表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/47

ぽつぽつと。

ゆみりを部屋に迎え入れると、内側から鍵をかけた。

「え、どうして………………」

「うん………………ゆみりには話すけどさ、他の人にはあんまり聞かれたくない話だから………………ルームメイトには尚更ね。下手に知られてギスっても、残り2年同じ屋根の下だからちょっと困るし。」

「そ、そう………………」

ぼくのベッドに腰を下ろすと、ぼくの隣をぽんぽんと叩いてゆみりのことを呼ぶ。ゆみりは少しモジモジした後、大人しくぼくの横に腰を下ろした。

「………………これから話すこと、絶対に他のみんなには内緒だからね?」

そう前置きしてから、ぽつぽつと話し始めた。




「おーいケンヤっ、マナト、リキ、早くしろよっ」

「わーかってるよ、………………ったく、スズのやつ、なんであんなに元気なんだよ………………」

「知らねぇよ、………………っておい、スズのやつもう見えねぇぞ!?」

「マジかよっ!? おーい、スズー」

「なんだよー?」

俺―――各務 凉は、もぐっていた薮の中から顔を出す。

「おわっ!? なんつーとこに居るんだよお前………………」

「あ? 別にいいだろ。 それよりよぉ、そこのボロ屋敷見に行かね? この前壁に穴空いてんの見つけてよっ」

「えぇ、やだよ………………あんなバケモノ屋敷………………それにあそこのおっさんおっかねぇし」

「あ? リキ、おめーさては怖いんだな? まったくしょーがねーなー、なら俺一人で行ってくるぜ」

「え、おいちょっと!?」

友達三人を置き去りにして、例のボロ屋敷の探検に向かう。

「えっと、この辺がぶっ壊れてんだよな。」

ブロック塀の崩れたところを四つん這いになって潜ると、ボロ屋敷の敷地に入る。

「へへーん、この物置が怪しいんだよなっ」

その辺に転がってた牛乳ケースに足をかけて、物置の汚れた窓から中をのぞき込む。

「うおーっ、なんかよく分かんねぇけどヘンな機械がいっぱいあるっ」

ここを秘密基地にしたら面白ぇだろうなぁ、なんか忍び込める所はないかっ? ………………ん、あれ、急に空が暗くなった………………?

「おーまーえーかー?」

「うおっ!? ガミガミおやじっ!?」

「こいつっ、またお前か!! うちに忍び込んで悪さすんのはっ!! どっから入り込みやがった!!」

「へへんっ、教えてたまるかよっ」

するりと腕の間を抜けて、元きたとおりにブロック塀の穴をくぐり抜けて逃げる。

ちぇ、邪魔が入っちまったぜ。

なおこの後、しっかりと学校に通報されて後で担任と親にこっぴどく叱られて、あげくにゲンコツまで落とされた。




「―――とまぁ、小学生ぐらいの時はこんな感じだったわけで。」

「す、すずちゃんって………………なんだか、わんぱくって言うか ………………」

「………………それ以上は言わないでよ、なんか恥ずかしくなってきた。」

思えば、なんであんなに走り回ってたんだろう………………当時の僕に聞いてみたいもんだ………………多分、答えは出ないだろうけど。

「………………で、これには続きがあるんだけど………………」

目線を落として黙り込む。その先を話すのは、今のぼくには荷が重い。そんな様子を察してか、

「すずちゃん………………」

そっと、手のひらを握ってくれる。

「………………無理しないでいいよ、その先は、話したくなったらで………………」

「ゆみり………………」

ぷにぷにしたゆみりの手が、ぼくのことを温めてくれる。

「………………大丈夫、その先も、言えるから………………………………ゆみり、もうちょっとこっちに来てくれる?」

「わかった、すずちゃん。」

んしょ、っと身体を寄せてくるゆみり。………………だいぶ楽になったけど、まだ『足りない』かな………………。

「………………ゆみり、ちょっとゆみりのこと借りるよ」

「へ?」

いうが早いか、ゆみりのことを後ろからむぎゅっと抱っこする。

「わわっ、すずちゃん!?」

「………………ごめん、こうでもしないと………………話す勇気、持てなくて。………………しばらく、抱っこさせて?」

「………………いい、よっ………………」

ほんのり熱を帯びた声でゆみりが返す。

「………………ん、それじゃ、続き」




あれは、6年の始まりの頃だった。

いつものように友達3人を引き連れて遊びに行こうとすると、

「あー、スズ………………その、オレはいいよ………………」

「あ? なんだよマナト、お前こういうの好きだったじゃねえか。」

「いや、その………………」

「んー、俺もいいわ。」

「なんだよリキまで………………ケンヤは行くんだろ?」

「………………………………」

「お、おい、なんだよ………………」

異様な雰囲気に俺は後ずさる。

「なぁスズ、前から言おうと思ってたんだけど………………もうお前とは遊べないよ。」

「はぁっ!? ど、どういう事だよ、まさかうちの母ちゃんになんか言われたのか!?」

「いや、そうじゃなくて………………スズ、お前、自分のこと分かってんのかよ。」

「は? お前何を――」

「スズ………………………………お前、女じゃん」

『女じゃん』。その言葉が、私の薄い胸に突き刺さった。

「だ、だからなんだよ、女じゃ悪いのかよぉっ!?」

「こ、こっちが落ち着かねぇんだよっ、大体お前俺らの前でもタンクトップ一枚とかじゃねぇかっ、こ、こっちがドキドキしてしょうがねぇんだよっ!!」

「おい待てよ、それどういう――」

「と、とにかくもうお前とは遊べないからなっ!! ほら行くぞお前らっ」

「「お、おう………………」」

「あっ、ちょっ、待てよおいっ………………………………まて、よっ………………なんなんだよ、意味わかんねぇよ………………」

俺はそのまま、日が暮れるまでずっと立ち尽くしていた。




「………………これが顛末。この後のことは、流石にまだ言えないかな。………………まぁ大体想像つくよね、今まで女子友なんて作ったことないのにいきなり放たれて、んで孤立して。………………その時からだよ、ぼくが『女になっていく』ことを嫌い始めたの。」

「すず、ちゃん………………」

ゆみりのことを、一層強く抱きしめる。その温もりが、凍てついたぼくのことを少しでも温めてくれることを願って、ぎゅっと、ずっと強く。

「………………っと、ごめん、苦しいよね、今離すから」

「すずちゃん………………いいよ、気が済むまでずっと、ぎゅっとしてても。」

「ゆみり………………………………あり、がと………………」

ゆみりの頭に僕の頭を載せて、湧いてくる涙のフタをそっと外した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ