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伝説日和にRPG日常!  作者: 形無めつ
6/13

冒険者ギルドへ行こう②

「つ、疲れた」


クエストを達成し、疲弊した俺がギルドに戻ったのは、もう日が暮れてからだった。


こんな時間になったのは、いっぱい生えているのかと思っていたキノコが意外と少なく、色々な場所を探し回ったためかなり手こずったからだ。


もうしばらくキノコのことは考えたくない。

棒のようになった足のまま受付嬢の所まで行き、素材と依頼証を渡す。


「お疲れ様です、素材と依頼証はしっかり受け取りました。こちらが今回の報酬金です」


そう言って渡された金を俺は懐にしまう。

今は少しの金でも大切だから、しっかり管理しておこう。


そう言えば心配してた住居だが、その後住む場所がないことを話すと、俺が常に持ち歩くには大きすぎるドラゴンの卵を持ってることもあってか、容姿や格好から普通の街の住人ではないことを悟ったのか、ギルドの中にある簡易的な部屋を、あてが出来るまで住ませてくれることになった。相談してみるものだな。


「困ったときはお互い様です」と言った時の彼女の笑顔は俺が今まで見た誰かの笑顔の中で一番輝いていた、マジ天使。この恩は一生忘れません。


部屋に入ると、俺は隅の方に卵を置いてから、いかにもマットレスが悪そうなベッドに横になる。


案の定固くて、お世辞にも快適とは言えないが、簡易的に生活さえできればまあ良いだろう。

夜更かししてやるようなパソコンやゲーム機は無いので、潔く寝ることにする。

明日からもっと大変になる。なんとか頑張ろう。

俺は目をつぶると、今までの冒険をセーブするために全ての思考をシャットアウトした。




そこから俺は簡単なクエストをこなしてはギルドで寝るという、割と勤勉な生活サイクルを送っていた。

クエストを受けては達成してからギルドに報告し、そのままクエストを再度受注して達成し報告する、その繰り返しだ。ゲームで周回をしている時と心境的にも状況的にもほぼほぼ同じである。


今までの俺では有り得ないくらい働いてるが、それは真面目になったのではない。

俺が最低限度の生活を送る努力はしようという割り切りができる人間だっただけだ。


後から聞いたが、この街の名前は『スタート』というらしい。


名前が既に始まりの街だと自己主張をしているし、実際そうなんだろう。

新しく冒険者になる人間たちが最初に腕を磨く、ほかの街への足掛かりとなっている街であると、受付嬢が説明してくれた。

もしかしたらここに転生したのは、神様からの多少の配慮があったのかもしれない。


しかしそんな初級者用の村でも苦労は絶えない。

ちなみに最近受けた依頼で大変だったのは、ペットとして飼われていたが行方不明になっている、ファイアリザードというトカゲを探すというものだ。

見つけて追いかけるところまでは良かった。


しかし、木の上に登られてしまったので俺のなけなしの筋力で登ったのだが、捕まえる直前に火を噴きつけられて危うく俺の頭が全焼するところだった。


そんなストイックを生活を強いられている俺が、冒険者として初めて働いてみて分かったことだが、どれだけ働いても稼いだ金は基本生活資金として消えていく。ほとんど手元には残らない。

食事、生活必需品、そして神様から貰ったドラゴンの卵の世話などで必要な金、正直かなり辛いのだ。 

       

幸いなのは俺が安全な依頼しか受けないために防具や武器などが必要ない事ぐらいだろうか。


「今日もお疲れ様です。コーヒー淹れたので、良ければどうぞ」


そして受付嬢が初心者の俺にかなり優しく接してくれるので、とても過ごしやすい。

冒険者という仕事自体に目を瞑れば、きっと俺の労働環境って割と恵まれている方なんだな。

白い陶器のカップの中に注がれた、湯気が立つ黒い液体。

その湯気に乗って漂ってくる香りに、心を奪われる。


「ありがとうございます」


俺は差し出されたコーヒーを受け取って一口啜った。

暖かいコーヒーが疲れていた心に染み渡り、死んでいた体に生気が戻ってきた。

何故だろう、今まで苦いとしか思わなかったコーヒーが美味しく感じられる。これが異世界補正か。いや、受付嬢の実力なんだろうな。


俺なんかがコーヒーを美味しく感じるほど浄化されるなんて受付嬢の前世は天使かろ過装置のどちらかだな。恐ろしい子だ。

テーブルに座って一息ついているとふと思った。


「俺は何をしてるんだ?」


俺がイメージしている普通の異世界転生なら、もっとすごい大きな展開が待っているのが大体の流れだ。


その一方で俺が何をしているかと聞かれれば目的もなく依頼を受け、ここでこうしてコーヒーを啜って黄昏れている。


もちろんこの世界に何か大きな展開があったとしても自ら何か行動を起こすつもりはないし、そもそもチート能力を受け取らなかった俺が悪いんだが、一体これで異世界生活

というものは正解なのだろうか。


「まあ、そんなのどうでも良いか」


正直、正解とか不正解とか考えるのも馬鹿馬鹿しくて面倒臭いので、俺はその日は街にあった市場で安い価格で買えた炎の魔鉱石なるほんのり赤く光る石を、孵化を早めるために卵の周りに置いて暖めると大人しく布団に入って寝た。


だが、コーヒーを飲んだから目が冴えてあまり寝れなかったことは、間違いなく不正解だったと後悔している。

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