さらりと。
「うーーっぷ……」
「だ,大丈夫,すずちゃん……」
「お,おなかがぐるぐるするぅ……」
気を付けないと喉のとこまで上がってきそう……これが,満腹……これが,おなかいっぱい……
「だ,だから無理しないでって言ったのに……」
「む,無理はしてないよ……ほんと」
無理はしていない,ただお腹いっぱい食べるという経験がそれこそ数年ぶりだから,胃がびっくりしてるだけ。うぷっ。
「でも,ちゃんとお皿からっぽになるまで食べられたね。えらいえらい」
背伸びしてぼくの頭をなでなでしてくるのを,軽く頭を振っていなす。……嫌じゃないんだけど,なんだかぼくのことを犬かなんかだと思われてるみたいで,ちょっとね。
「それにしても,すずちゃんはお腹いっぱいかぁ。とっておいたおやつ,一緒に食べようと思ったのに」
「この期に及んでまだ食べるの……?」
ほんとに底なし沼だなぁゆみりのお腹は。
「え?ごはんの後におやつって普通じゃない?」
「それはゆみりだけだと思うよ?」
ほんとによく食べるなぁ……そんなんだから,と視線を下げてお腹周りに目を移すと,
「ふ,太ってないもんっ,すずちゃんのばかぁ」
「まだ何も言ってないんだけど……」
言おうとしたけど。言わないであげたのに。
「も,もうわたし寝るっ!!」
と,赤い顔してベッドに飛び込むゆみり。
「おーい,宿題ないの?」
「忘れてたっ」
また飛び起きる。なんか忙しいなゆみりは。
「えーと,えーっと」
カバンをごそごそ。横目に見えたのは教科書よりもスペースをとるおやつの袋。……授業中しょっちゅう寝てるぼくは人のこと言えないけど,ゆみりは学校に何しに行ってるんだろう……?
「あ,あった」
と,勉強机の上にノートを広げて何事か書き付けていく。……さて,その間ぼくは何してようか。
「あれ,すずちゃんは宿題しないの?」
「ぼく?ぼくは宿題出てないから」
これはウソ。あると言えばあるけど……明日茉莉花の(と,言うかあいつの親衛隊の)を写せば何とかなる。いやぁ,持つべきは友だよね。なんか違うけど。
「むー,ずるーい」
「ずるくないもーん」
さぁて,ゆみりが宿題終わらせるまで何してようか。下に行ってゆみりママと話すか…いや,もう遅いしな。ならばそこの棚の少女マンガでも……いや,まともに読み進められそうな気がしないからパス。そうなると……と,天を仰いだり机を睨んでは「あー」とか「うー」とか唸ってるゆみりを横目で見る。開いたワークのページはさっきから真っ白なまんま。これじゃ当分終わりそうにないね。……しょうがないか。
「ゆみり,手伝うよ」
「えっ,いいの?」
「さっきから全然進んでないじゃん。このままじゃ唸ってるうちにおばあさんになるよ?」
「なんないよっ!……でも,お願い」
「はいはい」
ゆみりの後ろからのぞき込むと,髪が一束はらりと肩に落ちて,さっきのシャンプーの香りが微かに香って,
「……すずちゃん?教えてくれないの?」
「あぁ,うん,今教えるっ……」
……やっぱりちょっと慣れないな,この距離感。




