その日になって。
そして、その日が来るのは意外と早かった。
(ゆみり、遅いなぁ………………)
玄関の前でトントンと靴を打ち鳴らす。けど、オズの魔法使いじゃあるまいし、そんなことでゆみりが目の前に現れるわけ―――
「おはよ、すずちゃん」
あ、出た。
「おはよ、ゆみり。うんうん、ちゃんとお寝坊さんしないで来れたね。」
よしよし、と頭を撫でると、案の定ゆみりが不機嫌になる。
「むぅぅ………………なんか子供扱いされてるよぉ………………いつかすずちゃんよりおっきくなってナデナデしかえしてやる………………」
「いや身長ならいくらでも分けてあげるって」
伸びるだけ面倒だし。
「ほんと? ならちょうだい」
ぐいぐいと足を引っ張るゆみり。いや、外れないからね?流石に。
「っと、そんなことより」
ゆみりのことを、上から下まで眺める。
「うん、私服もかわいいよ」
前が開いたコートの下は、クマさんのトレーナーに赤のスカート。もこっとしたピンクのファーコートの下からは、黒いタイツに包まれたむっちり気味の足が覗く。
「えへへ、そうかな?」
照れるゆみり。ほんのりほっぺは桜色。
「じゃ、行こっか。バスが来るまで少し待つみたいだけど………………折角だし、次のバス停まで歩こうか」
「うんっ」
とっとっとっとかけ出したゆみりのことをゆっくりと歩きながら追う。
「ゆみりは朝から元気だねぇ」
「だってお出かけだよ? わたし、ワクワクしてて昨日はなかなか寝れなかったもん。今朝もごはんは一杯しか食べられなかったし」
「いや、ごはんは普通じゃない? 」
「ほえ?」
ゆみりがきょとんとする。
「ほらほら前見てっ、転ぶよ?」
「おわっ、とっと、」
案の定電柱とごっつんこしそうになる。
「もうっ、ゆみりったら。」
危なっかしいなぁもう。
ゆみりのフリーな右手をぎゅっと握りしめて手を繋ぐ。
「わわっ、すずちゃん!?」
「ほら、離しちゃだめだよ。ゆみりは危なっかしいから」
「こ、子供じゃないよっ」
ぶんぶんと腕を振って、ゆみりが振り払おうとする。それに対抗して僕の方も一層ぎゅっとゆみりの手のひらを握りしめる。
「い、いたいっ、すずちゃん、力つわすぎっ」
「おっとと、ごめんごめん」
慌てて手を離すと、しめたとばかりにゆみりがとっとこ走り出す。
「あっ、だましたなゆみりっ」
「だましてないよーだっ。それに、お手手繋がなくても迷子になったりしないよっ」
「ほんとかなぁ………………?」
ゆみりだからなぁ………………とちょっと不安になりつつも、ぼくもゆみりのあとを追いかけた。