私の過去。
八話目にしてゆみりちゃん視点です
「………………ん、すずちゃん、………………落ち着いた?」
「うん………………ありがと、ゆみり。」
私の頭が軽くなって、すずちゃんが頭を起こしたんだってわかる。
「すずちゃん、こっち向いて?」
ベッドから立ち上がると、持っていたハンカチですずちゃんの顔を拭いてあげる。
「ゆ、ゆみり、いいって、拭かないだって………………」
「ダーメ、色々と大変なことになってるからっ」
いつもはきりりっとしたすずちゃんの顔が、今は赤くなって涙でゆるゆる。
「………………取り乱しちゃって、ごめん。」
「ん、いいよいいよっ。………………すずちゃんのことを、よく知れたし。」
申し訳なさそうに視線を伏せるすずちゃんのことが、なんだか可愛くなって、
「………………よしよし、すずちゃんいい子いい子っ」
頭を抱っこして、ふかふかナデナデする。
「ゆ、ゆみりっ、………………さ、流石にこれは恥ずかしいし………………ぼくはちっちゃい子じゃないんだからっ/////」
「ふふふっ、すずちゃんかーわいっ」
更にナデナデすると、限界に達したすずちゃんが強引に逃げ出す。
「………………ふぅ………………ゆみりはぼくのことをなんだと………………」
「いや、なんとなくすずちゃんのことが可愛く思えて………………妹ってこんな感じなのかなぁ」
「妹って………………まぁゆみりより遅く生まれたかもしれないけどさ………………」
「あれ、すずちゃんって何月生まれ?」
「ん、10月………………ゆみりは?」
「私は5月だよ〜、ってことは、すずちゃんより半年お姉さんだね」
すかさずナデナデしようと手を伸ばすと、あっさりと避けられる。ちぇっ。
「………………まぁ、ゆみりが姉ってのは………………うん、いいかも?」
「でしょ? 私もすずちゃんみたいな妹が欲しかったな〜」
「………………それは確かに。晩御飯のニンジンとか押し付ける相手としてちょうどいいし。」
「もう………………私をなんだと思ってるのぉ………………好き嫌いは無いけど………………」
「え、マジで? そんな人ほんとに居たんだぁ………………」
「いるよぉ………………あ、でもね。私は食べること自体が嫌いになったことがあるんだ。」
「へぇ………………ゆみりが? ………………信じられないや」
「確かに今の私からは信じられないかもねぇ。でもね、ほんとなんだ。」
またすずちゃんの隣にぽふっと座り直して、過去のことを手繰り寄せていく。
「わぁい、給食〜♪」
「ほんとにゆみりちゃんは、ご飯の時だけ元気だねぇ」
「だって美味しいんだもん」
そう話す間に、もうお茶碗がカラになっている。さてとっ、おかわりおかわりっ♪
「えっゆみりちゃんもう食べ終わっちゃったの!?」
「美味しいからね〜、はぁ幸せ。」
しゃもじを片手に、食缶の底からご飯をすくって山盛りにする。ついでにお味噌汁もなみなみと。
「おーい鳴瀬ー、うちらの分までたべちゃうなよー?」
「ちゃんと残しておくよぉっ」
運動部の子達の声を聞いて、一旦盛ったご飯を少し戻す。それからお茶碗達を持って自分の席に戻った。
「大丈夫ー? 次体育だよ?」
「あ、そっかぁ………………でも美味しいからいいや。ランニングだよね?」
「うん、そう。」
「嫌だなぁ………………」
そう言いつつ、食べるスピードは緩めない。結局、お代わりしたけれど他のみんなよりも早く食べ終わっちゃった。
「はぁっ………………はぁっ………………」
「おーい鳴瀬、お前だけ周回遅れてるぞー?」
「わかって、まーす………………」
ふぇぇ………………もう疲れたよぉ………………
「よーし、走り終わった順に戻っていいからな?」
そう声が飛んだ途端、みんなのスピードが増していく。そして、結局私がビリになる。
「………………あれ、みんな、居ない………………」
「おうお疲れ、じゃあ器材の片付け手伝ってくれ」
「ま、またですかぁ………………?」
うちの中学、ビリな人が片付けを手伝わされるんだよね………………で、大抵ビリは私。
「んっしょ、んっしょっと………………」
コース用の三角コーンを抱えて体育倉庫に入ると、
「へへっ、鳴瀬のやつまたビリだったじゃん」
「だねー、まぁあのデブ体型ならそうだよね」
体育倉庫の裏から聞こえてきたのは、クラスメイト達の会話で。
「しっかしよく思いついたねー、ビリにさせるために給食をたらふく食べさせるっての。」
「まぁ鳴瀬ちゃんなら食缶ごと抱えて食べてそうだし? 向こうも気が付かないだろうしね?」
「確かに。てかさー、給食なんてまともに食べてられるかっての。」
そう言うと、その子達は中身の詰まったビニール袋をゴミ箱に落とした。………………その中身が私が学校で一番好きなものだってことに、気が付きたくなかった。パイロンを取り落とすガシャンという音を号砲にして、私は逃げ出した。
次の日から、私は給食を残すようになった。そして、周りのみんなは班を作る時に、ピタリとくっつけないで私の机だけを少しずらすようになった。
「………………これが、私のお話。」
事もなさげにそう言うと、ベッドから腰を浮かす。
「………………私は、このぷにぷにな身体が好き。ご飯も好き。だけど、みんなはそれが嫌いなんだって………………ショックだったな。」
「ゆみり………………」
すずちゃんが腰を浮かす音、そして、
「………………(ぎゅむっ)」
「ほえっ!?」
私の頭を、ぎゅっぎゅっと撫でられる。
「………………さっきの仕返し。今度はぼくの番でしょ?」
「だ、だからって………………縮んじゃうからやめてぇっ」
「ん、ならこうがいい?」
その次には、そっと優しくナデナデしてくれる。
「………………………………いっぱい食べるゆみりのこと、ぼくは好きだよ? 」
「すずちゃん………………ありがと。」
そのままずっとナデナデしてもらおうと力を抜いたけど、
「………………………………え、すずちゃん、今私のことを何て」
「………………い、いや別にそんな意味じゃないからっ!?」
今度は乱雑にガシガシされるけれど、それよりも私は、さっきのすずちゃんの言葉が気になって………………なんだか不意に、ぽかぽかしてきた。