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妖魔夜行絵巻  作者: 小野セージ
しょうけら
33/64

28.そういうことって、どういうこと?

「えっ……? ど、どういう意味です!?」

 鞍馬さんのあまりに唐突な言葉に、私は思わずぱちぱちと瞬きをしてから目を剥いて背後にいる彼を見上げた。

 絵? モデル? 何もかも初耳だった。

 だけど鞍馬さんは相変わらず私のことなんて全く見ていない。ただ、緊張したような真剣な目でマリアさんを見ているだけだ。

 状況も自分の立場も解らなくなってしまった私は、助けを求めるようにマリアさんに視線を送った。だけどマリアさんも私のその視線には曖昧な表情を返してくれただけで、すぐに鞍馬さんと同じような真面目な顔になって試すように彼を見つめる。

 しばらく、その場を静寂が支配した。不用意に触れれば切り裂かれてしまいそうなくらい真剣な顔で見つめ合う鞍馬さんとマリアさん。私はぽかんとした間抜けな顔で二人の顔を交互に眺めることしかできなかった。

「そう、覚悟は決まってるのね?」

「ああ……」

 ややあって、マリアさんは重く長い息を吐いて呟く。その声に応えるように、鞍馬さんもぎこちなく、しかし確実に頷いた。椅子の背もたれに掛けた鞍馬さんの手指がぎゅっと固く握られたのが解った。

 その鞍馬さんの様子を見てマリアさんは少し考えるような表情をしたけれど、すぐに両手を優しく合わせて表情を緩め、華やかな微笑みを取り戻す。

「……そう、ならアタシも協力しないわけにはいかないわね!」

 努めて元気よくそう言ったマリアさんに、鞍馬さんは少しだけ申し訳なさそうな顔をしたけれど、すぐに照れくさそうに微笑んだ。

「……万次郎、ありがとな」

「もうっ、その名前で呼ばないでって何度言ったら解るのよ!」

 二人の間で、どうやら話はついたようだった。けれど、私は相変わらず蚊帳(かや)(そと)だ。私には何も事情がわからない。

「あ、あの……」

 入り込めない空気の中、私が勇気をだして二人の会話に割り込もうとしたその時、マリアさんがふいに私の方へと視線を寄越した。急なことに、私はどきりとする。

「そういうことだから、彬ちゃん。少し美容のお勉強しましょうか!」

 何がそういうことなのか解らないが、にっこりと持ち前のチャーミングでゴージャスな笑顔でマリアさんは私に告げた。しかしそれは、ただの決定事項の通達だった。私には何の説明も決定権もない。

「へ……!? あ、あの……?」

 結局、咄嗟に私の口を突いたのはそんな驚きと困惑の声だけ。何も解らずにおろおろとすることしか出来ない。

「大丈夫よ、うちの子たちは腕がいいから、何も心配いらないわ」

「……うちの子たち?」

 また新しく得体の知れない人物が話題に登場して、私は思わず身構えてしまう。

 うちの子たち……。マリアさんのお子さんたちという意味にも取れるけど、彼の口調から感じるにそういう意味ではなさそうだ。彼の口調からは他人であるが故に強い信頼で結ばれた関係がうかがえた。

 私がその結論に達するのを待っていたかのように、少し間を取ったマリアさんはすっと両手を上げてパンパンと打ち鳴らして見せる。すると、間髪を入れずサロンの入り口の扉が開き、お揃いのパンツスタイルの制服に身を包んだ三人の女性が楚々とした立ち振る舞いで部屋に乱入してきて、マリアさんの後ろに並び立った。

「……!?」

 驚いた。今までどこに控えて居たのだろうか、気配すらも感じなかった。よく見れば、彼女たちは髪型こそそれぞれ違ったが、顔や体型は「もしかしたら良く出来た人形なのでは?」と思ってしまうくらい似通っていた。三つ子なのかも知れない。

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