも楓さんはその手を引っ込めようとはせず、更に私の頬を撫で上げる。そして桜さん同様に今度は私の肌の駄目な部分を挙げていった。

「だけど、日頃のスキンケアを(おこた)っていないかい? 少し乾燥気味だね。それに、寝不足なのかな。目の下に薄らと(くま)が見えるね」

「……えと、それは……きゃあっ!?」

 寝不足には理由がある。どう言ったものかは解らなかったけれど、私は反射的に説明しようとして、その口から今度こそ悲鳴をあげた。だって最後に残っていたショートカットの椿さんが……私の胸の上に手を置くようにして触れてきたからだ。

「ななななな、にゃにを……!?」

「あはは、すっごーい。最初はちょっと痩せすぎかなーと思ったけど、しっかり必要なとこには肉がついてるのね」

 同性とはいえ初対面の人に胸を触られた羞恥と混乱に、私は思いっきり咬んだけれど、椿さんはにこにこと無邪気に笑うばかりだ。 

「うん、体型は申し分ないけど、そのジャージと眼鏡はもう目も当てられないなー。美容の魔女たるマリアさまの屋敷の敷居を芋ジャージ(まと)って(また)いだのは、きっと貴方が初めてよ!」

 そしてやはりすっぱりと駄目出しをしてくる。

 三者三様に私を上げて落とすのはなんなのだろうか。

 私は他人に褒められたこともなかったけれど、面と向かって(けな)されるのも久しぶりで、ずーんと音がしそうな位に落ち込んでしまう。

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