出しかけた手は。
結局、終点まで来ちゃった…………
「ゆみり、ほら降りるよ」
さっきから様子が変なゆみりを押したり引っ張ったりして、なんとかホームまで降ろす。はぁ一苦労、チャージ足りるかな…………
「……すずちゃん」
「今度はなぁに!?」
思わず怒鳴りつけると、ゆみりが怯える。
「…………なぁに」
「え、えと、お腹空いてない?」
「なに? おやつ欲しいの?」
こんな時でもご飯かよ…………
「そ、そうじゃなくて、」
「はいはいわかったよ」
やれやれ、今日はお金がよく飛ぶ日だな……
ゆみりのあとについて改札を抜ける。電子マネーのチャージはギリギリ足りた。
改札口から一歩踏み出すと、いつもとは違う寒さに包まれる。思わず身震いすると、すかさずゆみりが近寄ってきて……って、
「抱きつかないでよ、歩きにくい」
「ご、ごめんっ」
「いや逃げなくていいから……あぁもうっ」
強引に手を引っ掴んで引き寄せると、そのまま腕を搦めてがしっと固める。
「す、すすすすすずずちゃんっ!?」
もぞもぞすんなよゆみり…………こっちだって恥ずかしいんだからな…………
「…………寒いからあったまらせて。…………あと、さっきの仕返し。ゆみりよりちっちゃいし柔らかく無いけど」
あんなに嫌いだった膨らみを、今はゆみりの腕へとクッションみたいに押し付ける。
「す、すず、ちゃっ…………」
ゆみりが頭の芯まで真っ赤になるのを見て、少し力を緩める。……なんか、満足した。
「…………なんか、買うんでしょ?」
「…………う、うん…………」
駅前のコンビニの自動ドアをくぐると、足は自然とホットコーナーに向いていた。
「すずちゃん、肉まんとあんまん、どっちがいい?」
「……あんまん、かな」
「……わたし、も」
そう言っている合間にも、ホットコーナーの中身は入れ替わって、
「…………一つだけに、なっちゃったね」
「どうする?肉まんにする?」
「…………いい、すずちゃんと……半分こする」
「…………賛成」
あんまんの包みを受け取るとコンビニを出て、宛てもなく歩き始める。
「…………」
「…………」
お互いに無言のまんま、ふらふらとどこに行くでもなく足を進めていると、いつの間にか商店街に迷い込んでいて、
「…………人、多いね」
「うん……」
引き返そうかと声をかけて戻ろうとするけれど、流れの中にぼくらはもう飲み込まれていて、
「どこ、すずちゃんっ」
押し流されそうな人混みの中、離れないでとゆみりに向けて手を伸ばしかけて途中で引っこめる。…………ダメだ、届かない……
「すずちゃんっ」
小柄なゆみりがどんどんと離れていく。ぼくも流れに抗ってゆみりを追うけれど、人波を押しのける力はぼくにはなくて、流されるままに別れ別れになる。
や、やっと解放された…………
人混みを抜けると、いい感じの公園を見つけてベンチに座って一息つく。そうだ、ゆみりは!?
携帯を取り出してゆみりにかけようとしてハッとする。…………そうだ、ぼく、ゆみりの番号知らないんだった…………今から人混みに戻って…………いや、あの中から見つけ出す自信が無いし………………あぁもう、どうしよう…………
「ゆみり……」
空を掴んだ右手をぐっと握りしめる。左手には、人混みでぺちゃんこに押しつぶされたあんまんの袋。
「なんだこんなもんっ!!」
力いっぱいにあんまんの袋を地べたに叩きつける。…………こんなの必死に抱き抱えてて、肝心のゆみりの手を掴めなかったなんて…………そんなアホらしいことないよ…………
「どうすりゃいいんだ…………」
頭を抱えてうずくまる。…………ゆみりを失ってこの後どうしたら…………
「ゆみりぃ…………」
「すずちゃんっ」
「にょわっ!?」
驚きすぎてひっくり返る。………………ゆ、りっ!?
「よかった、すずちゃんいたっ」
「ゆ、ゆみり…………? 」
恐る恐る見上げると、確かにそれはゆみりで、
「もうっ、そんなに驚かなくたって。あんまんもおっことしてるし、パンツみえてるよ」
しゃがみこんでぼくのスカートを直してくれるゆみり。…………よ、よかった……
「ゆみりっ」
はっしと抱きしめると、
「す、すずちゃんっ、もう、大げさなんだからぁ」
せいっぱい背伸びしてまで、ぼくのことをよしよししてくれてるのが分かる。柔らかい弾力に押し包まれて一瞬気が遠くなりかけて、
「と、とりあえず座ろっか」
そそくさとベンチに戻るぼくだった。




