お風呂上がり。
お揃いのパジャマに身を包んでキッチンに足を踏み入れると、
「あら〜いいじゃないのぉ〜」
ゆみりのお母さんがお玉を持って待ち構えてた。
「ママー、今日のごはんなーに?」
「今日はねぇ、カレーにしたわよ〜」
「わぁいっ、カレーだカレーだっ」
ふふっ、ゆみりったら、あんなにはしゃいじゃって。ほんとに食べることが好きなんだなぁ。
「カレーっ♪ カレーっ♪」
「ほらほらゆみり、落ち着いて」
「だってカレーだよ? カレーなんだよ?? 」
「はいはい分かったから。…………もう、そんなんだとお姉ちゃんとしての威厳無くなるよ? 」
「あうっ」
あ、止まった。
「あらら? ゆみりったら、まだ『お姉ちゃん』に憧れてたの? 」
「わー!? わー!? 」
「え、そうなの? 」
お母さんにそう言われた途端、じたばたと怪しい動きになるゆみり。
「そうなのよ〜、この子ったらちっちゃい頃から近所のお姉さん達に妹扱いされててね〜、よっぽど悔しかったのかしら、何回も『ママ、妹も出して! 』ってねぇ」
「わーーー!? 」
すっかりゆでダコになったゆみり。…………へぇ、これはいい事聞いちゃったぞ?
「ほらほら落ち着きなよ〜、ゆみり お・ね・え・ちゃ・ん・? 」
「うわーんっ! すずちゃんとママのバカー!」
あ、逃げ出した。
「あらあら、あの子ったら」
ころころと笑うゆみりのお母さん。なんだか楽しそう。
「……あれ、なんだか焦げ臭くないですか? 」
「あら? あらららら!? 」
慌てて鍋の火を止めるゆみりのお母さん。
「…………えーっと、カレーは無事ですか……?」
ぼくも恐る恐る鍋の中を覗き込むと、
「だ、大丈夫よ〜、カレーの具ははちょっとぐらい焦げた方が美味しいもの〜……」
「いや干上がってますよねこれ!? 」
まだルーは入れてなかったみたいだけど、水分はほとんど飛んじゃってて。
…………ほんとに大丈夫ですかこれ。
「うーん…………そうね、冷蔵庫にコーヒー牛乳があるから取ってくれる? 」
「あ、はい」
後ろにあった冷蔵庫を開けて、まだ口の空いてないコーヒー牛乳のパックを引っこ抜く。…………お、こんな所にプリンが。しかも「ゆみり」って名前がマジックで書いてあるし。
注ぎ口を組み立ててゆみりのお母さんに渡すと、
「なんとかこれで誤魔化せ……コホン、味が整うかしら? 」
改めて水を張った鍋で、野菜を転がしながら考え込んでいた。
「さ、最悪肉じゃがにしちゃえば……」
と口を挟めば、
「それはダメよ。ゆみりの前で、今夜はカレーと言っちゃった以上はカレーにしないと。ああ見えてワガママなとこあるし、それにゆみりはカレー好きだもの」
「あ、分かりますそれ」
元はと言えば、ゆみりのワガママでこうなっちゃったわけだし。
「ふふっ、どうやらあなたもゆみりのワガママに散々付き合わされてきたようね」
「ええ、こないだもぼくの食べてるものが美味しそうだからって、『分けて? 』って目で見てくるし。あと今日なんかも、ちょっと具合悪そうなのにお出かけしたがるし」
「へぇ、ゆみりがねぇ…………」
また深く考え込むゆみりのお母さん。…………って、
「お母さん、お鍋がっ」
「あら危ないっ、またやっちゃうとこだったわ〜」
「もう…………」
危なっかしいんだから…………
「ふふっ、それにしても、『お母さん』かぁ」
「ああっすいません、ついっ」
やべぇ、ついとっさに…………
「いいのよ」
ゆみりのお母さんの手が止まる。流石の3度目には、同時に火も止めた。
「ゆみりはいつまでもママ、ママって甘えてるから。母さん、なんて呼んでくれる人が居ると嬉しいわ♪ 」
「そ、そうですか…………」
そう言えば、ぼくも久しく『母さん』なんて呼んでないや。…………たまには家に帰ろうかな。
そんな感傷に浸っていると、
「あらいけない、なんで今まで忘れてたのかしら…………ねぇねぇ」
「あ、はい」
「あなた、名前は? 」
「あ、各務 凉って言います」
「そう、スズちゃんね」
「はい凉です。…………凉しいのほうのスズです、音は鳴りません」
「あらあらお上手ね」
えへへ、褒められちゃった。と、同時にぼくのお腹の虫も鳴く。
「そうね、そろそろご飯にしましょうか」
「すいません、お風呂ももらっちゃったのに……」
「いいのよ〜、このままゆっくりしてって♪ 」
と、下げた頭を上げられる。
「あ、そう言えばゆみりは……」
「ほっといても大丈夫よ〜、お腹が空いたら降りてくるから」
そんなもんかな…………?
「いや、一応呼びに行ってきます」
「あらそーお? ならゆみりの部屋は2階の右手だから行ってらっしゃい。荷物もそっちに運んでもらってるから」
「あ、じゃあ行ってきます」
…………大丈夫かなぁ、ゆみり。




