表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖魔夜行絵巻  作者: 小野セージ
しょうけら
22/64

19.崩れ落ちる塔 ―Reverse―

 茫然自失(ぼうぜんじしつ)としていたのはどれくらいの間だったろうか。

 私の手から滑り落ちた携帯電話がまだツーツーという不通音をたてていたことを考えると、それほど時間は経っていないようだ。

 だけど私にとってはとても……とてもとても長い間に感じられた。

 遅ればせながらのろのろと床に落ちた携帯電話を拾い上げた私。唇は震えていて、その思考はぐちゃぐちゃにかき混ぜられたように乱れていた。叫び声を上げたい気分だ。

 だけど、最後の理性で私はそれをぐっと呑み込んでしまう。

 いっそ気が狂ったように泣き、叫び声を上げられたら楽なのに。でも私にはそれはできなかった。

 それにしても、黒野さんに電話が通じないのはどういうことなのだろう。

 いや、ただ単に通じないだけではない。いつの間にか黒野さんの回線が使われていないことになっている。登録してある番号にかけたのだから、番号を間違えたということもないはずなのに……。

 これも、不可解でオカルトじみたこの一連の現象に由来するものなのだろうか。それとも、本当に黒野さんが回線を解約してしまったのだろうか。

 ……解らない。

 なんにせよ、私にはこれ以上の打つ手がなくなってしまった。

 私はぶるりと肩を震わせてから、手にしていた携帯を元の位置に戻すとそのまま前につんのめるように机の上に体を投げ出した。ちゃちな折りたたみ机は私の上半身の体重にも耐えきれないのか、ギシリと音をたててたわんだが、私は気にしなかった。

 だって、いまのままなら私はいつまで正気を保っていられるのかわからない。それどころか、不眠がこれ以上蓄積すれば命を落とすことだってあるかも知れない。気配と視線の主がこの悪趣味な観察ごっこに飽きて直接私に害を為さないとも限らない。そんな状況で何を気にすることがあるというのか。

 それは達観(たっかん)だったのだろうか、それともただの自棄(やけ)だったのか。

 だけど、私がますます机に体重をかけたその時、たわんで水平が失われた机の上に積まれていた本の塔が滑り崩れて私の頭の上へとバサバサと降り注いだ。

「痛ッ!」

 たまらず、私は顔を上げて自分の頭に手をやった。どうやら一番重たい本のカドが私の後頭部に直撃したらしく、涙が出そうになるくらい痛かった。

 私はしばらく痛みを堪えるのに必死で、目を閉じて動けずにいた。しかし、ようやく堪えきって顔を上げた時私は目の前に白いものが落ちているのに気付く。

 私の目前、顔を上げた時に一番に見ることになる場所に、一枚の白い紙片が落ちていたのだ。そこには癖の強い字で大きく「しょうけら」と書かれている。

 それはあの顔合わせの時に草壁氏に貰った名刺だ。そういえば机の上に積み上げていた図書館で借りてきた本にしおり代わりに挟んでいたのだった気がする。積まれていた本が崩れた拍子に滑り出てきたのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ